第25話 今さらパンツと言われても 7



「捜査の基本は実地検分に限る。お前ら、行くぞ」

「警察みたいだナ」

「素敵です佐久間さん!」


 佐久間は教室へと足を向けた。


「佐久間君のディテクティブモードって、探偵モードっていう意味なの?」

「ディテクティブ、日本語で探偵です。あってますよ、一宮さん」

「そうなんだ。今度から僕もエナジードリンク用意しとかないとだね」


 よし、と一宮は両のこぶしを握る。


「それにしても惣斉、あいつはどこに行ったんだ」

「体育館から出られてましたけど、どこなんでしょう……」

「全くマキキは迷惑かけるナ」


 夏目は昇降口へと向かった。


「どうやらマキキ、学校にはいるみたいだナ」

「追いかけてたら良かったな」


 佐久間たちは昇降口に来た。


「よし明日香、あれを」

「御意!」


 上峰は佐久間にルーペを手渡した。


「ビッグ虫メガネーーー!」

「捜査の基本は実地検分に限る!」


 佐久間はルーペを片手に、地面を調べだした。


「ねぇ、これむしろいつもの佐久間君よりレベルダウンしてない?」

「くそ! 床が汚い! 犯人の策略か!?」


 佐久間は床を這いながら証拠を探す。


「あれ~、おっかしぃなぁ」


 明日香は首をひねった。


「佐久間君、そんなところ調べても何もないよ! 早く行こ?」

「離せ一宮! 俺には……俺には声が聞こえるんだ!」

「ダメだよ上峰さん、全然僕の言うこと聞いてくれない」

「ヨルが人の言うこと聞かないのはいつも通りだナ」


 はぁ、と夏目たちは呆れる。


「あすあす、ヨルの目覚ましてきて」

「了解~! サクーーーー!」


 上峰は大きく跳躍し、


「そこにはなにもない!」


 佐久間の隣に着地した。


「危ないなぁ、明日香。そんなことはないぞ。これを見てみろ」

「?」


 佐久間の声に、一同がやって来る。


「十円だ」

「……」

「……」


 佐久間への信頼が、どっと下がった気がした。





 × × ×

 

 佐久間たちは人気のない廊下を歩いていた。


「惣斉~、いたら返事しろ~」

「……」


 返事はない。


「あ、あの……」


 教室から、一人の女子生徒が飛び出してくる。


「そ、そ、惣斉さんが……何かあったんです……か?」


 おどおどとしながら、佐久間たちに尋ねた。


「第一村人発見! それでは早速、インタビューをしてみましょう」

「迷惑かけるなよ、ヨル」


 佐久間はルーペを片手に女子生徒へと駆け寄る。


「あなたのお名前は?」

「え……あ、新木亜美です」

「出身地は?」

「新潟です」

「今日の朝ごはん、何食べた?」

「えっと……ご飯とお味噌汁を食べました」

「好きなスポーツは?」

「バドミントンです」

「好きな芸能人は?」

「と、特にいないです……」

「あなたの趣味は?」

「テレビを見ること……かもしれません」

「今、何問目?」

「え……えぇっと……七問目くらいですか?」

「終了――――――――――!」


 佐久間が終了の合図を鳴らした。


「新木さん、七問中七問正解です! おめでとうございます!」

「あ、は、はい!」


 新木は背筋を伸ばした。


「よし、じゃあ行くか」

「最重要参考人だろうが!」


 夏目が佐久間を蹴り飛ばした。


「ごめんナ、馬鹿が相手で」

「いえ、楽しかったです!」

「あははは、お世辞が上手いナ」

「あの!」


 一宮が前に出る。


「惣斉さんのこと、ご存じなのですか?」

「あ、は、はい、今日資料を運ぶのを手伝ってもらって……」


 もじもじと、新木は言う。


「やはり、俺の思った通りだな……」

「お前は先に行こうとしただろ」

「それで、惣斉さんがどうかしたんですか?」


 新木は心配そうに訊く。


「実はこれこれこういうことがあってだな」

「口頭でその言葉は何も伝わらないと思う……」

「惣斉が突然発狂したからその原因を探してんだよ」

「え、えぇ!?」


 助けてもらった手前、新木はより一層深刻な顔をした。


「だ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃなさそうな発狂具合だったからな。知ってることを教えて欲しい」

「は、はい!」


 新木は今日新木と惣斉に起こった全てを話した。


「なるほどな……良かったら俺たちのパーティーに入るか?」

「わ、私も協力したいと思います!」

「よし、じゃあこの列の一番後ろについてきてくれ」

「え、は、はい」


 新木は一番後ろに立った。


「なんかリュウクエみたいだナ」

「サクマハ デンセツノジュモンヲ トナエテイル」

「絶対やったことないだろヨル」


 佐久間はまた先に進みだした。


「……!」


 佐久間は不意に、立ち止まった。


「何かが来るぞ……」

「……!?」

「そんな突然ゲーム感出されても……」

「私佐久間さんの後ろがいいんですけれど」

「どうしたの!?」

「すごい皆さんテンション高いですね」


 それぞれが口々に言いあう。


 ガラガラ、と扉が開けられた。


「あーーー、追試駄目だったかもな~」

「やっちまったな~。また追試とかマジ勘弁だからな~」

「いやぁ、中々今回も難しい」


 大量の男子生徒が、教室から出てきた。


「放課後にこの人数の男たち……妙だな」

「確かに」


 佐久間たちは一列になって、男子生徒たちを観察していた。


「お」

「あ」


 掛橋が、いた。


「お~、佐久間」

「ガルルルルルルルル!」

「あははは、久しぶりに会った野良猫じゃん」


 掛橋は笑う。


「うぃ~」


 掛橋は拳を突き出した。

 佐久間も拳を突き出す。


「「おい、おい、おい、おい、おい~!」」


 二人で拳をぶつけ合い、挨拶をした。


「何してんだ、お前こんなところで」

「お前こそ何してんだよ、後ろに美少女ばっかり連れて」

「まぁRPGのパーティーメンバーは美少女を集める決まりがあるからな」

「ふっ……確かに俺のパーティーも美少女で固めたもんだぜ……」


 掛橋は長い前髪をかき上げる。


「俺から順に、勇者A、勇者B、勇者C、勇者D、新木だ」

「新木の違和感がすごいよ!」


 新木が声をあげた。


「なるほど。新木さんしか覚えられない」


 掛橋は最後尾の新木を見る。


「なんで放課後にこんなところから出てきたんだ?」

「くくく……このダンジョンは既に踏破済みだ。遅かったな、佐久間」

「クソ……俺が……俺がしっかりしてなかったがばかりに……」


 佐久間は膝をつく。


「佐久間さんの周りっていっつもこんな感じなんですか?」

「習うより慣れろだよ、新木ちゃん」


 新木の質問に、夏目が答える。


「いやぁ、今日追試があったからさ。数十分前までこの教室で追試してたんだけど、その答え合わせをこいつらとね」

「「「おいっす!」」」


 筋骨隆々の男たちがポーズを取る。


「なるほどな。あんまり関係なさそうだな、俺らと」

「佐久間たちは?」

「惣斉って女の秘密を探してる」

「知らないなあ」

「もう帰ってくれ!」

「いきなりだなぁ、全く……」


 やれやれ、と言いながら掛橋は帰った。


「無駄な時間を過ごしたな」

「佐久間君のせいだよ!」


 佐久間たちは再び歩き出した。


 



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