「救世団vs魔人族序列6位ジース」(前編)


 サント王国領域にある荒野にて、人族連合国軍と魔人族軍があちこちで激戦を繰り広げている。兵の数は最初から連合国軍に利があり、数の利をそのまま活かして敵を順調に減らしていった。

 ここに配属されている兵士一人一人がCランクの敵を単独で倒せる実力を持っているのも有利な要素の一つである。戦争が始まって瞬く間にⅮ~Cランクの敵群は兵士たちに討伐され尽くされ、戦場に残る敵は上位レベルが8割、災害レベルが2割といったところだ。

 上位レベルの敵も、兵士たちの洗練された連携攻撃で悉く討伐されていく。しかしそんな兵士たちでも、災害レベルのモンストールや魔物には苦戦あるいは蹂躙されるばかりだった。しかもその中には、



 「ふん。進化もできない人族が何人集まろうと、究極の進化を遂げた魔人族の私に敵うわけないわ...!」


 モンストールの群れに紛れていた世界の厄災である魔人族、序列6位の女性魔人ジースは、兵士たちを難なく殺し続けていく。灰色のショートヘアと脂肪がほとんどついていないスリムな体躯は一切の無駄を捨てた、まさに戦士と言える体だ。彼女の傍らには常にモンストールを配置させて不意打ちを防がせている。たとえ相手が弱者でも一切隙を見せようとしない彼女は、純粋に強い戦力を持っている。


 「少し...格が違うのが来たわね?簡単には...倒せないか」


 そんなジースのもとに二人、別格の戦士が現れる。


 「救世団の高園縁佳」

 「サント王国国王および連合国軍総大将 ガビル・ローガン」

 「―――っ!?」


 彼らの自己紹介が終えた直後、ジースは突然被弾する。即座に二人から距離を取ってモンストールを盾にする。


 「......すみません。急所を外しました。どうやら敵が直前に察知して躱したみたいで...」

 「タカゾノの狙撃を以てしても...。流石は魔人族といったところか。あの“見えない狙撃”を見切るとは」


 縁佳がガビルに謝罪し、そのガビルは戦慄している。今ので仕留めようと本気で思っていただけに、この結果に二人とも動揺している。


 「見えない、狙撃...?なるほど、今の狙撃で私を不意討ちしようとしたわけか...。けど残念だったね?私の“見切り”の精度をなめるんじゃないわよ」

 「く......“隠密”――」


 ジースの言葉に縁佳は悔し気に呻きつつ隠蔽系の固有技能を発動して身を隠す。彼女を援護するようにガビルが囮となって攻撃を仕掛ける。


 「ふん...今度は隠れて狙撃をする気ね?せこい戦い方をするじゃないの」

 「彼女なりの戦い方があるんだ。文句は言わせん」

 

 ジースの挑発にガビルが一喝し、同時に兵士たちも攻撃に出る。


 「無駄ね...“黒翼こくよく”」


 彼らの一斉攻撃に怯まないジースは手からナイフサイズの漆黒の羽をいくつも飛ばして迎撃する。黒い羽は兵士たちの急所を的確に突いて落としていく。ガビルなど手練れの兵士たちは咄嗟にガードしてどうにか防ぐも手足を負傷してしまう。


 「味方もあっという間に減っていくけど、ここからどうする気?総大将さん。あなたを殺せば連合国軍も終わるようなものだそうだし。良い手柄が私のもとに現れるのは幸運ね」


 兵士たちを倒してガビルに近づくジースに、矢が襲ってくる。

 

 「ふっ―――」


 ジースは咄嗟に黒い羽で矢を弾き落とす。そこから何度か狙撃を試みるも失敗に終わる。そうしているうちにジースのところにモンストールや魔物が集まってくる。これでは彼女を狙撃するのがより困難になる。状況の悪化に二人は頭を悩ませる。そして膠着が続いた後に、救世団の残りのメンバーが戦場に集った。


 「力及ばず申し訳ない!後は...頼みますっ」

 「サント王国の為に、あの魔人族を討ってくれ!!」

 「周りの敵くらいなら我らでもどうにかできる、いやしてみせる!すまないが魔人族は任せてもらうぞ...!」


 魔人族に対抗するには、もはや人智を超えた力を持たねばならない。そのことを身をもって知った兵士たちはだからこそ、彼らに全てを託して、彼らにできること...モンストールや魔物への討伐へ向かった。

 兵士たちは悔し気に歯噛みしつつ彼ら...異世界からきた「救世団」の青年たちに託して、自分の戦いへ赴いていった。


 「へっ。俺たち凄く期待されてるぜ。高校生だった俺たちが、世界を滅ぼそうとしている敵と戦うことになるなんて......燃えるシチュエーションじゃねーか!!」


 ガンランチャーを構えてテンション高めに吠える茶髪の男は堂丸勇也。さっき単独でGランクモンストールを討伐してから魔人族がいるこの地域にやってきたところだ。


 「凄いプレッシャーを感じるわ...あれが魔人族。怖いけど、私たちが何とかしないとだね」


 巨漢の人間をも隠せるくらい大きな盾を傍らに置く茶色のセミショートの少女...曽根美紀は険しい顔でジースを見据える。


 「み、皆で挑めばきっと撃退できるはず...!」


 少し噛みながらもどうにか勇気を振り絞って声を出したロングの黒髪眼鏡は中西晴美、プリーストだ。


 「......(足を引っ張らないようにしなきゃ。こんなところで死にたくはないから)」


 無言で心の中で呟いている小柄な黒髪少女は米田小夜、呪術師だ。彼女だけ唯一兵士の護衛をつけさせている。


 「皆、早く来てくれたみたいね。ちょうど良かった。さぁ勝負はここから...!」


 縁佳は、鋭い眼差しをしてジースに弓矢を構える。


 「へぇ、今来たこのガキどもが異世界の...殺してあげる...!」


 ジースが片手を上げると同時に傍らと後方で控えていたモンストールたちが一斉に襲い掛かる。それらに紛れてジースも駆けて行く。


 「小夜ちゃん、お願い!」


 縁佳の指示に米田はこくりと頷いてすぐさま彼女にしかできない特殊魔術を発動した――


 死霊操術ネクロマンシー


 瞬間、モンストールたちに異変が起こる。縁佳たちに襲い掛かろうとしたモンストールたちがピタリと止まり、ジースに振り返る。


 「おい...何をしている?早くあいつらを――」

 「「「「「ギェアアアアアア!!!」」」」」


 モンストールたちは突如ジースに向けて爪や牙、魔法攻撃を繰り出したのだ。そこに予め待機させていた魔物たちが、ジースを守るように立ち塞がってモンストールたちの攻撃を受け止める。そして反旗を翻したモンストールたちに攻撃を繰り出す。魔人族によってつくられ絶対服従とされていたはずの屍族モンストールが、魔人族に攻撃しようとしている。思わぬ事態に遭ったジースは何が起きているのか分からずにいた。


 「成功したね。敵も上手く混乱させたみたい」

 「うん。これで敵を一気に...!」

 「小夜ちゃんは私が護ってるから、あとは皆で魔人族を一気に倒してちょうだい!」


 目論見が成功したことに喜ぶ米田と彼女の周りに大きな盾を出現させて完全護衛態勢に入った曽根を後衛に置いて、残りの救世団メンバーは操られているモンストールたちと共にジースへ攻撃を仕掛ける。

 今も米田が発動している魔術は、死霊系の生物を操る特殊魔術である。モンストールは元は死んだ生物に瘴気を流し込んでつくられたもので、ある種不死性を含んだ化け物だ。つまり死霊系に分類されるモンストールたちは皆、死霊魔術の術中に無条件で嵌まってしまうのだ。

 半年間の戦争準備の間でそのことに気付いた縁佳たちは、呪術師の中で特に操術系に長けている米田に死霊系の魔術を会得させた。そして見事この戦争で死霊魔術が大いに役立った。


 「すげぇ、Gランクの化け物たちもみんな米田の駒になってやがる。これだけの軍勢なら勝てる、勝てるぞ...!」


 堂丸は早くも勝利を確信して先走ってガンを展開して自身の得意技を放つ。

 

 “多属性射撃マルチショット


 彼が使える属性は炎熱系のみだが、弾に予め属性を付与させることで多くの属性弾を撃つことに成功させた。

 魔物を多く撃ち抜いて、ジースにも被弾させていく...が、彼女は即座に障壁を展開してこれを防ぐ。

 そのジースに獅子の見た目をしたGランクのモンストールが殴りかかる。


 「......お前らの飼い主である私たち魔人族に牙を向けるとは不良品どもめ!!」

 

 怒りの形相をしたジースが暗黒魔術を放ってGランクモンストールを攻撃する。さらに襲い掛かってくるモンストールたちにも同様に魔術を多数放って攻撃する。


 「ち......災害レベルの屍族を連れてきたのが仇になったな。まさか同胞を寝返させる魔術を使う人族がいるとは...呪術師だな」


 鋭い眼差しで救世団たちを見回して、やがて盾で囲まれているところに目をつける。


 「あそこに同胞を操っている人族がいるはずだ。魔物ども、あそこを蹂躙しろ」


 ジースの指示に従い魔物たちが米田たちがいる方へ向かう。


 “光剣こうけん


 その魔物たちに巨大な光の剣が襲い蹴散らしていく。



 「この老兵がいることを忘れるな。そら、総大将の首はここだぞ!!」




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