目田波駄目男の体験 

 よく見ると、他に鈴木と佐藤がいる。いや、いた。しまった、手を縛られていた、逃げられない!

 鈴木は、「ガマンできない…」とか言っている。佐藤は、「あんたガマンしたことないでしょ…」と言っている。なんだこいつら。ぼくはどうでもいいのか。

 いつの間にか、佐藤と鈴木は、互いの舌をしゃぶり合っている。いやむしろ吸い着き合っている感じだ。なんと不潔なんだろう!ぼくにこんなものを見せるために呼んだのか…

 それにしてもこいつらはすごい。最初は、佐藤が攻めているように見えた。佐藤が舌を撞き出し、鈴木の口に突き刺す。適当に引っこんで唇のまわりを嘗め回すと、今度は佐藤が攻め入る。そんな動きからの、マイナス距離射撃だ。ぎゅるぎゅる回るようにも見える舌はまるでエンジンか何かのようにも思えた。こうなるともう、どちらがどちらだか区別できない、見ているだけでは。すごい。


 気が付くと、後ろに回った田中が、ぼくの胸をまさぐっている。ひどい!乳首を狙ってつまむなんて、いやらしいことをする。許せない!横からは、ねちょねちょぐちゃぐちゃと聞こえてくる。田中の髪の毛からは、ふしだらな臭いがする。ぼくの視線のすぐ前には、後ろから突き出された田中の首筋が見えている。いやらしい。田中は男根の方に手を伸ばしてくる。メタファーじゃない。本物だ。

「あんた、やっぱり反応が面白いよね。ちゃんとおっきくなってるし。ふしだらねえ。」

 面白いかどうかなんてぼくは知らない。いいから放せ。ぼくはふしだらじゃない。でも何も言えない。どうしたらいいんだ。ついに田中は、むりやりに僕のパンツを脱がせた。


 ウッ!


 佐藤は、「はやっ!」と笑う。鈴木は、「ためすぎなんだよ。」と罵る。さっきまで欲しがっていたくせに、田中まで「イカくさーい。」と哂っている。そして三人は、「きんもーっ☆」と声を合わせた

 こいつらはこんなことばっかりしているのか…ぼくが必死で戦っているというのに、なんとけしからん、なんとはしたない!これではどんな実績も掻き消されてしまう。


「何やってんの…」


 そんなとき、外から声がした。聞き覚えのあるふしだらな声だ。仲間に入りたいんだろうか。あっ、湿田だ。湿田は、倉庫に入ってきた。

「ちょ…あんたたち…」

 湿田は何か言いたそうだ。

 鈴木は「何か?」と答えている。それだけじゃない。田中に至っては

「あんたも池池たちとそこら中でいろいろしてんじゃん。」

とか言っている。佐藤が追い討ちをかける。

「それと比べたらこれくらい…」

 湿田の困り顔は、なんだかやけに見覚えのあるものだった。

「いこっ。」と言った鈴木に続いて、他の二人も白けた顔で去っていった。


 湿田だけがそこに残った。

「縛られてるんだ…たいへんだね。」

 そうだ、大変だ。こんなことになるなんて。いや、こんなことはなかった。何もなかった。あってはいけないからだ。

 ぼくは何もされていないし何も聞いていない。それでいいんだ。ぼくの正義はそうすることで守られるんだ。

「でも足が空いてるよ。自分で逃げたらいいのに。」


 あ…そうか…


 それにしても気になる…いや、何も見ていないし聞いていないんだ。だから何も気にならない。


 その頃、結託したあの集団は、密談を重ねていた。

「作戦はうまく進んでいるでござる。」と小田が言えば、藻江が

「ドゥフフフフ…他にも同士がいるらしく、なかなか効いているでござる。」と付け加える。そこに土木曽が苦言を呈する。

「結構効いてんのは確かだけどさあ、あいつ、まだ平気だろ?」と。池池も続く。

「もっとこうガツンと行ってやりてえよな。」

「さらって埋めるか?」

 尾羅はいつもの通りだ。土木曽は微妙な表情で、落ち着かない。

「このままじゃおさまりがつかないんだよな…」


「面白ぇ話、してんじゃん。」

「アニキ!」

 土木曽たちにアニキと呼ばれる者が、不意に現れた。アニキはそのへんのちんぴらである。何をやっているのかよくわからない、まあ、その、要するにちんぴらだ。アニキは、土木曽たちに問う。

「で、どうする?」

「うーん…」


 土木曽は、思い付きを口走った。

「やっぱ攻め落とすしかないっすよ。」

「攻め落とす?」

「あいつの家を近所ごと焼くとか。」


 土木曽は空想した。命令すれば、「ヒャッハー!汚物は消毒だ~!」と誰かが火を放つ。真魚座枝村団地は燃え上がり、それはもうものすごい勢いで燃える。住民は消し炭になる。だから、目田波が求めた完全に健全な町になる。人間はそこに誰もいないのだから!

 そのとき、「これが究極の環境浄化だよな!」とアニキは笑い、土木曽は「スッキリしたぜ!ヒャッハー!」と叫ぶ。池池も「やったぜ!」と大喜びする。尾羅だけは、「埋めてもよかったな。」とか言いそうだ。あと、小田と藻江は、「これで拙者たちも邪魔されないでござる。」「フヒヒヒヒヒヒ…」みたいな感じだろう。


「そうか、そりゃいい、バッチリだな、ははは!」

 一同も、アニキに釣られ、「あはははは!」と笑った。

「って馬鹿、捕まるわ。死刑になるわ。」


 土木曽たちの出任せは続く。次は尾羅の番だ。

「じゃあ…さらって埋める?」

「そーだなー、やっぱそれが手っ取り早いか。」

 小田は突っ込む。

「ひねりがないでござる。設定が不十分ではくぁwせdrftgyふじこ…」

 何を言っているかわからない小田を放置して池池も口を挟む。

「てゆうか、バレたらやべえよ。」

 土木曽は考えた。

「そうだな…あんまりヤバいのはアレだな、アレ。」


 今度は池池の番だ。

「エロ本が多い本屋とか、あのへんに作ったら、楽しいっすよ。」

「ちょうどいい…本屋を始めたがってるヤツがいる。そいつはエロ本が大好きでな。」

 アニキは、朗報をもたらした。土木曽も納得している。

「ヤツらが嫌いなものがすぐそばで売られるわけか、こいつはいい。」

「拙者も賛成でござるハァハァ」

「悪くねぇよな。おれんちも近いし。」

 …と、小田と尾羅も賛成している。藻江はそこに加える。

「二次元ものも充実させてほしいでござる。」

 土木曽は思った。これはいけそうだ。最後のよくわかんない意見はともかく。いける、必ずいける。だがアニキは念を押す。

「つっても、明日とかじゃ、無理だぜ。先の話だ。」


 結局、土木曽の考えは、わかりやすいところにまとまった。

「やっぱボコっとくくらいっすかね…」

「まーそんなもんだよなー。どんなノリでいっちゃうかなー。」

 アニキは、話を詰める気でいる。やはり玄人だ。

「スケを使って人質でも取った感じにしたら、どうっすかね。」

「あー、そのまんまさらって埋めるくらいまでオッケーだわ。」

 池池と尾羅も、勝手なことをほざく。


「ただ呼んでも来るとは限らねえし、それで行ってみっか……」

 土木曽は池池の案を基にしようと決めた。アニキは、妙に安心していた。

「じゃ、オレらが出張るまでもねえなあ。」

「ああ、すんませんアニキ!」

「ああ、あと、使える場所は後で伝えてやるよ。たしか廃工場があったわ。」

「ありがとうございまっス!」

「がんばれよ。」

「はいッ!」


 いつものように綱紀粛正に励んだ帰り、下駄箱に手紙が入っていた。人質を取った、ついては19時…今から2時間後に三丁目の廃工場まで来いと書いてある。人質を取るなんて卑怯なやつらだ。仕方がない、行くしかない。よし、すぐ行ってみよう。

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