第6話 変人ばっかじゃねぇか
「佐久間さん!」
翌日の放課後、会長がさっそく俺の教室へとやって来ていた。
会長が別の教室にやって来るという異常事態に、教室全体が俄かに騒ぎ出す。
「なぜ会長がこんな所に!?」
「会長……はぁ……はぁ……はぁ……」
「お慕い申し上げております!」
俺は会長に見つかる前に、ロッカーの中に隠れていた。
「あれ……浅井さん、佐久間さんはどちらに行かれました?」
「当然のように俺の名前を知っている……」
大地は怯えていた。
「佐久間はもう帰りましたよ」
「へぇ……」
会長は冷たい目で大地を見た。
さようなら大地、お前のことは忘れない。
会長はやぶさかに、教室を歩き始めた。
ひとしきり教室の中を歩いた会長は大地の下へと戻った。
「そういうことですか。なるほど、よく分かりました」
「……?」
大地は会長を前にして、視線を合わせない。
会長はロッカーへと、つまりこちらへと向かってきた。何故バレた!?
一歩、二歩、三歩。どんどんと俺との距離が詰まってくる。
ヤバい。殺される。
ホラー映画もかくやという勢いで、俺は汗を流す。
会長がロッカールームの前に立った。
ヤバい、殺られる!
「暑いですね、この部屋は」
会長はロッカーの方には目もくれず、窓を開けた。なんだ、暑かっただけか。
俺はふう、と胸をなでおろした。
「佐久間さ~ぁ~ん」
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
それはブラフ。会長はロッカーを開けた。
「お、俺を殺しても事件の解決にはならないぞ!」
俺はもう後退できないロッカーの中を必死で動く。
「うふふ、佐久間さんは面白いですね」
会長は俺を無理やり立たせた。駄目だ、俺の性質上何を言っても冗談だと解釈されてしまう。
「なんでここが分かったんですか、会長」
「ここが一番佐久間さんの匂いが強かったんですよ。駄目ですよ佐久間さん、すぐばれますよ」
うふふ、と笑いながら会長は言う。俺はそんなに臭いがするんだろうか。
「さあ、今日は生徒会に顔を出しに行きましょう、佐久間さん」
「あああああああああぁぁぁぁ!」
「佐久間さん、行きますよ!」
「助けてくれ! 大地、俺を助けてくれ!」
大地は胸の前で十字を切った。
「この裏切り者がぁ!」
ざわざわとざわつく教室を、俺は会長に連れられる形で後にした。
× × ×
「皆さん、ご注目下さい」
ばん、と生徒会室に入って来た会長は俺を片手に、そう言った。
「あ、結梨ちゃん、それが結梨ちゃんが言ってた、生徒会に入れたい人?」
「はい、そうです先輩」
生徒会室に入るや否や、飴を舐めたまま知らない女が言った。
「……え、誰スかこの人」
「その人は二年目の先輩、
「え? 先輩? せんぱ……」
俺は会長と夏目さんの胸を交互に見た。
「…………」
「ちょっと後輩君、来ていきなりだけど黙ろうか?」
「まだ何も喋ってないんですが」
夏目さんが額に青筋を立てたまま俺に怒る。
「だ・ま・ろ・う・か!」
「んぐ」
夏目さんは俺の口に、先程まで舐めていた飴を突っ込んだ。
「止めてください!」
会長がすぐさま飴を取り出した。ちょっと待って会長、そんなに勢いよくやられたらお口怪我しちゃうよ。
「没収です!」
「えぇ~そんなぁ~!」
夏目さんは悲しげな顔をする。
「佐久間さん、今度は私のも舐めてくれるんですよね?」
「あははは……」
会長は俺の耳元でこっそりと言う。私の飴って何。
「新しい人ですか? よろしくお願いします、
ジャージを着た女がお辞儀をする。丁寧な喋り方だ。
「へぇ~、よく知らないけどよろしく~。
もう一人のちゃらちゃらした女はスマホを見たまま適当に挨拶をする。
「というわけです。今日からこの佐久間さんにも生徒会に入って頂くので、皆さんよろしくお願いします」
「「よろしく~」」
こうして俺は生徒会に入ることになった。
「にしても変な奴ばっかりだな……」
俺はこっそりと会長に聞く。
「すみません、私が不甲斐ないばかりに……」
「いや、会長のせいじゃないけど別に」
恐らくここにいるのも生徒会の中でも一部なのだろう。
「基本、生徒会は何か学校の行事がある度に集められることになっているんですが、こういう風に何もない時でも来ても問題ありません」
「へ~」
え、じゃあ別に俺今日来る必要なかったんじゃ……?
「ですが、いち早く佐久間さんを紹介したくて……」
会長はもじもじとする。生徒会、本当に入りたくなかった。
「確か佐久間さんは官僚になりたいんですよね? 出来るだけいい大学に行きたいんですよね」
何で知ってるの。
「生徒会に入ってたら推薦が良いと思います。推薦で大学に行くなら、勉強量も少なめでいいですからその勉強の時間を他の勉強の時間に使えるんじゃないですか?」
「なるほど」
推薦なんて全く考えてもいなかったが、そう言われると案外良いのかもしれない。だが推薦を目指すと大学の推薦に力を入れることになり、落ちた時に普通の大学に入れる可能性が低くなりそうだ。
「普通に大学に入るために勉強するのも必要ですよね。ふふ」
エスパーかよ。
「それにただでさえ佐久間さんは最近試験の順位落としてますよね。四つ前は三位、それから五位、八位、一番最近のは十三位ですよね」
「……はい」
どうして知っているんだこの女。
「私は全国模試でも常に一位なので、佐久間さんに教えられることは沢山あると思います。出来るだけ佐久間さんのお力になれるよう頑張りますね」
こう聞くとなんだかメリットしかないように聞こえる。
全国模試でも一位だなんてふざけた天才に教えを請えば、普通に勉強するよりもいいかもしれない。
「生徒会は他にも業務があるので、今から教えますね」
会長は俺の手を引き、外に出た。
暫く学校の中を歩く。
「これです」
「?」
投書箱が、あった。
「この投書箱は私が設置するように決めました。生徒たちの声を聞くために設置したんです。他にも、生徒会室で随時生徒の悩みを聞いたり解決したりしています」
「へ~」
なんだこの生徒会。こんな女が率いているからどんな集団かと思えば、思っていたよりずっと真面目じゃないか。
「試しに見てみましょうか」
会長は投書箱を開け、中の紙を取り出した。三枚、入っていた。
会長は折られていた紙を開いた。
そこには、卑猥な絵のアップと、卑猥な言葉が書いてあった。
「……」
ぐしゃ、と会長はすぐさま紙を潰すも、時すでに遅し。
「ち、ちがちがちが、違うんです! そうじゃないんです! 別にこういうのが見たくて投書箱を設置したとかじゃなくて、別にこういうのに興奮するとか佐久間さんとのことを想像するとかじゃなくて、別にそうじゃなく、全然違うくて、違うんです! 誤解なんです! こんなこと滅多にないんです!」
会長は大慌てで両手を振る。
「会長……」
「ち、違うんですー!」
会長は顔を真っ赤にして、否定していた。
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