いよいよ、王宮の中へ

 

 月影が王宮の正門・承天門しょうてんもんをくぐると、瑠璃瓦るりがわら(花国では、女王の宮殿以外、何人なんぴとも使ってはならない、特別な瓦)の大きな建物が見えた。

 そこでは、先ほどの案内人よりも高位だと思われる数人の官吏が、月影のことを待っていた。

 月影は、彼らに連れられて、王宮を歩き始めた。

 彼らは、一言も話さず、ただ足早に王宮の奥へ進む。月影は、大人たちの足についていこうと、自然と駆け足気味になった。

 何か、急いでいるのだろうか? 月影はふと、そう思った。

 実は、王宮や宮城は、徒歩で移動するには広すぎるほど、大きい。そのため、のんびり歩いていたら、時間通りに目的の場所に着けないのだ。

 だから、官吏たちは自然と早足で移動することが基本となっている。

 そんな官吏の常識は知らない月影が、何とか彼らについて行っているうちに。

 一行は嘉徳かとく門を抜け、大極だいきょく門の前にやって来た。

 その門は、月影が今まで通ってきた門とは違い、閉じられたままであった。

 月影の先導していた官吏の一人が、門番の衛兵と何やら話している。

 しばしお待ちを、と言われ、その場で待機していた月影は、高い塀で囲まれた大極門周辺を、物珍しそうに眺めていた。

 月影の通行許可が取れたのだろう。

 門番と話していた官吏が、月影のもとに来て、こう告げた。

「月影さま。入場の許可が出ました。ここまでの道中、本当にお疲れ様でございました。この門の先に、女王陛下との謁見の場が設けられております」

「…………わかりました。ここまで案内してくださり、ありがとうございました。珀氏月影、行って参ります」

 月影は、感謝の気持ちを込めて、拱手をする。

 そんな少年の姿に、彼らは頭を下げた。

「ええ。どうか貴方あなたさまの未来が、輝かしいものでありますように」

「はい。ありがとうございます」

 月影は、自分の行く末を寿いでくれた彼らに、もう一度礼を言うと、大極門の前に立った。

「四斎家が一つ、珀家ご令息、珀月影さま。ご入場にございます」

 衛兵の一人が、月影の入場を高らかに告げる。

 彼の目の前の大きくて重厚な扉が、ぎぎぃーといって開かれた。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る