五つの盟約
一方。
反撃とばかりに再び抗議を始めた
「月影。そなたは、何を申しておるのだ?」
よもやそなたに、選ぶ権利があるとか思っておるのではあるまいな。ん?
そんな、
単純に抗議してもダメだと悟った月影は、作戦を変えてみることにした。少しだけ、しおらしく、戸惑いを隠せないような口調で話してみる。
「ええっと……でも僕はまだ、十三になったばかりですよっ?! そんな急に
「まあ、そうだろうな。わしもそう思う。しかし、そなたはこの珀本家の子息、
ここぞとばかりに、黄王家と
月影は、何となく祖父は
そんな彼の祖父は、あともう一押しとばかりに、こう言葉を重ねた。
「それに…………これは、
「数少ない盟約の一つ? ああ、五つの盟約のことですか」
月影は、ほぼ反射的に答えていた。あれのことか、とすぐに記憶をたどる。
「そうだ。
わかったなと言われても、はい、そうですか、と素直にうなずけるものか!
心の中で、素早くツッコミを入れた月影は、すぐに五つの盟約の詳しい内容について思い出す。確か、正式名称は『黄王家と四神宗家に結ばれし五つの盟約』だった。
それは、はるか昔、黄王家と四神宗家の間に結ばれし約束――――それも決して
"黄王家と四神宗家に結ばれし五つの盟約"
一つ、四神宗家およびその一族は、宗家の名に負う四神を、大切に
一つ、四神宗家およびその一族の者は、
一つ、四神宗家およびその一族は、女王または女王の後継者の婿候補または許婚を差し出さなくてはならない。
一つ、四神宗家およびその一族は、何人も
一つ、四神宗家およびその一族は、何人も、私利私欲のために権力を行使してはならない。もし、行使されていると認められれば、いかなる権力・権限も無効とする。
「そなたも知っている通り、この五つの盟約の中に、女王または女王の後継者の婿候補か許嫁を差し出せというものがあったな」
「…………そうですね」
月影は、しぶしぶ同意するしかなかった。
ちなみに、月影は幼い頃から、珀本家の子息として貴族の心得を骨の
だから、知りませんでした、なんて言うことのできるはずもなく。
「わかりました。事情はよぉ~~くっ、わかりましたっ!」
月影は、ようやく認めたくなかった事情を認めると。
大きく息を吸った。
そして。
「それでもです! 何で僕が行かなくてはいけないのですか! 本当の本っっっっ当――にっ、僕以外に行けそうな人は、誰もいないのですか!」
月影は、もう一度抗議の声を上げた。いくら頭で納得していたとしても、そう簡単に引き下がるわけにはいかないのだ。たとえ、その言いつけを、覆すことができなかったとしても。
それに。
まあ、取り敢えず月影を行かせるか。わしの孫息子だから、いいよな。くらいの気持ちで選んでいたら、本気で許さないぞ。
さらに。
もし他にも行けそうな人がいたら、その人にこのお役目を押し付……ゲフンゲフン、丁重にお願いしたい。むしろ全力で、譲りたい。
そんな月影の願いもむなしく。彼の祖父は首を横に振った。
「それがな………………白宗家のご当主さまの許可をいただいて、白宗家および珀本家、その他の分家のすべての家系図を徹底的に見直したり、当家の手の者にもずいぶん探させたのだが……………………おらなんだ」
「ええぇ~~~~、そ、そんなぁ~」
月影は、今日一番情けない声を上げる。
「お願いしますよ、お祖父さま。
月影は椅子から立ち上がった。祖父のそばまで移動すると、なりふり構わず彼の
まるで気分は捨てられそうな子犬のようだ。
「そんなことを申されてもな…………。おらぬものはおらぬし。それにな、いくら八歳から十八歳までの四神宗家の血を引く
よもやそなたは、自分の身代わりに、かわいい弟を差し出すつもりではなかろうな。ん?
うぅ〜、な、何て卑怯なんだ、お祖父さまは。
そこまで言われてしまったら、何にも言い返せなくなるではないか。
月影は、ぐっとおし黙る。
そこを、珀本家の当主は、見逃さなかった。
「わかったな、月影。もう一度言うぞ」
そう、有無を言わさぬ強い口調で、珀本家の当主は短く命じたのである。
「王都へ行け。これは、珀本家当主の命令だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます