「彼女たちの因縁の結末」(前編)
サント王国領域の荒涼とした地にて、彼女たちは再び相まみえることとなった。
異世界...日本から来た少女、高園縁佳。
世界の災厄と言われている魔人族、序列6位ジース。
二人は五日前にあった戦争で一度戦っている。ジースが若干押していたが途中ザイ―トの訃報を受けた彼女は戦場を離脱。戦いの決着はつかずに終わり、そして今...両者はこうして遭遇したことで再び戦おうとしている。
(皇雅君。灰色ショートヘアの魔人族...ジースとは私が相手するわ。彼女とは決着をつけたいの)
命を賭して皇雅を護って死んだ皇雅や縁佳のクラスの副担任...藤原美羽の死後、新たに編成された連合国軍が編成された。そして皇雅と縁佳と、サント王国副兵士団長であるクィンの三人で出陣して、まずは足止めをしている八俣倭たちの救助に向かった。そして皇雅が魔人族の新たなる長...ヴェルドを不意打ちではるか遠くへ蹴り飛ばした後、縁佳は皇雅にそう提案した。
(ジース?ああ、ネルギガルドやベロニカといたもう一人の女魔人か。決着か...。そいつもいずれは倒さないといけない敵だしな。ああ分かった。縁佳に任せる。こっちはクィンとでアイツをやるから。お前はカブリアスと...アンスリールと一緒にあの魔人族を倒してくれ)
(うんありがとう。必ず倒して、皇雅君のところに行くから!)
そういったやりとりの後、皇雅とクィンはヴェルドの方へ、縁佳は回復した竜人族のカブリアスと亜人族のアンスリールと残り、彼女らを睨んでいるジースと向き合う。
「......というわけで。お二人とも私とは初対面でいきなりなのですが、私に力を貸して下さい...!決着をつけるとは言っても私一人ではあの魔人族には...!」
カブリアスとアンスリールに目を向けてそう言う縁佳に、二人とも快く引き受けてくれる。
「俺は元々魔人族...特にさっきコウガが吹っ飛ばしたヴェルドって奴に落とし前をつけに来たんだ。タカゾノだったか?お前が魔人族を倒したいってなら協力するぜ。それにコウガもさらっと俺にお前を頼むって言ってたしな」
皇雅には瀕死だった自分を治してくれた恩がある。彼の仲間であろう彼女の為に戦うことに抵抗はないと思っているカブリアスだった。
「俺も...カブリアス殿と同じ動機でここまで来た。魔人族を討ち滅ぼす為に。その為ならタカゾノ、君と組んで戦うことを厭うことはない。共に戦おう」
「ありがとうございます...!」
二人に礼を言って弓を構えてジースに向ける。
「五日前にやり合った狙撃手の異世界人か。それに...“白竜”に亜人の王子か。ふっ、ヴェルド様やネルギガルドさんが討ち漏らしたお前らも、この私が葬ってやろう」
“限定進化”
殺気とともに濃密な魔力を迸らせていく。そして進化したジースの姿が現れる。
「っ!?以前よりも...魔力の質が上がって...!?」
「魔人族にもまだこんな奴がいたのか。何て戦気だ...」
縁佳は彼女の魔力の質と禍々しさが以前戦った時よりも倍近く膨れ上がっていることに驚愕し、カブリアスたちは魔族故に感知できる戦気の圧倒的高さに戦慄している。
「あの時の私と同じだと思わない方が良いわよ?少しばかり、私は強化されてるから。ヴェルド様とベロニカさんには感謝しないとね」
そう言うジースは、数日前の出来事を思い浮かべていた――
(ベロニカさん、ヴェルド様に一体何が...)
(...分からないわ。ネルギガルドですらはっきりと分かってないみたいだし。ただ彼は、何か懐かしさを感じたって言ってたわね)
数日前、ザイートの死に打ちひしがれていたヴェルドの豹変と皇雅への復讐決意があった後、すぐに出陣準備を命じられた魔人族たち。準備の最中にジースはベロニカに何か知らないかと聞いてみていた。
(ところでジース。これからまた戦いに出ることだけど、あなたに少し戦力の増強を提供しようかと思って、これを用意したわ)
話を切り替えたベロニカが、ジースに小瓶を渡す。これは何かといった視線を向けるジースにベロニカは続きを話す。
(その小瓶にはヴェルド様の力の一部が封じられているわ。かつて私たちを率いていた長...“魔神”バルガ様がやっていた、自身の力を他の魔人に譲渡するという特殊技能を、どういうわけか今のヴェルド様も使えると少し前に彼から聞いたわ。そこで、即興だけど私がヴェルド様から力を受け取ってそれを結晶化させてこの瓶に入れてみたの)
(そんな、ことが...!)
ジースの手にある小瓶からは、何か邪悪な力を感じられる。自我が強くなければそれに取り込まれそうな、そんな気持ちにさせられるものだ。
(はっきり言うけどジース。今のあなたは生き残っている魔人族の中では最弱にあたるわ。恐らくカイダコウガに真っ先に殺されるかもしれないわ。だからあなたの生存率の上昇と、今も残っている人族や魔族たちを容易に殲滅させられるだけの力をあげようと思って。
私の予想では、それを取り込んだあなたの実力は、死んだクロックを上回るでしょうね)
(私が、序列4位以上の力を...!?)
ベロニカの言葉にジースは揺らぐ。小瓶をどこかうっとりした様子で見つめる。そんなジースの肩を軽く撫でながらベロニカは忠告の言葉をかける。
(その力を使うかどうかはあなたに任せるわ。ただ、自我を強く持った方が良いわよ?強大過ぎる力を制御できない者は、ただ淘汰されるだけだから...)
(ふふふ......任せて下さいベロニカさん、ヴェルド様。魔人族の世界支配に精一杯貢献させていただきましょう―――)
*
進化したジースからは強い戦気の他にも邪悪な何かをも感知される。縁佳たちは十分に警戒してそれぞれ武器を構える。縁佳は「限定強化」を発動して弓矢を、カブリアスとアンスリールは「限定進化」を発動して魔力を漲らせる。
睨み合った時間は一瞬で、まずはカブリアスが極大の青い魔力光線を上空から放ったことで、戦いの火蓋が切られた。
“滅
対するジースは雷電と嵐の複合魔法でこれを相殺する。
「あの属性、さっきの男の魔人族が使った剣と同じの...!」
「馬鹿な、あの女もヴェルドと同じ属性を使えるのか!?」
「何もかもを滅ぼすようなあの不気味で凶悪な属性魔法...あれはくらってはいけない。さっきあの属性をくらった俺はあっという間に死にかけた...」
3人ともジースが使った滅びをもたらす属性...滅属性に戦慄する。
「っふふふ、良いぞこれは!今までの私を凌駕する強さを感じられる。これならお前たちなど簡単に葬れる...!」
“滅獄炎” “滅
続いて左手から滅びをもたらす黒い炎撃を、右手から滅びをもたらす津波を思わせるような水撃を放つ。
“
“雷爆”
カブリアスが嵐と水の複合魔法で黒い炎撃を、アンスリールが爆破を込めた雷撃で水撃をそれぞれ打ち消していく。
“疾風迅雷の矢”
視界を完全に遮る爆煙が立ち込める中、縁佳は標的であるジースに向けて迷い無く矢を放った。「鷹の眼」と「千発千中」という固有技能を持つ彼女は、どんな障害があろうと必ず標的を射止めることができる。
雷と風で速度と貫通力を増した矢は、ジースの命を射殺すべく突き進んでいく。
「滅びを与えろ “黒刃翼”」
しかし縁佳が放った矢は、無数の黒い刃に見える羽の連撃に消される。無数の羽は消えることなくジースの周りを囲んでドーム状になりながら運動を続ける。
よく見るとそれらの羽には滅び属性が付与されている。あれに当たると3人とも体は無事では済まないだろう。
“
弓矢狙撃が失敗した縁佳は続いて威力が上の狙撃銃で追撃する。雷電を込めて放たれた弾丸は魔人族の体をも容易に貫通する威力を誇るが、
「滅ぼせ」
縁佳の魔力で超強化された銃弾でさえも、ジースの滅びの羽の前には為す術無く消滅したのだった。
「ふふ、この羽でお前たちを刻んで滅ぼしてやろう」
羽を円運動させながらジースが悠然と歩み近づいて来る。
「そんな...どうすれば!?」
自分の狙撃が通用しないことに縁佳は動揺して狼狽える。
(何もかもを滅ぼすあの属性をくらったらすぐに終わる...。でも防ぐ手段が...!)
「落ち着けタカゾノ。よく見ろ、奴の羽の数は僅かだが減っている。お前の狙撃であの羽を少しずつだが減らすことが出来ている。
カブリアスが冷静にそう分析する。加えてアンスリールも気付いたことを話す。
「確かにあの属性はヤバいが、さっき戦ったあの男のに比べると弱い。属性の純度が低い。あれなら俺たちでも対処できるはずだ。そうだなカブリアス?」
「その通りだ。二人とも雷電魔法は使えるな?今から3人で合わせ技を放つ。それで奴の攻撃を完全に削ぐぞ」
二人の落ち着いた分析と提案に縁佳も落ち着きを取り戻して指示に従う。
「いくぞ! “
カブリアスの青白い巨大な落雷。
“怒りの
アンスリールの赤い巨雷撃。
“
縁佳の回転が加えられた黄色い雷の矢。
三色の雷電攻撃が混ざりあい協調して、やがて一つの巨大な矢となってジースの羽を穿つ!
バリバリバリバリバリ―――――ッ!!!
轟音を立てて標的を呑み込んでいく巨大な雷。それが消えた頃には円運動していた羽は全て消失していて、傷を負ったジースが3人を睨みつけていた。
「よし...!」
「ぐ...この程度であの力が......おのれ...っ!!」
一斉攻撃の成功に手応えを感じる3人と怒りに震えるジース。
「魔人族が強いのさ......この世界の頂点に君臨するのは私たちだァ!!」
怒りの叫びとともに再び無数の羽を展開する。帯状の長さの黒い羽をいくつも発生させて、さらに全ての羽から魔術をも放ってくる。
「く、あの魔人族...巨漢の奴程ではないにせよやはり相当強い。ここで全てを出し切っていくしか...!」
「ああ。俺も魔力を枯渇させてでも撃ち続けてやる。ここが攻め時であると同時に耐える時でもある......覚悟しろよ」
「......これを使うしか...っ」
縁佳が取り出したのは包み紙、その中にかる粉末だ。その正体は「魔石」。魔人族を今の魔人族にたらしめた全ての元凶となった鉱石である。その石を摂取するとあらゆる生物が超強化されるといった代物だが、副作用として死に至るものであるらしい。
この問題を解決させたのが倭であり、彼は石を粉末状に砕いて少量摂取するだけでも相当強化できるということを発見して、連合国軍にさらなる力を提供した。縁佳も魔石の粉末をもらっており、今こそこれを使う時だと覚悟を決めて、摂取した。
「!タカゾノの戦気が跳ね上がった。一体何を?」
「魔石というものを粉末にして摂取しました。これこそが魔人族のあの異常な強化の元凶となったものだと聞いています。私たちは粉末にして少し摂取することで死のリスクを抑えての強化に成功しました。そしてこれはお二人にも効果が出るはず。お使い下さい!」
そう言って二人にも魔石の粉末を渡す。二人も摂取して、さらに力が増した。
「そうかこれが魔人族の強さの秘密...なら俺たちもこれを完全に取り込めばあの化け物並みに強くなれるのか。まぁゴメンだがな」
「とはえいえ感謝するぞタカゾノ。これなら、奴と渡り合える!」
そして連合国軍三人と魔人族一人は、再び死闘を繰り広げる。
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