僕たちは、珍獣ではありません


 月影げつえい柳桂りゅうけいがすっかり意気投合し、友達となったころ。

 月影たちの近くにいた数人の官吏が、会話を再開した。

「青家の者が、白家の者と仲良くしているぞ」

「おいおい。どういう風の吹き回しか?」

「わしにはさっぱりわからん…………」

 彼らは、ちらちらと、自分と柳桂に目を向けながら話をする。

 そんなに、珀本家出身の僕と、青宗家出身の柳桂の組み合わせはおかしいのですか……? 

 月影は、思わず首を傾げた。

 それに。

 ひそひそと言っているつもりかもしれませんが、こちらにもすべてしっかり、聞こえてますよ――――。

 月影は、それこそ声を大にして、言ってやりたかった。

 しかし、それができない彼は、隣にいる柳桂に話しかけることで、居心地の悪さをなくそうとした。

「…………なんか僕たち、注目されているね」

「まあ、仕方がないよ。簡単に言ってしまえば、品定めってところかな? でも大多数の人は、見学者、つまり野次馬やじうまだと思うよ」

 一種の救いを求めるように見た柳桂は、どこかひょうひょうとした口調で答えた。

「野次馬?」

 月影は、首を傾げた。

 それにしては、人が多すぎるように思えてならないが。

「そうそう。野次馬がこんなに多いから、大極殿だいきょくでん前の広場での謁見になったのだろうし。本来なら、外国からの使節団や四神宗家の当主との謁見が行われる、宣政殿せんせいでんでするものだろう。まあ、仕方がないよ。もともと、朝廷ここはただでさえ、娯楽が少ないからね。みんな、何か楽しい話題が欲しいのさ。だから少しばかり、話のネタになることは、覚悟しといたほうがいいと思うよ」

「そ、そんなぁ~~」

 あまり知りたくない現実を思い知らされたような気がした月影は、頭を抱えたくなった。

 何だよそれ…………。

「まあ、あきらめなさい。ここに来た以上、これくらいは当たり前だと開き直った方が、楽になるよ」

 柳桂は、どこまでもさばさばとしていた。

 こんな衆人環視の状態でも、冷静に物事を観察し、考察できるらしい。

「柳桂…………」

 月影は、そろりそろりと、下から上に首を上げた。いっそ清々しいほど涼しい表情をした柳桂の顔を、恨めしそうに見上げる。

「ん? 何だい?」

 それに、柳桂は何かと問いかける。

 月影は、素朴な疑問を投げかけた。

「なぜ君は、そんなに落ち着いてられるの?」

 そんな月影の言葉に周りを見渡しながら、何てことはない、という風に、柳桂は言った。

「それはねぇ…………。慣れているのさ。注目されることに関してはね。もともと僕は、青宗家当主の息子だから、必然的に表舞台に出ることも、多くなる。まあ、こういうのもある程度場数を踏めば、その内慣れてくるもんだよ」

「そうなんだ…………」

 聞くんじゃなかった…………、と月影は思った。それは、僕には一生達することのできない境地であろう。

 事実、かなりよゆうな顔をして、周囲を眺めている時点で、柳桂に勝てるわけがない(別に勝負をしているわけではないので、構わないが)。

 心なしか落ち込んで、がっくりと肩を落としているように見える月影のことが、気の毒になったのだろう。

 柳桂は、月影にあることを確認した。

「君は…………。確か、四斎家しさいけの珀本家の出身だっけ?」

「? …………はい、そうだけれど」

 月影、いきなりの問いに、頭に疑問符を浮かべながら答える。

「なら、良い意味でも、悪い意味でも世間慣れしていないね。どちらかといったら、こんな公の場に出るのも、初めてだろう? ここも一種の、社交の場だからね~。初めてさんには、少しばかり、大変かもしれない」

 そこまで言い切ると、柳桂はいたずらっ子のように笑った。

「………………が、がんばります?」

 月影は、とてつもなく落ちこんだ気持ちを何とか上向きにしようと、努力していたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る