第26話 今さらパンツと言われても 8



「この人数で探しててもラチがあかないな。よし、二グループに分けるか」

「そうですね」


 佐久間たちは二つのグループに分かれた。


「まずチームA,俺たちのいかれたメンバーを紹介するぜ!」


 佐久間は仮想のマイクを持ったフリをしたまま、言う。


「ボーカルのレッドホークこと俺、そしてドラムのブルーオーシャンこと、会長! そして新木!」

「新木の違和感がすごいよ! 」


 新木は佐久間に言う。


「そっちは明日香と夏目さんと一宮の頼もしいメンバーだ」

「よろしくナ~」


 夏目が手を振る。


「じゃあ僕たちで別れて、情報を集めて来よ?」

「そうだナ。一時間後にまたここ集合で」

「らじゃ」


 二つのグループはそうして離散した。





「そういえば佐久間さん」

「なんですか新木さん、馴れ馴れしい」


 桜庭が突如として、新木に冷たい視線を浴びせた。


「え、な、なんでですか。さっきまでこうだったのに」

「私の佐久間さんです。桜庭さんの佐久間さんと呼びなさい」

「なんですか、その向かいのおばさんみたいな言い方」

「面白いじゃないか新木」


 佐久間が小さく拍手を送る。


「佐久間さん……私は……?」

「結梨、新参者をいじめるんじゃない」

「はい……」


 桜庭はしゅんとした。


「お二人はお付き合いされてるんですか?」

「え!」


 桜庭が挙動不審になる。


「佐久間さん! どうなんですか!」


 そして佐久間にすり寄った。


「待て! 俺は今は恋愛をする気はない! 断じてな!」


 佐久間はノーを突き付ける。


「こんな受験戦争真っただ中に恋愛なんてしょうもないことをやっている暇はない! 俺は大官僚になる男だ!」

「そうなんですか……?」


 新木が小首をかしげる。


「官僚になることだけが俺の夢だ。他は些事に過ぎない。大体高校で付き合ったって違う大学に行くことになって別れるに決まっている。高校で出来たカップルが大学まで続いている例を、俺は見たことがない!」

「まあまだ高校生だからそうですよね」


 新木はずけずけと言う。


「言うじゃないか新木。最初に会った時はあんなにもじもじとしていたのにな!」

「え……あ……す、すみません……」


 途端に新木は顔を赤く染め、下を向いた。


「責めているのではない! 褒めているのだ! その調子でいくといい」

「ちょっと恥ずかしくなりました……」


 新木は押し黙った。


「俺はな、新木、結梨」

「はい」

「?」


 佐久間は前を向きながら、言う。


「将来官僚になって、佐久間ハーレムを築きたいんだ」

「佐久間……ハーレム?」


 新木が眉根を寄せた。


「素敵です佐久間さん!」

「おかしいですよ! 絶対おかしいですって! なんですか佐久間ハーレムって!」


 新木が声を荒らげた。


「今は恋愛をする気はないが、佐久間ハーレムが出来るときが来たならば、君たちを佐久間王国に迎えてさしあげようか」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、そしてあえて言うならば、今は佐久間ハーレムのメンバーを募っているところだ」


 桜庭は目を輝かせ、佐久間の手を取る。


「い、いや、私は行かないですよ! なんですかその破廉恥な王国!」

「佐久間ハーレム万歳―――! 嗚呼、佐久間さん!」

「止める人がいないから滅茶苦茶だよ……」


 新木は渋々、佐久間の後ろをついて行った。


「あ」

「あ」


 追試帰りか、スカジャンのポケットに手を入れた三東が、そこにいた。


「おお、スカジャン」

「あ……あああ……」


 三東は顔を青くする。


「ゆ、結梨様ああああああああぁぁぁぁぁ!」

「え、えええええええ!」 


 そして、桜庭の前で、五体投地した。

 桜庭は冷たい顔で三東を見る。


「なんですか、あなた」

「ゆ、結梨様! 私! 私です!」

「消えなさい」


 桜庭は三東を見下げたまま、言う。


「あぁ! 結梨様! 今日もそのお瞳は冷たく冷酷で、私にはもったいない……」


 三東は感涙しながら、桜庭を崇める。


「佐久間王国に既に宗教が出来上がっている……」


 佐久間は震えながら、二人を見る。

 そしてそもそも桜庭が三東のことを認知していないことに驚いていた。


「おいスカジャン、お前ら知り合いじゃないのかよ」

「失礼な口を利くな! 結梨様の前だぞ!」

「失礼な口を利いているのはあなたです。佐久間さんに向かってなんて口の利き方してるんですか」


 桜庭は佐久間の袖を引っ張り、自分に引き寄せた。


「あぁ……すみません結梨様……どうぞ頭を踏んでください」

「嫌ですよ、汚らわしい。即刻この場から立ち去ってください」

「は、はい!」


 三東はすぐさま立ち上がった。


「ちょ、ちょ、ちょっと待てぇ! おい! 勝手に帰らそうとするな!」

「す、すみません佐久間さん……」


 佐久間は三東の袖を掴んでいた。


「え、な、何……?」


 三東は困惑の顔で佐久間を見る。


「お前、なんでここにいる?」

「え、えっと……」


 佐久間の問いかけに、三東は佐久間を見るべきか桜庭を見るべきか迷う。


「追試が終わったから帰ろうかな、と思って……」


 掛橋に続き、三東もまた、追試帰りだった。


「また追試……」


 佐久間は顔を曇らせる。


「そういえば惣斉はパンツが盗まれたんだったよな、結梨」

「はい、確かに」

「その犯人を止めるため、校内放送を流そうとさせた」

「その通りです」

「……」


 佐久間は考え込んだ。


「紙とペン」

「あ、はい」


 新木はメモ帳とシャープペンシルを佐久間に手渡した。

 

「新木、惣斉は追試に関して、何か言ってたか?」

「え、全然何も言ってなかったです」

「追試とは関係がない……? パンツが盗まれた……? 校内放送を流せ……」

「……」

「……」


 あたりが静まり返った。

 今まで起きた出来事を順に、書きだしていく。


「……」


 佐久間は、考え込んでいた。 





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