第23話 今さらパンツと言われても 5


「とりあえず仕事しに……行くか?」


 佐久間はそう言った。


「ま、まあ取り敢えずはそうするしかなさそうだナ」

「そ、そうだね……」

「……」


 その場にいた四人は、ひとまず体育館を出た。


「佐久間さん……」

「ん」

「なんだったんでしょうか、一体惣斉さんのあの取り乱しようは……」

「……」


 佐久間は考えていた。

 惣斉がどうして取り乱したのか、何があったのか、分からなかった。


「でもパンツ盗まれたって言ってたしなぁ……」

「それにしてはおかしくありませんか? 盗まれたにしても、手を打つには遅すぎる気がします」

「そう言われればそうだけどなあ……」


 考えてみるも、答えは出ない。

 惣斉の行動がいぶかしげで、何を考えていたのか分からない、ということだけが分かった。


「あ、サクーーーー! おーーーーい!」

「ん」


 遠くの方で、女子学生の声がした。

 佐久間は反射的に声のした方を向く。


「おーーーーーい、サクーーーー! こっちだよーーー!」


 上峰が笑顔で、佐久間の方へと突貫してきていた。


「げぇ!?」

「私を受け止められるかな!?」

 

 そう言うと上峰は大きく跳躍した。


「ま、まずい! お前ら! 今すぐ俺を守れ! 夏目さんシールドだ!」


 佐久間は夏目を盾に、前に差し出した。


「ふざけるナ!」

 

 佐久間の読みは辛くも外れ、夏目は佐久間の腕からするりと抜けた。


「ヴ!?」


 そして佐久間は明日香の体を、一身で受け止めた。


「死ぬ……」


 佐久間はそのまま明日香をおろし、よろよろと体をよろめかせながら、その場に立った。


「おっす、サク兄(にい)! こんなところで何してんの?」


 上峰は片手をあげ、朗らかに挨拶をする。


「射的の訓練だ」

「おっ、いいね! バンバンバン!」


 上峰は猟銃を持つ構えをする。


「あ、この子この前の……」


 夏目は上峰を見、思い出したかのように胸を見た。

 佐久間は膝を打つ。


「そうそう、ぺちゃぱ――」

「「うらああぁぁ!」」


 上峰と夏目の殴打が佐久間にヒットする。


「さ、佐久間君、この人は……?」


 一宮はおずおずと尋ねた。


「ああ、こいつは俺の幼馴染兼荷物持ち、上峰明日香」

「こんにちは! 私サクの荷物持ちで~す! てへぺろ!」


 上峰はダブルピースで返事をした。


「なんだか佐久間君とテンション似てるね」

「だってよ。何とか言ってやれよ、夏目さん」

「ははは、ワロス」


 ごちゃごちゃと数人が話し合う。


「ん!」

「ん?」


 そのそばで桜庭が、佐久間の服の袖をつまんでいた。


「皆さんだけ盛り上がってずるいです……」


 桜庭は頬をぷくりとふくらまし、上目遣いで佐久間を見る。


「まあまあ」


 佐久間はあはは、といなす。


「ところで明日香、お前部活は?」

「あ~、今日雨じゃん?」


 上峰は外を見た。

 ぱらぱらと、雨が降っていた。


「やっぱ雨だから陸上室内で練習で、それでちょっと嫌気がさして出てきたっていうか」

「陸上部? だからあの跳躍力……」


 夏目はおとがいに手を当てる。


「そう! 見てよこの私の美しいプロポーション!」


 上峰はその肢体がよく映える、露出度の高い陸上部用の服を着ていた。

 一宮はとっさに目を背ける。


「あ~、目背けたんだ~可愛い~」


 上峰は一宮に近寄り、一宮の顎をくい、と自分に向ける。


「…………へ~」

「や、止めてください!」

 

 一宮は上峰から離れ、隠れるようにして佐久間の後ろに逃げた。


「佐久間君、僕上峰さん怖いです」


一宮は佐久間の背中に体を寄せる。


「そう、女子にありがちな奴だ。こういう女は自分の好みのタイプの女を見つけると途端に体をぶつける習性がある」

「ちょっとちょっと、人をモンスターみたいな言い方して!」


 ぷんすか、と上峰は言う。


「それにしても一宮さん、そんなに格好までして、可愛いんだ」


 上峰は佐久間の後ろの一宮を覗くように言う。

 一宮はより一層、佐久間の後ろに隠れた。


「まあ、陸上で疲れてたんだな。じゃあ俺らこれから仕事あるから、じゃあな」


 佐久間は適当にその場をまとめ、そのまま生徒会室へと行こうとした。


「ちょっと待ったぁ!」

「……?」


 四人は立ち止まる。


「何の理由もなく私がこんな所に来たとは、思ってないだろうねぇ」

「いや、思ってるよ」


 佐久間は頭に疑問符を浮かべる。


「さっき、いたいけな女の子がものすごくどんよりした顔でそっちからやって来てたのを見たんだぁよ。何かあったんじゃない?」

「そうなんだよなあ」


 佐久間は腕を組む。


「俺たちもよく分からないけど、とりあえず仕事をするか、って話になった」

「それ、私も参加する」

「え?」


 佐久間は桜庭を見た。


「ま、まあ人手がある分には、あればあるほどいいですけど……」


 桜庭はおずおずと言う。


「じゃあはい、決定。よろしくね、一宮さん、結梨ちゃん、あと~……」


 上峰は夏目を見た。


「まな板先輩っ!」

「お前もだろボケがあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 新たに、上峰がグループに加わった。





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