「救世団vs魔人族序列6位ジース」(後編)



 剣を構えて叫んだのは、ガビルだ。手足を負傷していながらもダメージを感じさせない様子で敵を威嚇していた。



 「普通大将って奥でどっしり構えてるものだと思うのだけど、まぁ強いみたいだから良いか!」 


 中西がチャンスと言わんばかりに手薄になったジースに、光の魔力光線を放つ。さらにその上から堂丸が砲撃を放つ。しかしそれら全てはあっさり躱される。


 「雑な遠距離攻撃で私に当てられると思うな」


 ジースの「見切り」で二人の攻撃は全て躱される。が、その彼女に正確に迫り来る弾丸が。それをジースはギリギリのところで弾いて軌道を逸らした。



 「ぐ......あの女の狙撃か。正確に私を狙ってきている...」

 「くそ、高園の狙撃でもダメなのかよ!」


 堂丸と中西の攻撃は難なく躱すが縁佳の狙撃にはギリギリといったところ。とはいえジースに深い傷を負わせることは未だに出来ないでいる。一方のジースも、救世団たちと操られたモンストールたちによる猛攻に手を焼いている。


 「くそ裏切りの同胞どもが...!こんな雑魚たちに使うつもりはなかったけどここらで一気に潰すか。魔人族の本当の力を思い知れ...!」



 “限定進化”



 瞬間、彼女を黒いオーラが包み、それに合わせるように彼女も姿が変化していく。やがて現れたのは、ひと回り大きくなった体躯に黒い包帯のようなものがびっしりと巻き付いている姿、切れ長で鷹のように鋭い眼をしたジースだ。


 「世界でいちばん強い魔人族が限定進化した...この意味が分からないお前らじゃああるまい。終わりってこと」


 灰色の髪をわらわらと逆立てて黒い魔力を可視化させながらジースは全員に殺意を飛ばす。


 「あれは...ヤバい、私たちも早く...!」

 「ああそうだな!さらに強くなれるのはお前だけじゃねぇんだよ!!」


 中西の言葉に堂丸が頷いて、そして救世団全員が更なる進化を発動した。



 「「「「「限定強化!!」」」」」



 直後、縁佳たちの能力値が一気に跳ね上がる。「限定強化」は、異世界から来た人間にのみ発現される限定的なステータス上昇のことである。ただし最初から発現するものではなく、過酷な戦闘経験を積まなければこの固有技能は発現しないとされている。



 「ほう異世界人も魔族みたいに限定的に強くなれるのか。とは言え...それでもこの私の、敵ではないな―――」


 「あ”...っ!?」

 「いゃあ...!?」



 一瞬で、ジースの攻撃で堂丸と中西が血飛沫を上げて落ちていく。二人とも血を流しているものの生きてはいる。


 「殺すつもりで攻撃したはずだが、なるほど...強化しているだけはあるな」

 「く、そ...マジ強い......ッ」

 「嘘でしょ?こんなに強くなった私を、こんな...!」


 ほんの少し感心を寄せて余裕を見せて呟くジースとは対照に二人は立つのがやっとだ。


 「魔物ども、その二人を殺せ」


 ジースの指示を受けた魔物たちが堂丸と中西に止めを刺そうとするが、モンストールたちが二人を庇った。


 「裏切りどもが...消えろ!!」


 ジースが放つ魔力光線は、Gランクをも滅ぼしていった。瞬く間に米田が操ったモンストールたちが全滅した。


 「そんな...災害レベルもあっという間に...」

 

 盾の中で怯える米田。一方の曽根はさらに強い防御魔術を発動していつでも防げるようにする。


 「同胞がいなくても、今のお前たちなら...私一人でも十分だ。行くぞ――」


 “見えざる矢”


 ジースが駆け出そうとしたところに、縁佳の切り札であるオリジナル狙撃...「見えない狙撃」を撃ったが、


 「―――っと」

 

 またもギリギリのところで躱される。


 「そんな、強化しても躱された...!」


 青ざめた様子で米田が呟く。


 「お前たちが強化したようには進化している。そして進化した私は、さらに敵の攻撃を読み取ることが出来る。特に狙撃には敏感になれる。それに当たったとしても果たしてこの私を倒すのは...無理ね、お前たち程度では」


 ジースの体に巻き付いている帯のようなものがわらわらとばらけて意思を持ったかのように動き始めるそれらはよく見ると黒い羽のようにも見える。


 「それより、そろそろ姿を見せなさいよ。いい加減こそこそ隠れて狙撃してもこの私には意味無いって分かったはずよ」


 そう言ってからジースの両手からそれぞれ炎と嵐の魔力が発動して、全体攻撃規模の複合魔術を放った。


 「く...“絶牢結界ぜつろうけっかい”」


 ジースの複合魔術を、曽根の最強防御魔術でどうにか防ぐこに成功する。透明色の結界を救世団たちとガビルがいる範囲で囲って、尚も続くジースの猛攻を防ぐ。だがやがて結界は強引に破られる。


 「ゴメン...みんな」

 「ううん、みんなを守ってくれてありがとう、美紀ちゃん。ここからは私があの魔人族と戦う...!」


 “隠密”を解いた縁佳が、ジースの正面に立って弓矢を構える。狙撃手らしからぬ配置ではあるが、彼女のステータスと敵が特殊な為、仕方がない。


 「やっと姿を見せたわね。さぁ...死になさい」

 「そう簡単に、私は殺させない...!」


 “マルチ・アロー”


 姿を現してからすぐに縁佳は無数の矢を放った。雷と風、水の属性が付与された矢がいくつもかつ急所を狙って襲い掛かる。


 「無駄よ...“黒帯翼こくたいよく”」

 

 しかしジースは全ての矢を、体にある帯状の羽で撃ち落としてみせる。その羽にもいくつもの属性が付与されている。


 「ぐ...“風刃爆ふうじんばく”」


 続いて縁佳が嵐を纏った矢を放つ。意思を持ってるかのように不規則に移動しながら発射していき、やがてジースの真後ろを捉えて射抜こうとする。

 咄嗟に振り向いて羽でガードするジース。しかし直後矢が大爆発を起こした。


 「あなたの“見切り”の精度には参ったわ...。けど、何も射抜くことだけが私の攻撃手段じゃないわ!」


 “サウザンド・スナイプショット”


 さらに武器を狙撃銃に切り替えて千規模の銃弾の雨嵐を放つ。全弾が狂い無くジースを撃ち抜くべく正確に襲い掛かる。


 “黒羽鞭こくうべん


 爆煙から無数の鞭状の羽が、千発もの銃弾を悉く撃ち落とし、防ぎ、逸らし、消滅させ、潰していく。


 「く......これも、駄目なの?」


 魔力の大量消費で縁佳は疲労し始める。彼女の狙撃はどれも確実に敵を射抜く狙撃だった。しかし...今回は相手が悪過ぎた。

 ジースの「見切り」の精度は本人が言った通りのもので、魔人族の中でもトップレベルだ。加えて彼女の特殊な羽の攻撃が「見切り」と上手く連携してどんな攻撃をも躱し防ぐことを可能とする。縁佳の狙撃を以てしてもジースを撃ち抜くのは困難だ。


 その後も縁佳がいくら攻めてもジースの回避と攻撃逸らしに悉く失敗に終わる。対するジースも魔術で縁佳たちを滅ぼそうとするも曽根の防御でほとんど防がれる。

 両者ともに攻めあぐねてること数分後、状況が突然変わった。




 「え......ベロニカ、さん?」


 ジースの脳内に突然声が響く。これはベロニカによる遠隔魔術だ。




 (ザイ―ト様が敗北して......死亡した)


 あまりの衝撃にジースはしばし動揺する。その彼女の様子に縁佳は思わず狙撃の手を止めてしまう。


 (魔人族は...敗北したのよ。負けたの、あのイレギュラーのゾンビに......)



 「ぐ......信じられない、な。ザイ―ト様が...!!」



 冗談を言わない性格のベロニカである以上、事実であると理解したジースは、戦意を失くして進化を解く。そして縁佳たちを一瞥して苛立たしげにサント王国から去って消えた。


 突然の戦闘終了が訪れたことに縁佳たちはしばし呆然とする。ふらふら状態の堂丸がどうするかといった問いかけに縁佳はどうにか冷静さを取り繕ってみんなの状態を見てから追跡は止めておこうと判断する。

 堂丸と中西は出血して傷を負ってはいるものの命に別状は無い、曽根と米田は魔術の多使用で疲弊している以外では特に問題無い。ガビル国王は多くの魔物と一人で奮戦していたこともあってかなり疲弊していて傷も相当負っていた。彼がいちばん優先して治療されるべきだろう。

 そして縁佳は体力も魔力も枯渇しかかって満身創痍に近いが、何よりも己の力不足に...魔人族との力量差に打ちのめされていた。あのままもし戦いが続いていれば自分はもちろん、同級生たちもガビル国王も...サント王国そのものが滅ぼされていたかもしれなかったのだ。


 堂丸や米田たちは助かったと安堵して喜んでいるものの縁佳とガビルは深刻な面持ちをしていた。



 (それにしてもあの魔人族...ジースはどうして突然退いたのかしら。何だか誰かと話をしていたみたいだった...)


 一人思案してすぐに彼女の言葉を思い出す。ザイ―トという名前。確か魔人族のトップの魔人だと聞いている。彼に何かが起きた、魔人族たちにとって看過できない事態が起きたというのか。それは一体―――



 「...まさか......」



 そこまで考えた時に縁佳はある可能性を見出した。



 (甲斐田、君.........)



 ここには...自分たちのどこにもいない死んで復活したと聞いている同級生、甲斐田皇雅。彼は縁佳たち残りのクラスメイトと魔人族に復讐しようと企んでいる。しかし彼は半年間縁佳たちを殺しにくることはしなかった。理由ははっきりしないが恐らく彼は先に魔人族へ復讐をしに行ったのかと予想する。

 

 (甲斐田君も今、どこかで戦って......もしかしてあなたが...魔人族のトップを倒したの?)


 もしそうだとするなら、彼は次はやはり縁佳たちを殺しに来るというのだろうか。彼のお陰で魔人族による危機は免れたわけだが、その彼が今度はこちらに牙を向けようとしている。その複雑な因縁のせいで縁佳は皇雅に感謝して良いのか分からないでいた。


 (それに、ジースとは決着がついていない。もしまた王国を襲って来たらその時は―――)


 同時に縁佳は魔人族ジースとはいずれまた戦う予感をして、次は負けたくないと、そう心に誓った―――。


 ひとまず縁佳とジースとの戦いは区切りをつける。

 彼女たちの戦いに終わりが訪れるのは、今から五日後に起こる最後の戦争での話――――。


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