目田波駄目男といろんな本
土木曽は、わざとらしく「アッー!」とか言っている。
鈴木は、「きんもーっ☆」と聞こえるように言う。
湿田まで、「うわぁ…」とか言い出した。
「どうしてこんなものがッ!」
湿田は、「確かに…目田波は目の敵にしてるもんね、」と言う。味方面をするなんて、大した策士だ。でも担任も納得した。
「それもそうだ…目田波の机に誰かが入れたんだろうな。預かっておく、持ち主は後で取りに来なさい。」
こういうことなら放置しておこう。悪のたくらみを暴くのは、またこんどでもいい。
◇
そのとき土木曽が「チッ……」と声に出したのは、あまり気付かれていないようだった。
小田は、「次の機会を待つでござる。」と声をかけた。
◆
そして翌日。また朝のホームルームの時間になった。
「はいそれじゃあ今日も持ち物検査をしますよー。机の中のものを出してー。」
面倒だが正義のためだ…先生もがんばっているんだ…あれ?今度はなんだ、噂の同性愛雑誌じゃないか!本物は初めてだよ!メタファーじゃない本物だ!
土木曽が「ウホッ!」と、佐藤が「きんもーっ☆」と、湿田が「ハァ…」と言うのが聞こえた。
「どうしてこんなものが!」
「目田波…毎日お盛んなものが出てくるな。お前も少し成長したか。それはそうと、これは預かっておく、お母さんに渡すからな。」
ママにこんなものを渡されるのは困る。でも今抵抗しても面倒だ。時間が足りない。後で職員室に押しかけて、お願いしよう。そう、いつものように、お願いするのだ。きっと伝わるはずだ。ぼくは正しいのだから。
◇
経緯を見た土木曽は、作戦の成功に安堵し、「フ…」と小さな声を出さずにいられなかった。小田は、喜色満面で「効いてるでござる。」とつぶやいた。
◆
休み時間になって、湿田がこっちを向いて喋った。
「目田波ってあっちの人だったんだね。」
「あっち?」
「その…ベーコンレタス…」
ひどい小声だけど、聞き取ることはできた。でも、はっきりしない。知らない言葉だ。
「え?」
「いいんだよ、堂々としていれば。そういう人もいるんだから。」
話が聞こえたのか、田中がやってきた。
「そうだよ、いいぢゃんベーコンレタス。」
湿田はかわいげのある笑顔で答えている。
「いいよね!最近何読んだ?」
ベーコンレタスとはなんだろう。さっぱりわからないけど、とにかく、そういうことにされてしまったまま、ぼくは放置された。それでもかまわないけれど、許せない。こいつらのことだ、きっと不健全なまなざしに違いない!
先生との戦いは終わらなかった。そして今日もけっこう遅くなってしまった。それにしても湿田はわからない。試しに借りたベーコンレタスの本は、面白くもなんともない。でも読んでいるうちにそれっぽい場面が出てきた。なるほど、これはけしからん。
でもぼくは健全だから、特にどうとも思わなかった。こんなものを貸すなんて、ぼくをそういう道へ誘う悪魔か何かだろうか。ひどいものだ。
結局、ものすごく時間を無駄にしてしまった。寝て起きたら、また明日も戦いが始まる…
ウッ!
その次の日も、ぼくは戦った。
「そんなわけで、今日は、学園祭用の萌えキャラについて決めようと思います。」
「案は、今から黒板に貼るものが出ています。」
その日のホームルームで、学級委員の鼻眼鏡太郎と丸眼鏡花子が、そんなたわごとを言い始めた。
「待て!どれもこれも過度に性的な要素を強調しているじゃないか!」
「え?!」
ぼくの一喝に鼻眼鏡はかなり驚いたようで、すごい声が出ていた。でもぼくは、気にしてなどいられない。正義を訴えるしかないんだ。
「誘うような目、無闇に膨らんだ胸、ありえない短いスカート、露出した太股、なんだこれは!ひどいじゃないか!性的な要素を強調するのは差別を助長するじゃないか!いやらしい!許せない!」
例の三人は、「きんもーっ☆」とか言い出した。他に反応はないようだ。よし、これでいけた!そう思った。でも、丸眼鏡が言い放った。
「ええっと…まともなご意見はありませんか。」
ここから先は、ぼくがいなかったかのように話が進んだ。
出来上がったのはいやらしいキャラクターだった。しかも男根のメタファーをくわえようとしているような絵だ。許せない。
ぼくは負けていない。勝てなかっただけだ。陰謀をめぐらせた学級委員にやられただけだ。だからこんどは必ず勝つ。正しいのだから、ぼくは必ず勝つ。
でも、ちょっと気分が悪い。さっさと帰ろう。もうこんなところに用はないとか言ってみたいものだ。
ここはひとまず、本屋を偵察してみることにした。あるある、いやらしい本ばかりじゃないか!女子校生もの、人妻もの、縛ったり垂らしたりするようなものまで、なんでもある!
いやらしい内容でもなさそうなのに、なぜか性的な要素を強調したものもたくさんある。どうしてそんなに強調するんだ、意味がわからないぜ!
そうだ、今日こそあれを確認しなくてはいけない。到底許せないあれだ。あれをなんとかしなくては!
「すみません、ベーコンレタスはありますか?」
店員さんにきいてみた。でも、
「え…その、わかりません。」
と言われてしまった。
店内をくまなく探してやっとみつけたベーコンレタスは、どれもこれも似たようなものだった。それにしてもベーコンレタス!最近まで知らなかったけど、こんなにあるなんて!!しかもどこにもベーコンレタスなんて書いていないんだ。卑怯なやり口だ。
こんなものが大量にあるということは、ぼくがこれまで思っていたより有害図書が多いということだ。なんてけしからんことなんだ!
「どうしてこんなにいけない本を売るんですか!」
店員さんに、そうたずねてみた。
「え…」
店員さんは、答えてくれない。
「いけないことです、なんとかしてください!」
「あの…どういうことでしょう…」
逆に質問されるなんて。自分が売っているものの責任を取ろうとも思っていないなんて、ひどい店員だ。許せない。ぼくがそう思っていたとき、店員さんがボタンを押していたような感じだった。裏から他の店員が出てきて、とりおさえられた。しばらくして警察が来た。
警察には、なぜ店員に絡んだかとかそういう質問をされた。ぼくは絡んでなんかいない。ただ、ただ、正しいことを訴えただけだ。だから、けっこう長い間押し問答をした。
「君ねぇ…いい加減にしなさいよ。」
警察は最後にそう言った。なんということだ!警察までこんな本屋の味方をするなんて!ぼくは、親が来るまで拘束された。世界はこんなにまでふしだらなんだ!どうなっているんだ!!
そんなある日、また不可解なことが起きた。
あの三人組の田中が、ぼくを呼ぶ。
「目田波、ちょっと来て。」
こうして頼られるのは、ぼくの人望あってのことだ。何があっても、呼んでくれるなら行くしかないだろう。田中に手を引っ張られ、ぼくは体育倉庫に来た。手を握るなんて、性的だ、許せない!でも、振り払うこともできなかった。
「まあ座ってよ。」
そう言う田中に肩を押さえられ、ぼくは座った。
「目田波ってさぁ…童貞だよね。」
指でぼくの頬をなでながら、田中は不穏な質問をする。当たり前じゃないか、ぼくがふしだらなはずがない。でもどう答えたらいいのかわからないので、ぼくは黙っていた。
「で…さあ。ちょっとそういうのも楽しそうって話になったわけ。」
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