第21話 今さらパンツと言われても 3
カリカリと、教室でペンを走らせる音がしていた。
「……」
生徒会書記である惣斉が、自席で勉強をしていた。
生徒会の一員であるという矜持もあってか、惣斉は勉強をすることに事欠かなかった。
「……」
自身のおとがいにペンを当て、思案する。
「……」
そしてまた、ペンを走らせる。
「あぁ~……」
廊下で、人の声がした。
惣斉はつられ、そちらに視線を向ける。
「大変だよぉ~……」
大量のノートを運び、よたよたと歩いている女子生徒が、そこにいた。
「あっ……!」
女子生徒はよろけ、こけた。
「あっ……」
それと同時に持っていたノートが廊下に散乱し、女子生徒はその場で固まった。
「あぁ~もう……」
見ていられない、と惣斉は女子生徒の下へと駆け寄った。
「ちょっと何してるの、大丈夫?」
女子生徒の肩に手を置く。
「あ、す、すみません、ちょっと先生にノート運ぶように頼まれてて」
女子生徒はノートを開いながら、あどけない笑みを返した。
「女の子一人にこんな量のノートを持たせるなんて先生失格ね」
そう言うと、惣斉もノートを拾い始めた。
「あ、全然、全然大丈夫です! 私が頼まれた仕事なんで!」
「何言ってるのよ。こんなことになってるの見ておいて、ああ、そうですか、って放っておくことなんて出来ないでしょ。ほら、早く片付けるよ」
「あ……ありがとうございます!」
惣斉と女子生徒はノートを片付け始めた。
「あの……私、新木亜美(あらきあみ)です!」
「私は惣斉真紀」
二人は軽く握手した。
ノートを拾い終えた惣斉は、新木から半分受け取った。
「ほら、先生のところ持っていくんでしょ? 早く行くよ」
「え、でも下の階だからちょっと遠いんで、私一人で……」
「なーに遠慮してるの。ほら、行くよ。また転んだら大変でしょ?」
「は……はい!」
新木は嬉しそうに、歩き出した。
「全く……年は?」
「い、一年生です!」
「ふふ、やっぱり同じ。私も一年生」
「え、そうなんですか? すごい大人っぽいからてっきり先輩かと……」
「まあ生徒会でしごかれたからかなぁ~」
二人は仲睦まじく、自己紹介をした。
「お~新木、サンキューな」
職員室に着いた新木は、教師にノートを手渡した。
「先生」
「お……おう」
惣斉はぐい、と前に出た。
「女の子一人にあんな量のノート持たせるってどういう神経してるんですか!? 駄目でしょ、一人にばっかりそんな思いさせちゃ!」
「え……一人……?」
教師は新木を見た。
「いや、小塚にも頼んだつもりだったんだが……」
「はぁ?」
惣斉は新木の方を見た。
「あ、あの、本当は小塚君って人も頼まれてたんだけど、聞こえてなかったのか、行っちゃって、話しかけるのが怖かったからつい……」
「はぁ……」
惣斉は頭を抱えた。
「分かりました先生。でも先生はもうちょっと人を見て指示を出してください。先生でしょ?」
「お、おう……分かった分かった。次からは気を付けるよ」
「しっかりしてください。生徒会役員としてここはしっかりと怒らせていただきます。行くよ」
「あ、は、はい!」
そう言うと惣斉は新木を連れて職員室を出た。
「ダメじゃない、新木さん。男なんかに自由にさせちゃ駄目! ちゃんと言いたいことは言わないと駄目でしょ!」
「ご、ごめんなさい……小塚くん、怖くて……」
「まぁ、その気持ちは分かるけど……」
惣斉は心配そうな目で新木を見る。
「どけどけぇ~、邪魔だ邪魔だ~」
「え?」
新木と惣斉の下に、佐久間が歩いてきていた。
「え?」
「おう惣斉、調子はどうだ? 俺は見ての通り絶好調。今日も街のお散歩ウィークでお散歩してるところなんだけど、見知らぬ夏目さんに追いかけ回されて大変」
「見知ってるじゃん」
佐久間が惣斉の横を通り過ぎながら、言う。
「次回、佐久間、マグロ漁に出る! お楽しみに!」
「うるせぇ!」
「ちょっとちょっとマキキ、そいつ捕まえて~」
夏目が後ろから歩いてやって来る。
「また生徒会の仕事さぼろうとしてるんですか?」
「そうそう。廊下走れないから歩いて追いかけっこしてるんだナ」
「なんか楽しそうですね……」
惣斉は呆れた顔で二人を見る。
佐久間は後ろを振り返りながら言った。
「ばっかもーん! どこを見とる惣斉! そいつがルパンだぁーー! そんなことも分からんのか、このポンコツクソ野郎!」
「はいはい、ルパンルパン」
惣斉はあしらうように言い、佐久間と夏目はそのまま歩いて消えていった。
「……はぁ」
「あ、ごめんね新木さん。油断してるとあんな風に、あんな男に絡まれるから注意するのよ」
「愉快な人でしたね」
「はぁ~~~~~!?」
クスクス、と笑う新木に、惣斉は眉を顰める。
「あれがぁ!? 新木さん、あなた感性絶対おかしいわよ」
「嫌な感じがしなかったですよ?」
「いやいやいやいや、あいつの本性見たことないからそんなこと言えるの。あんなウザい奴、どっこも愉快じゃないし、本当喋るだけでイライラする」
「うふふ、惣斉さんも楽しそうですよ」
「違うから! マジで!」
惣斉は肩をそびやかし、言う。
「はぁ……」
そして虚脱した。
「まあ、私これから帰るから、また何かあったら言いな。これ、私のカオフのID」
「え、お、お友達になってくれるんですか?」
「当たり前でしょ。ほら、じゃあ私行くね」
「あ、ありがとうございます!」
新木は深くお辞儀をすると、惣斉は教室へと帰り始めた。
可愛らしい子と知り合えたな、と惣斉は少し頬を緩めた。
「惣斉さ~ん」
間髪入れず、惣斉の名前が呼ばれた。
「何?」
振り向くと、そこには一宮がいた。
「あぁ、一宮さん。どうしたの?」
「生徒会が大変なんだ!」
「えぇ?」
「生徒が体育館で喧嘩してて、誰も手が付けられないんだ。出来たら来てくれると嬉しいんだけど……」
「はぁ……今日は次から次へと……」
惣斉は荷物を置いてきた教室を瞥見した。
「すぐ終わる?」
「多分終わると思う。早くしないと、死傷者が出ちゃう……」
「出ないわよ。じゃあ案内して。すぐ解決するよう頑張るから」
「あ、ありがとう! こっち!」
一宮は体育館へと向かった。
「というか、会長とか佐久間はいないの?」
「二人とも今出払ってるのか、姿が見えなくて……頼りになる人を連れてこようと思ったんだけど惣斉さんしか思いつかなくて……」
「はぁ……もう、肝心な時にいないんだから」
惣斉は半ば文句を言いながら、体育館へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます