第21話
二人は朝早く目覚めると、さっそく北の大陸に向け飛び立つ。
「砂漠も寒かったけど、ますます寒くなってない?」
「北の大陸ですから。ほら氷の大地が見えます」
二人の前に見えるのはいかにも凍えそうな氷の大地。
「よし、ついた。っ!?」
コウルはエイリーンから降りた瞬間、足を滑らせこける。
「だ、大丈夫ですか?」
「う、うん……」
足元も滑る氷の大地。
二人はそこで、早速、神具を探すため動き出す。
「砂漠の時みたいに、また洞窟にあるの?」
「そのはずです」
二人は氷の大地を歩き続ける。
時にはモンスターと戦い、時にはなにもなくただ歩くだけで一日が終わる。
そんなことの繰り返しだった。
そしてはや数日……。
「全然、それらしき洞窟ないね……」
「大陸は広いですから、まだまだ先がありますよ」
しかしそれからさらに数日。洞窟はあったりしたが、無関係な普通の洞窟しかない。
町もなく、二人の食料もかなり減ってきていた。
「食料がなくなる前に見つけないとね」
「いざとなったら、モンスターを食べます?」
コウルは以前、ジンがモンスターを器用に捌き肉にしたのを思い出す。
「僕、モンスターを捌ききる自信がないなあ……」
「魚を捌くのと同じですよ。たぶん」
だが、コウルはなるべく、食べ物は町で買いたいと思った。
それからさらに数日間のこと。二人はついに町を見つける。
「ま、町だ」
「よかったですね、コウル。これなら食べ物も情報も手に入るはずです」
町に入る。そこは以前の町と比べると、なかなか人が多く活気があった。
二人は食料を確保する傍ら、神具がある洞窟の情報を探るが……。
「神具のある洞窟? う~ん。知らないなあ」
「神具? なにそれ」
特に情報が聞けなかった。
「全然情報ないね」
「おかしいですね。これくらいの町ならひとつくらい情報がありそうなのですが……。あっ」
エイリーンは一人の老人を見つけると、声をかける。
「おじいさま。わたしたち、神具のある洞窟を探しているのですが、何か知りませんか?」
老人はゆっくり振り向く。
「神具? ああ、知っとるよ」
「えっ、どこでしょうか?」
老人は真下を指差す。
「?」
二人は首をかしげた。
「この大陸の海中にはのう、この町の地下に繋がる洞窟があるといわれてのう。神具とやらはそこにあるとワシのじいさまから聞いたことがあるよ」
「ありがとうございます。おじいさま」
二人は礼を言うと、とりあえず宿を取ることにする。
「海中……かあ」
「盲点でしたね」
二人は考える。
「海中って、こんな寒い所で海に入るの?」
「どれくらいの長さにもよりますが、息も持つかわかりませんね……」
そんな時だった。先ほどの老人の声がする。
「おーい。お嬢ちゃんたち」
「おじいさま。どうかしましたか?」
老人は後ろに荷物を抱えている。
「これをあげようと思っての」
荷物な中には二人分の潜水服が入っていた。
「ワシの若い頃、亡きばあさまと使っておった服じゃ」
「いいんですか?」
「構わんよ。昔、漁で使ってた服だから、少し傷が付いとるかもしれんがの」
「あ、ありがとうございます」
二人はまた礼を言うと、支度するために宿に戻る。
「ほっほっほ。少年少女、ワシらの若い頃にそっくりじゃったわい」
老人は笑いながら家に帰っていくのだった。
次の日、早速二人は、一番近い海辺にいた。もらった潜水服を着て。
「さすがに、陸上だと動きにくいね」
「さあ、入りましょう」
海に潜る。潜水服のおかげで、海中も冷たくない。
「町の地下なら、あっちかな?」
「はい、行ってみましょう」
泳ぎながら、海中洞窟を探す二人。
そこに魚のモンスターが迫る。
「剣がうまく振れない……!」
海中、それに加え潜水服を着てるため、コウルは剣をうまく振ることが出来ない。
「わたしが!」
エイリーンが魔力弾を放つ。魚のモンスターはそれに当たり沈んでいく。
「さあ、行きましょう」
「うん」
しばらく泳ぎ続けると、そこには確かに洞窟があった。
「ここだね」
「おそらくは」
二人は泳ぎながら洞窟に入っていく。その後ろに別の人影が付いていっているのに気づかず。
「迷路みたいに入り組んでるね」
「ですが、町の方角ならおそらくこっちです」
エイリーンの進む方に、コウルは付いていく。
いくつかの道を抜け、水がない場所に出た。
「あっ、見てください、コウル」
水から出た二人の前には、台座があり、そこには兜がかざってある。
「これが、神具の兜……」
コウルが近づこうとした時だった。
「コウル、危ない!」
エイリーンが咄嗟に、コウルに飛び付いた。
二人のいた場所を弾がすり抜ける。
「魔力弾……!」
「誰だ!」
二人が振り向くとそこには……。
「ほっほっほっ。惜しかったのう」
潜水服をくれた老人がいた。
「おじいさま!? どうして……」
「エイリーン。ここにいて、しかも魔力弾を飛ばしてきた。これはーー」
「そう。悪いがお主らを利用させてもらった」
老人は笑顔を崩さずに言う。
「なぜ……?」
「なぜ……とは。もちろんその神具のためじゃ。ワシはな、若い頃からこの地を訪れ、亡きばあさまと一緒に神具を探しておった。じゃが情報はあれど、まったく神具にはたどり着けんかった」
「……」
「そして今、ワシの前に神具を探す少年少女がきた。ワシは何故か直感した。この者たちならワシを神具へ導いてくれるとな」
「じゃあ、なぜ、こちらに攻撃を!」
「導いてくれたのは感謝しておる。だが同時に悔しくなった。ワシはばあさまを失い神具にもたどり着けんかった。なのに貴様らは普通に今日だけであっさりたどり着きおった。まるで神の導きでもあるかのように」
(まあ、女神見習いがいるから……)
(コウル。それを言ってはダメです)
老人は笑顔を閉ざし、憎しみの目を向ける。
「じゃから! ワシはお主らを消し、神具を頂くことにしたのじゃ!」
老人は槍を構えると、二人に迫る。
「くっ!」
コウルはやむを得ず剣を抜いた。
「おじいさま、やめてください!」
エイリーンの必死の呼び掛けを、老人は気にもとめず槍を振るう。
「速い……!」
とても老人とは思えないほどの速度の槍をコウルは防ぐ。
「おじいさま……。っ!」
覚悟を決め、エイリーンもコウルを援護しようと、魔力弾を放つ。
「無駄じゃ!」
老人はすぐさま距離をとると、自身も魔力弾を放ち相殺する。
「ワシは昔は名の知れた冒険者だったのじゃよ!」
槍が再びコウルに迫る。
「おじいさん……ごめんなさい!」
コウルは女神聖剣を呼んだ。
「な、なに!?」
聖剣の光に老人が怯む。その一瞬で十分だった。
コウルと聖剣が老人を切り裂いた。
「おじいさま……」
「ふふ、嬢ちゃん。悲しむ必要はない。ワシは所詮、欲と憎しみに溺れた、情けないジジイじゃ……」
「そんなこと……」
エイリーンは横に首を振った。
すると、コウルが横から兜を持ってくる。
「おじいさん……。これが神具の兜です」
老人は驚きながらも、兜をじっくりと触った。
「ありがとう。少年……」
そういって、老人は消えていった。
「……」
「……エイリーン」
「大丈夫です、コウル。ただ……」
「ただ?」
「女神の導きが人を苦しめるなんて思ってなかったから……」
エイリーンは涙する。コウルはそれをそっと抱き締めるのだった。
「いろいろあったけどとりあえず……」
「神具の兜を手に入れましたね」
町に戻った二人は心を切り替える。
「次ぎは順番的に東の大陸ですか?」
「そうだね、行こうか」
二人は次の大陸に向け、飛び立つのであった。
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