第18話-if-

「さて、リヴェル。」


突然呼ばれ、リヴェルは昔通り返事をする。


「はい」


「いやそこは『ああ』だ」


「え?」


リヴェルにはよくわからない。


「話し方も変えないとすぐわかる。君はこれから孤高の剣士リヴェルだいいね?」


「は……」


マスターの眼鏡が光る。


「ああ。マスターさん」


「さんはいらない」


「ああ、マスター」


うんとマスターは頷いた。


「まだぎこちないが、そのうち慣れるだろう」


どうだろうかと思うが、自分が会ったリヴェルも慣れていたので、いつかは慣れるのだろうと思うことにした。


「さて次は強さだね」


マスターは構えを取る。


「テストだ。かかってきなさい」


リヴェルは剣を抜く。宝玉から入手した魔力もあり、リヴェルの動きは速かった。だがマスターもそれを全て避ける。


「うん、合格かな」


リヴェルは疑問に思っていたことを聞いた。


「マスターは何故そんなに強い?」


「……」


マスターは遠い空を見上げた。


「遠い昔、いや未来かな? きみと同じように過去に飛ばされた若者がいた。それだけさ」


「……!」


リヴェルは答えに納得はしてないが確証を得た。


なるほど、未来人ならある程度予想や、予知が出来るのかもしれない。


「他に聞きたいことは?」


マスターがわざわざふってくれたので、リヴェルはもうひとつ聞く。


「その左手は」


マスターの左腕には常に包帯が巻かれている。


「これかい? やけど……と言っても信じてはくれないんだろう?」


「ああ、信じない」


「うん。構わないさ。そのうち知ることになるだろうからね」


リヴェルは最後の質問をした。


「その腰に掛けてるのは銃?」


マスターはあっさり頷いた。


「この世界にも銃があるのか」


「レア物には違いないがね」


質問を終えると二人は動き出す。


「どこに?」


「君の拠点をあげようと思ってね」


大陸を越え着いたのは森。


「この森は……!」


「知っているようだね」


コウル時代に初めてリヴェルと会った場所。迷いの森。


だが、今、この森はただの森に見える。


「この森は特別な森でね」


マスターに続き森を進むリヴェル。そして、そこにはいつか見た小屋。


「ここは私が使っていた場所だが、君に譲ろう」


「いいのか?」


「ああ、構わない」


こうしてリヴェルは森の小屋を入手する。


「さて、後は……」


マスターが魔力を集中する。すると森に霧が発生し辺りを包んだ。


「これで迷いの森の完成だ。迂闊に人は来れない」


そのままマスターは去ろうとする。


「待って……いや、待て」


リヴェルはそれを呼び止めた。


「しばらくはあなたに付いていきたい」


「ほう……?」


「まだ僕……いや俺はこの世界に詳しくはない。あなたに付いていけば、いろいろなものが体験できる気がするんだ」


「いいのか?」


マスターは問う。


「私に付いてくれば、君の言う平穏な余生は過ごせないかもしれないぞ?」


「だがエイナール様は言った。この過去で、俺やエイリーンを導けと。のこのこと余生を過ごすわけにはいかない理由ができた」


「そうか……」


マスターが頷き、リヴェルも頷いた。


「では行こうか」


二人は歩きだす。




それからのマスターとの旅は、リヴェルにとって想像以上であった。


毎日がモンスターとの戦い。ただ広い世界を回るだけではない。


その地の秩序を脅かすものの討伐。町の様子を見守る。


出会うたび、冷静に話しているマスターの大変さをリヴェルは知った。


「マスター、あなたはいつもこんなことを?」


「女神が関われない些事を、少しづつ解決してるだけさ」


その些事で毎日飛び回っていると思うと、頭が上がらなかった。


とある日、マスターがリヴェルを呼んだ。


「今日は依頼が多くてね。リヴェル、君にひとつ仕事を頼もうと思う」


「俺に?」


「ああ。なに、とあるモンスター群の討伐だ。君ならこなせるさ」


そう言うとマスターはさんは先に出ていってしまう。


「モンスターの討伐……ね」


だが、この時のリヴェルは想像していなかった。


その依頼がとてつもなく大変なものであるということを。




剣同士のぶつかり合いが響く。


「チッ……」


リヴェルの周りは多数のモンスターに包まれていた。


「グホホ。我輩らのアジトに単身、乗り込んで来るとは、愚かの極み」


モンスターのリーダーが笑う。つられて周りのモンスターも笑いだす。


リヴェルは最初、多数のモンスターも、一体ずつ撃破していけばいいと思っていた。


だが甘かった。その一匹一匹が、リヴェルに劣らない強さだった。


リヴェルは敵に次第に囲まれるように、リーダーの前まで追い込まれていたのだ。


「……」


「グホホ。自分の愚かさに声もでないか?」


「いや……チャンスは活かすものだ!」


リヴェルは一気に踏み込み、リーダーに迫る。


そして剣を叩きつける。


「な……!?」


「グホホ。残念だったなあ」


リーダーモンスターの腕が、リヴェルの剣を掴んでいた。


リヴェルはそのまま投げ捨てられる。


「ぐっ……!」


「そう簡単にいくと思ったか?」


リヴェルは起き上がる。そして咄嗟に呼ぼうとしていた。


「エイリーン……!」


だが、なにも起きない。起きるわけがない。


(そうか……エイリーンが死んでしまったから、契約も聖剣も……。いや、過去だからか)


リヴェルは、その場に座り込んだ。


「諦めたか?」


「……かもな」


リヴェルは既に諦めの中にいた。自分はエイリーンを守れなかった。いくら力を得てもそれは変わらない。


そしてその力もこんなところで終わろうとしている。


(いや、まだ終わらない)


リヴェルの脳内にマスターの声が響く。


(マスター? だが俺はもう……)


(君は生まれ変わったリヴェルだ。コウルではない。君は君はみたいな者を生まないために、生き、そして導かなければならない)


(導く……)


(そうだ。コウルとエイリーンを導き、自身のような悲劇を失くす。それが君の使命。君の存在だ。違うか!)


マスターの叱責にリヴェルは立ち上がった。


(そうだ……。俺はリヴェル。孤高の最強剣士、リヴェルだ!)


「グホホ? 諦めたのではなかったのか?」


「理由がある……。こんなところで死んでられん理由がな」


リヴェルは闇の宝珠を強く握った。


(宝玉よ……。俺はコウルを捨てる。もっと力を貸せ!)


闇の宝珠が輝きを放つ。


リヴェルの身体を闇の輝きが包んでいく。


「グホ!? なんだこれは!?」


リーダーは驚く。


リヴェルは息を吐いた。


「ふぅ……目覚めた気分だ」


リーダーはリヴェルの様子を見て叫んだ。


「グホ! お前たち、やってしまえ!」


モンスターの群れがリヴェルに迫る。


だがもうリヴェルに迷いはない。モンスターの攻撃を回避しては斬る。


「な、なんだ!? さっきと勢いが違う!」


モンスターたちは驚愕するが、そんな暇はない。次々と撃破され、残るはリーダー一体となった。


「グホ……、な、何者だ貴様」


「剣士リヴェル。貴様らを裁くもの」


先程と違う、リヴェルの速度。それが一瞬でリーダーモンスターを切り裂いた。




とある町の宿で、リヴェルとマスターは合流した。


「お疲れ様」


リヴェルはマスターを睨む。


「なにが『君ならこなせるさ』だ。死にかけたぞ」


「だが。こうして君はここにいる」


マスターは眼鏡をあげ直すと言った。


「君の真の覚醒を促したかった。この世界で、自分を導くなんてことをやるには、強さが、何者にも負けない意思が必要だからね」


「で、俺はあなたの試練に受かったのか?」


マスターは頷いた。


「もちろんだ。改めてよろしく頼むよ。剣士リヴェル」


マスターが手を出す。リヴェルはそれを握り返す。


ここにリヴェルは完全に誕生したのだ。


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