七章 記憶の亡霊

七章 記憶の亡霊 1—1

《未来 不二村1》



サイレンが、ひびきわたる。

世界の中心、不二村に。

この音が鳴りひびくのは、特別なときだけ。

次いで、村じゅうに、とどろくような声で、アナウンス。


「本日、御子さまが、お目ざめになられます。このたびは、西暦二千百五十一年。日付は七月二十六日。


みなさん、誤りのないよう年表で確認し、それぞれの役目をはたしてください。


まもなく、お目ざめです。


持ち場につき、役目をはたしてください。


本日のご記憶は、二千百五十一年七月二十六日ーー」


いつもと同じ農家の早い朝を迎えていた人々は、あわてて年表をたしかめる。


「御子さまが、お目ざめだと。なんてて百年ぶりだがね」


「めでたやのう。楽しみに生きちょった甲斐がああわ」


「なんぼクローンでも、一度も、お会いできんのは、さみしいもんね。


ええと、二千百……ああ、月からエスパーの人やつが帰ってこらい前だがね。にぎやかなセレモニーが見れえよ。よかったねえ、おじいちゃん。長生きして」


「いいときに当たったもんだのう」


「さあ。そげと決まったら、仕度さんとね。御子さまに、お会いしたときに、失敗さんやに」


村人たちは仕度に忙しい。


時代にあわない家具はしまい、押入れの奥から、ふさわしいものをとりだす。


日記を見て、何があったか確認する。


あわただしいが、どの人も笑顔だ。


御子さまに会える日を、誰もが待ち望んでいたのだから。


「今回も、とどこおりなく、お役目が果たせますように」


仏壇に手をあわせる。


自分と同じ顔の、オリジナルの遺影が飾られた仏壇に……。

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