第20話 今さらパンツと言われても 2
「あ、そういえば佐久間くん、今日の追試受けるの?」
「追試?」
佐久間は一宮の疑問に、疑問で返した。
「追試って言うとちょっと語弊があるかもしれないんだけど、今日数学テストの点数が低かった人に補修があって、その補修の後テストがあるんだ」
「そうなのか。俺は九四点だったからないな」
「え~そうなんだ、佐久間くん凄いんだね」
一宮は両手の指の腹を合わせて感心する。
「点数まで言う必要あった?」
「そういう三東、お前はどうなんだ」
「私は追試だけど」
「ふっ……」
佐久間は鼻で笑った。
「あぁ! 笑った! はい、笑った! いっちーも追試なのに!」
「え?」
「う、うん、僕も追試なんだ」
「マジかよ……」
佐久間は半ば呆れ、半ば驚いた。
「俺はてっきり、お前は賢い人間なんだと思ってたぞ」
「あ、あはは、誤解だよ。僕はあんまり勉強ができないんだ」
「いっちー馬鹿だからな~」
「お前もだろ」
がはは、と三東は豪快に笑う。
「そういえば追試って惣斉さんのクラスでやるんだっけ?」
「あぁ~、勉強しないと……」
三東は頭を抱えだした。
「もっと計画的に勉強しろよ」
「あははは、また今度勉強教えてよ、佐久間くん」
「じゃあ私も!」
「年俸一億で」
「なんで一年中私らが補修受け続ける前提なんだよ!」
三東は佐久間を叩いた。
「あ、佐久間くん、もうすぐ授業始まるよ!」
「マジか。よし急ぐぞお前ら! 俺についてこい!」
「佐久間くん! そっち運動場!」
佐久間はすぐさま踵を返した。
× × ×
「ふう……」
放課後、授業を終えた佐久間は学校を散策していた。
「おう大地」
「……なんだ」
佐久間は浅いの下へと歩み寄った。
「今日補修あるらしいけど、お前は行かなくて良いのか?」
「赤点じゃない」
「なんだよ。今から帰るのか?」
「ああ」
「じゃあ俺も帰るわ。そこで鎮座しとけ」
「するか」
佐久間はカバンを取りに帰った。
「あ」
教室に帰ると、知らない女子生徒が佐久間の机を見ていた。
「そこ俺の机……」
「え、あ、すみません」
女子生徒はびくびくと怯えながら飛びのいた。
「俺の机と何喋ってたんだ?」
「え、喋って……え?」
表情一つ変えることなく言う佐久間に、女子生徒は慄く。
「そうかそうか。お前も面白い話してたんだなあ」
佐久間は机をよしよし、と撫でる。
「あんた、名は?」
「え、三木伊久美です」
「そうかそうか、俺は街中陽介、探偵さ」
「は、はあ」
女子生徒、三木は困り顔で答える。
「おい」
「おいおい、耳でピーナッツでも食ったのか、ブラザー」
「お前が遅いから来ただけだ。佐久間、周りの人に迷惑をかけるな」
「そんな言い方をしたら俺が毎回誰かに迷惑をかけてるみたいだろうが!」
「そうだろ」
浅井が佐久間の首根っこを掴む。
「止めろ! 違う、違うんだ! 三木伊久美、説明してくれ! ことの顛末を!」
「あ、は、はい。私が佐久間……さん? の机の周りにいたら、話しかけられました」
「なるほど」
浅井は佐久間を下した。
「俺の席にいるから何事かと思っただけだ」
「あ、そんなこと言おうとしてらしたんですね?」
「いや、見たことないやつが自分の机の近くにいたら驚くだろ」
「そ、そうですよね。私ってば、なんて失礼なことを……」
三木は焦りながら、前髪をなんどもつかむ。
「いや、あんたが謝ることじゃない。全部何もかも、こいつのまともに答えない姿勢が生んだことだ」
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
「こんな風に」
三木はぽかん、と口を開ける。
「あ、あはははははははは!」
そして目を弓なりにして、笑いだした。
「変な人ですね」
「なんでだよ」
佐久間は不服そうに唇を尖らせた。
「あの、私今日ここで補修があって、誰もいなかったんでもう先に座っておこうかと思って」
「なるほど、そのタイミングで俺が来たわけだ」
「はい。すみません、まだ荷物があったんですね。見落としてました」
「気にするな」
佐久間はぷらぷらと手を振った。
「でも補修って二組じゃないのか? ここ一組だぞ」
「一組は国語の補修なんです。私、あまり人の気持ちとかを察するのが得意じゃなくて……」
三木は再び前髪を触り、重力に従うように引っ張る。
「へ~、俺他人の心読めるから国語とか結構出来るわ~」
「いくつだったんですか?」
「九十八」
「え!」
三木は浅井と佐久間とを交互に見た。
「こいつは人格に問題はあるが、その他は問題がない」
「おいおい、何言ってんだ! 三木伊久美! お前からも何とか言ってやってくれ!」
「え……えっと、私今さっき出会ったばっかりです……」
三木はもじもじと体をよじらせる。
「でも補修ってクラスごとに違う科目のがあんだなあ。二組はちなみに?」
「数学です」
「へ~。国語と数学が両方補修になったら?」
「補修の日にちがずれると思います」
「なるほど」
佐久間はうなずいた。
「あ、あの、佐久間さんがまだいらっしゃるなら私はいったん帰ります。すみません、お騒がせして」
「ああ、大丈夫大丈夫。俺今から帰るから。俺の机、大切に扱ってくれよな?」
「あ、そうなんですか。ありがとうございます。大切に扱います」
「こいつの好物は鳥のささみだから。よろしくな」
「は、はい」
佐久間はそう言うと荷物を取り、浅井と教室を出た。
「いやあ、ビックリしたなあ」
「そうだな」
「お~い、ヨル~」
浅井が首肯したその時、後方から佐久間に声がかけられる。
佐久間は歩みを速めた。
「こらヨル、廊下を走るな!」
「走ってない! ちょっと早いだけだ!」
声の主には気が付いていた。夏目だった。
「おい佐久間、お前良いのか。生徒会の仕事か何かだろ」
「多分そうだ! 悪い大地、俺を置いてでもお前は先に行け! 俺の屍を超えていけ!」
「なら遠慮なく」
浅井は佐久間とルートを変え、即座に帰り始めた。
「くそ、あのアマ……」
佐久間は後方を振り返りながら、無事に逃げられるルートを考えていた。
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