第24話 今さらパンツと言われても 6



「…………」

「…………」


 カタカタと、キーボードを打つ音だけがその場に響いていた。


「……」

「……」


 全員が同じことを考えながらも、誰もそのことを口にしなかった。


「佐久間さん」


 桜庭が話しかける。


「ん」

「どうして惣斉さんはあんなことをしたんでしょうか」


 惣斉の姿はここにはない。


「惣斉さんっていうの、その人?」


 上峰が会話に入ってくる。


「そうなんだけどなぁ……」


 佐久間もまた、気がかりだった。


「私も気になるナ」


 夏目もまた、同調する。


「佐久間さん、どうして惣斉さんはあんなことをしたんでしょうか?」

「やっぱりそれは惣斉に聞くしかねぇんじゃねぇのかなぁ」

「でも、惣斉さんは答えてくれませんでした……」

「答えたくない何かなのかもしれないなあ……あんなに気落ちしてたら」


 惣斉はとぼとぼと歩いていた。

 

「佐久間さん! 私たちで惣斉さんに何があったか解き明かしませんか!?」

「それ良いナ!」

「僕も賛成です」

「何か分からないけど私も!」


 上峰を筆頭に、夏目たちが立ち上がる。


「そんなことを言われても、俺は探偵でもなんでもないぞ」

「出来ます! 私の大好きな……私の憧れた佐久間さんなら!」

「憧れた……?」


 頬を赤く染める桜庭を、佐久間はいぶかしげに感じる。


「佐久間さん!」

「佐久間くん!」

「ヨル!」

「サク!」

「えええぇぇ……」


 佐久間は四人に詰め寄られ、


「はぁ…………」


 ため息を吐いた。


「じゃあ今日の仕事終わったら調べに行くか」

「さすがです佐久間さん大好きです!」


 そう言うと上峰は佐久間に抱きついた。


「やめろ! 今昼だぞ!」

「夜ならいいんですか?」

「夜ならいいよ」

「良いわけないよ!」

 

 一宮が桜庭と佐久間の間に入ってくる。


「もう、皆ちゃんと仕事してよ! 会長も!」

「じゃあすぐに終わらせましょう!」


 佐久間たちは協力し、二十分で仕事を終わらせた。


「佐久間さん! 終わりました!」


 桜庭が立ち上がった。


「はぁ…………じゃあ仕方ないな」


 佐久間は上峰に視線を送る。


「明日香、あれ」

「え…………ま、まさか!」


 上峰は佐久間の言葉に、肩を震わせる。

 

「まさかサク! あれをやるの!? 危険! 危険すぎる! そんな!」

「この状況じゃあ仕方がない……やるしかないんだ……」

「そ……そんな! サクの命が削られることになるんだよ!」

「それでもやるしかない……」


 佐久間は重い顔で言う。


「ど、どうしたんですか明日香さん」

「サクが……サクが……」


 わなわなと震えながら、上峰は会長に体を預けた。


「でも、やるっていうなら……仕方ないよね……サク」

「な、なにするの!? そんな危ないことになるなら佐久間君が頑張らなくてもいいよ!」

「ヨ、ヨル、何する気ナ!? 死ぬ気ナ!? 私を置いて死なせないぞ! 私が探偵になる!」


 夏目と一宮が佐久間をかくまうようにして、立ちはだかった。


「どいてくれ、二人とも。明日香」

「……」


 こくり、と頷いた上峰は佐久間に小瓶を渡した。


「……」


 プシュ、と爽快な音を立てながら、佐久間は小瓶を開けた。


「……ふっ!」


 佐久間は一息に、小瓶の中身を飲み干し、近くの椅子に座り込んだ。


「な、何!? 何これ!? 何したの!?」


 一宮は佐久間に駆け寄る。


「何を飲ませたんですか、明日香さん!」


 桜庭が思いつめた顔で上峰に詰め寄る。


「それは……」


 上峰は言った。


「エナジードリンクだよ」

「……」

「……」

「……」


「え?」


 夏目は素っ頓狂な顔をした。


「命を削るって言うのは?」

「エナジードリンクは飲みすぎると体に悪いから」

「それだけ……良かった……」


 一宮はほっと一息ついた。


「そしてサクは」


 佐久間は椅子から立ち上がった。


「エナジードリンクを飲むと、ステータスが変わる」

「……え」


 桜庭は佐久間を見た。


「エナジードリンク一本消費、佐久間ディテクティブモード」


 佐久間はカバンの中から、眼鏡をかけた。


「よし、事件の解決に奮闘するぞ、お前ら」

「ディテクティブモード……」

「エナジードリンクでモードチェンジ……」

「ゲームのキャラみたいだナ」


 佐久間は四人を引き連れ、生徒会室を出た。





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