第12話
ケンタウロスの矢に倒れたコウル。
塔にエイリーンの叫びが響きわたる。
エイリーンはすぐさま、矢を抜き回復の手を掲げた。
「コウル! コウル!」
ジンの時のように、魔力がすぐさま霧散するわけではないが、コウルの傷はなかなか塞がらない。
「こんな所で死んではダメです、コウル!」
エイリーンは手をかざしながら、必死にコウルに呼び掛け続けた。
「う……ん……」
コウルの意識は闇の中にあった。
「ここは……?」
闇の中をコウルはさまよう。
すると一筋の光が照らし、コウルはそこに向かう。
「これは、川……?」
その時、コウルは思い出した。
自分がケンタウロスの矢を受けたことを。
「じゃあ、これは三途の川……なのかな?」
川を眺める。コウルの足は無意識に川に進みだしている。
「僕、死んだのか……」
「いや、きみはまだ死んではいない」
その声にコウルは驚く。コウルの視線の先にはーー。
「ジン……さん?」
カーズに斬られ、死んだはずのジンがそこにはいた。
「ジンさんがいるってことは、やっぱり僕は死んでるんじゃ……」
「いや、まだ生きている」
川にいるジンは、自分を指差すと言った。
「ここを越えなければ、まだ生きれる可能性はある。気持ちを強く持つんだ!」
その言葉に、コウルは思い出す。
そうだ、ジンさんと約束した。カーズを止めると。
そして何より、今の自分にはエイリーンがいる。こんな所で死ぬわけにはいかない。
無意識に進んでいた足が止まる。
「ありがとうございます、ジンさん」
ジンに礼を言い、コウルは振り向く。
川を逆走し、元の場所へ走る。
それを見届けると、ジンは消えていった。
「っ……」
「コウル!」
コウルが目を覚ます。エイリーンは喜びで抱きついた。
「よかった。コウル……」
「エ、エイリーン、痛いよ……」
コウルは苦笑いしながら答える。
背中の傷はまだ完全に塞がっていない。
「す、すみません」
エイリーンはすぐさま、傷の治療に戻る。
「せっかく貰った服、早速穴開けちゃったね」
「これくらいならすぐ直せます」
エイリーンは傷の治療を終えると、そのまま服にも手をかざす。魔力の光に包まれると、服の穴は塞がっていた。
「べ、便利だね」
「この服だからですよ」
女神の力で編まれた服。コウルは服を改めて見る。
矢は刺さったものの、自分が助かったのはこの服のおかげかもしれないと。
「ありがとう。……って、エイリーンもボロボロじゃないか」
コウルは、エイリーン自身にも回復するように言う。しかしエイリーンは首を横に振った。
「この力は自身には使えないんです」
「え、そうなの?」
ゲームにある回復魔法とは違う。コウルは改めて思った。
「ここで、休憩していこうか」
「え、ですが」
ここまで来て、後はおそらく、カーズを止めるのみ。
休憩している余裕があるのだろうかとエイリーンは思ったが。
「エイリーンにも万全でいてほしいんだ。何があるかわからないから」
「そうですね。わかりました」
まだ、なにがあるかわからない。
二人は今のうちに休憩することにする。
「ぬ、塗るよ?」
「は、はい」
エイリーンの回復の力のおかけで、使うことのなかった薬。それを今、使っていた。
コウルは恥ずかしそうに、エイリーンの身体に薬を塗る。女性の身体にこうやって触れるのは、コウルは初めてであった。
恥ずかしさを誤魔化すためか、エイリーンが話しかける。
「コウル。あなたは元の世界に帰りたいですか?」
「え?」
何故今そんなことをとコウルは思う。
「どうなのです、コウル」
「それは……」
コウルは考える。自分は元の世界ではあまりいい思い出がない。しかし家族はいるし、少しは恋しい思いもあった。
「でも、今は、エイリーンと過ごしたいな」
少し照れつつ、コウルは言った。
エイリーンも照れるかと思いきや、真面目な顔のままだ。
「考えておいてほしいのです、コウル。もしも、元の世界に戻るか、この世界に残るかを決めるときが来たときのために」
「う、うん」
コウルは頷く。いや、頷かないといけない雰囲気があった。
それを見ると、エイリーンは普段の笑顔を見せる。
二人はそのままつかの間の急速を取るのだった。
「では、行きましょうか」
「うん」
二人は立ち上がると、再び壁を調べ始める。
今度は分断されないように二人一緒に。そしてーー。
「あ、この壁が怪しい」
壁の一ブロックを押す。すると天井から階段が降りてきた。
「詳しいですね」
「まあ、元の世界でゲームそこそこやってたから」
「げえむ?」
「元の世界にある遊具だよ」
そう言って、コウルは階段を上る。
塔の上は迷路のようになっていた。二人は塔の中をさまよい続ける。
そして怪しい道を見つけた。
「ここかな。行ってみよう」
コウルは道を進み、そして……落ちる。
「え、うわわっ!?」
「コウル!」
エイリーンが飛び込み、光の翼を出し、コウルの手をとる。
「ありがとう、エイリーン」
「いえ、でもここは……?」
二人は部屋の中央をみる。そこには、塔の雰囲気とは違う巨大な機械。
「これは……?」
「魔力砲だ」
機械の後ろからカーズが現れる。
「カーズ……」
「よく来たな」
カーズは不敵に笑う。
「なるほど。未熟なガキと、記憶喪失女が、ずいぶん成長したようだ」
「カーズ、あなたは何をする気だ」
「聞きたいか?」
そう言いつつ、カーズは機械を触る。
「こいつは魔力砲。魔力を貯めた砲台だ。これをーー」
カーズが天を指す。
塔のてっぺん。そこは空間が歪んでいる。そしてそこにはーー。
「あれは……地球!?」
元の世界。その星、地球が映っている。
「そう、これをここから撃ち込む」
「な!?」
コウルは驚愕する。ジンが言っていた、元の世界を滅ぼす手段。まさか、こんな方法だとは。
「だけど、こんな砲台で滅ぼせるわけが……」
「並みの魔力では、町一つ滅ぼすのが限度だろう。だがーー」
カーズはエイリーンを指差した。
「そこの女の膨大な魔力。それを手に入れたことで、この砲台は完璧になった!」
エイリーンは思い出す。女神見習いとしてカーズに敗れた時のことを。
「あの時……」
「そう。貴様の魔力は奪い尽くした。驚いたよ。その貴様がまだ生きていて、まだ、魔力を持っていたことに。だが、よかった」
カーズが剣を構える。
「また貴様の魔力を奪うことができるのだから!」
カーズは機械の横から跳躍すると二人に斬りかかる。
二人は飛んだままそれを避ける。カーズは落ちるかと思われた。
「貴様ら二人の魔力を最期に、魔力砲を発射する!」
カーズは壁にしがみつくと、そのまま壁を蹴り再び剣を振るう。
二人はかわしながら下に降りる。カーズは凄まじい身体能力で壁を降りながら斬りかかる。
そしてそのまま、機械の下まで降りてくる。
そしてコウルも剣を抜いた。
「あなたを止めます。カーズ」
「やれるものなら!」
二人の剣がぶつかり合う。
元の世界の命運をかけた一戦が始まった。
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