第11話

分断されたコウルとエイリーン。


それぞれの前に現れたのは、カーズの刺客なのだろうか。


だが、そんなことは二人には関係ない。お互いを助けたい思い。それだけで二人の戦う理由には十分だった。




コウルが剣を構える。ケンタウロスは弓を構え矢を放つ。


矢をかわしたコウルは、足に魔力を込め、一気に接近しようとする。


(弓矢なら、近接戦に持ち込めばーー!?)


コウルの予想より遥かに早く、矢の二発目が飛んでくる。


コウルはそれをギリギリでかわした。


「たいていの者は私相手に、接近戦を挑もうとする。だが無駄だよ、キミは近づけない」


ケンタウロスは素早く第三、第四と矢を放つ。


コウルはそれをかわすのに精一杯で、近づく余裕がない。


「ーーなら!」


コウルは右手に魔力を込めた。


魔力弾。コウルの唯一の遠距離攻撃。だが、それは軽々と避けられる。


そしてそのわずかな隙だった。


「っ!?」


コウルの足を矢がかすめ、その場に倒れこんだ。


「いてて……」


コウルがなんとか立ち上がると、ケンタウロスは言った。


「その足でまだ接近戦に持ち込む気か。それとも当たらない弾を投げるか。諦めるんだな」


「諦める?」


その言葉を聞き、コウルは笑った。


「何がおかしい?」


「ジンさんと約束した。カーズを止めるって。そして、向こうにはエイリーンがいる。僕の好きな人が。ならーー」


剣を構え直し、立ち直る。


「ーーこんな所で諦めるわけない!」


コウルの一喝が響いた。




エイリーンも苦戦を強いられていた。


ザ・ローズの蔦攻撃は激しく、エイリーンは魔力の壁で受け止めるしかない。


たまに魔力弾で反撃しても、それはまた蔦で弾かれる。


「……っ」


「ほらほら、その程度かい!」


蔦が迫る。エイリーンは右からきた蔦を魔力で防ぐが、すぐさま左からきた蔦に弾き飛ばされた。


「きゃあっ!」


それを見つつ、ザ・ローズは見下しながら言った。


「こんな小娘と、あっちの坊やがカーズ様を止めるねえ。この程度かい」


攻撃が止まったのをみて、エイリーンは立ち上がる。


「ジン様との約束。女神見習いとしての使命。そしてコウルのために、カーズを止めなくてはならないんです!」


「はん! なら少しはあたしに傷を負わせてみるんだね!」


再び蔦が宙を舞い、エイリーンに迫る。


エイリーンは慌てず、魔力を集中すると、全方位に魔力の壁を貼った。


「なにっ!?」


魔力の壁に阻まれ、蔦は全て弾かれる。


すぐさまエイリーンは魔力弾を連射した。


「!」


蔦での防御が追いつかず、魔力弾をくらうザ・ローズ。


「はあ……はあ……。やりました?」


魔力弾の衝撃で発生した砂煙が晴れる。


ザ・ローズはまだ生きている。そして……キレていた。


「小娘……。よくもやってくれたねえ!」


蔦が再びエイリーンに迫る。だがエイリーンも魔力の壁を全方位に貼り、蔦は全て弾かれた。


「無駄です」


「それはどうかねえ!」


壁で弾かれた蔦。そしてザ・ローズからさらに蔦が飛んでくる。その蔦は魔力の壁ごとエイリーンを覆い始めた。


「これは……!?」


「あんたはもう逃げられない」


魔力の壁ごと蔦に覆われ、エイリーンは出ることができない。


「ですが、このままではあなたも何もできません」


「そうかねえ!」


ザ・ローズが蔦を操る。蔦は魔力の壁ごと、エイリーンを持ち上げ始めた。


「そ、そんな……!」


「ほら!」


ザ・ローズが蔦を振り回す。エイリーンは魔力の壁で覆われているが、その魔力壁ごと、蔦はエイリーンを叩きつける。


「っ……!」


「いつまで持つかねえ!」


二度、三度、蔦を壁に叩きつける。


そして、ついにエイリーンの魔力壁が崩れた。


「ああっ!」


エイリーンは蔦に締め付けられる。


「終わりだね。小娘。そのまま絞め殺してやるよ」


(す、すみません。コウル……)


エイリーンの悲鳴が響きわたった。




「エイリーン?」


悲鳴はコウル側にも届いていた。


「どうやら娘も終わりが近いようだな」


「エイリーンは!」


「私と同じく、カーズ様の部下、ザ・ローズが相手をしている。今のところ悲鳴でわかっただろう。娘も終わりだ」


その言葉にコウルがキレた。


魔力を集中し走り出す。


「無駄なことを!」


ケンタウロスはすぐさま矢を放つ。コウルはまた避けるしかない。


(早く……エイリーンを)


キレているが、コウルの頭は冷静だった。


今すぐ、可能な限り早く敵を倒し、エイリーンのもとへ向かう。


そのために頭をフル回転させる。


(多少痛いかもしれないけど……!)


コウルは再び走る。ケンタウロスが矢を放つ。


コウルはそれを避けない。いや、ギリギリでかわす。


矢の雨が何本もコウルをかすめる。可能な限りギリギリで、多少の傷を我慢しコウルは突っ込む。


「うおおお!」


そして、コウルは剣を投げた。ケンタウロスの目前に剣が迫る。


だがケンタウロスはそれをあっさり避けた。


「投げるのは悪くないが、真正面からでは……!?」


「エイリーン!」


剣を投げた手に、再び剣が現れる。


女神聖剣。エイリーンと分断されているため、呼べるかは若干不安があったが、コウルの手には聖剣が出現していた。


「これで!」


持っていた剣を投げたと思い、油断したケンタウロスに、聖剣を掲げたコウルが迫る。


そして、その一撃は、ケンタウロスを切り裂いた。


「はあ……はあ……。終わりだね」


「ああ、見事だ」


ケンタウロスはその一言で倒れる。


だが、コウルはそれを見ている余裕はない。


エイリーンを助けるため、分断された壁に向かうと、聖剣を振った。




もう少しでエイリーンの意識がなくなる。ザ・ローズが笑っていた時だった。


壁が切り裂かれる。ザ・ローズは驚いた。


「まさかケンタウロスが敗れたのかい!?」


「エイリーンを返してもらう」


コウルは状況を見るや、すぐに蔦を切り裂く。


すぐさまコウルはエイリーンを受け止めた。


「大丈夫?」


「す、すみません……。コウル」


「ううん。遅くなってごめんね。」


二人を見て、ザ・ローズは怒る。


「イチャイチャしてんじゃないよ!」


蔦が迫る。コウルは落ち着いて聖剣を振った。


聖剣から放たれる衝撃が蔦を弾く。


「ここにいて」


コウルはエイリーンを下がらせると、一気にザ・ローズに接近する。


「速い!?」


ザ・ローズはケンタウロスほど早くなかった。コウルは聖剣を振り上げる。


「させないわ!」


ザ・ローズは最期の抵抗に全ての蔦を前面に集め防御する。


だが、聖剣の前では無意味。コウルの一撃は、蔦ごと、ザ・ローズを切り裂いた。


「ふん。さすがはカーズ様を止めようと言うだけはあるわね」


死に際にザ・ローズが呟く。


「でもね……あんたも終わりさ!」


ザ・ローズは悪あがきのごとく、コウルに蔦を巻き付ける。


コウルはすぐさまそれを斬るが、その一瞬だった。


「え……?」


「コ、コウル!」


コウルの背中に矢が刺さる。


切り裂かれた壁の向こうからケンタウロスが矢を放っていた。まだ生きていたのだ。


「……っ」


コウルが倒れる。それを見るとケンタウロスとザ・ローズは満足したかのように、先に魔力の光となって消えた。


「コ、コウル! コウルー!!」


エイリーンの悲痛な叫びが、塔の中にこだまするのだった。

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