129話「悪とは」


~回想~


 (呪術師......この職業には多くの呪術や特殊魔術を扱えるという特徴があります。呪い・召喚・幻術など、本当に様々あります。

 中でも...“死霊系”の魔術。これはコウガにとって要注意すべき能力です...!)

 (ネクロマンシー...って、元の世界では何度も聞いたフレーズだな。意味としては死体や幽霊を意のままに操るっていう......っ!まさか、この世界の場合はモンストールをも...!?)

 (恐らく...。そしてコウガの場合はゾンビという新種に分類されますが、コウガすらも死霊術にかかる対象に入ると予想できます。この予測が正しければ、死霊術を使える呪術師はかなり厄介な戦士になってきます。

 けれどコウガはその...常識外れな力を持ったイレギュラーな男なので、相手はせいぜい体の自由を奪うことしかできないかと思いますが...)

 (……この場合だと、俺が警戒すべき対象は...まさかのこいつかぁ...)



 (...コウガ、このヨネダサヤとはどういう人物なのですか?)


 (米田か...。こいつは高園とよく一緒にいてたっけ?でもあいつとの接点は無いかったからどんな性格なのかも知らないし、個別的な恨みも特に無いし...)



 つまりは...



 ――彼女のことは 全く何も分からない 特徴が無い女......それが彼女に対する俺の評価だ...





 どこから魔術をかけたのか、辛うじて首を回して周りを見るが、米田の姿は認識できない。どうやら向こうは「気配遮断」系の固有技能で姿を隠して攻撃しにきてるようだ。


 『ごめんなさいコウガ。私がいながら敵の動きを予測できませんでした。どこにいるか分からない状態だと予測すらできないのができないので...』

 「問題無い。敵は巧妙に俺やカミラの目から隠れてやがる。それより藤原美羽の動きを見ていてくれ。彼女を常に警戒していてくれ」


 分かりましたと返事するカミラとの通信を終えて、再度気配を感知してみるが米田の反応は依然無い。体もまだロクに動かせないでいる...ええい煩わしいっ!

 脳のリミッターを一気に解除(30000%くらい)して、全身の筋肉や関節を無理やり動かすことを敢行する。ブチブチとした断裂音やバキィと折れる音がするがお構いなしに立ち上がろうとする。



 (う!?なんて力...!制御が、出来ない...!)


 またも脳内で声が響く。せっかくだ、声くらいかけてやろう。


 (死霊術を使えるとは流石は召喚の恩恵を受けているだけあるな、米田さん?確かにこの魔術は俺を脅かす切り札と言えるが、テメー程度のスペックで支配できる程、俺は雑魚じゃねーんだよおぉ!!)

 (ッ!!これ以上は止められ...!!)


 ブチィ!!と音がなった気がしたのと同時に、体の支配が解けた。今の拘束時間は大体10~20秒ってところか。といっても、リミッターを解除しないとこの時間だからなぁ。米田もおそらく魔石を摂取して死霊術を使ったのだろう、かなり手こずった。

 すぐにまたくるか、と身構えたが魔術にかかることはなかった。魔力をかなり消費するのか、連続は使えないと見た。


 『コウガ、フジワラミワはまだ分裂体に苦戦しています。そこに来るにはもう少しかかると思います』


 カミラの報告に了解と返事した直後、中西が放ってきた光・雷電・水の魔力光線が一斉に向かってきた。さっきよりも威力が増している。こっちも闇属性の魔力光線を3発放って相殺させる。分裂で弱体化したとはいえ、俺の魔力に匹敵しているな...と感心しながら放ってきた奴の姿を確認する。



 「う”う”う”...!!」


 様子がおかしい中西のステータスをもう一度確認すると、能力値がさらに上昇している。魔力が7桁台になってる。魔石をさらに摂取したようだな。奴に理性が失いつつある感じがする。



 「甲斐田なんかに...殺されたくない。悪人で、みんなの敵のあんたなんかに...たくさん人を殺したあんたなんかに!私たちを恨む資格は無い!!」


 残った理性で何を言うかと思ったら、そんな下らないことをほざいた。そして直後に吐血した。命を削って強化をしたな...。



 「資格だぁ?知るか糞女!携帯鳴らしたのは本当は柴田だってこと気付いていたくせに、友達のそいつを庇って俺に罪を被せた...偽善者のゴミカスが!気に入らない奴だという理由だけで理不尽に冤罪をかけやがる...テメーみたいな性格最低女は、絶対に社会に出してはいけねーなぁ。テメーみたいなクズが、国を腐らせるんだよっ!

 というか、テメーみたいな奴を殺す俺が、悪人っつったか?テメーら側のクズ共にとってはそう捉えられるのかもしれないが、俺は違うね!

 というか悪や正義なんてそれこそ人それぞれだ。だから俺は自分が正しいと思うがままに行動するってこの世界で強く決意したんだ。


 さしあたって今俺がすべきことは...“悪”のテメーを残酷に殺すことだっ!!」



 「瞬神速」で駆ける。中西が奇声あげながら魔力光線や聖水が付与した魔法を放つが、俺の速さを捉えられるはずもなく全発外す。

 まずは奴の唯一の武器である魔法杖を粉々に破壊して(この時点で中西は戦意を失いかけていた。魔法杖は自身の魔法火力を強化する武器だからな)、顔面を火のついた拳で殴りつける。打撃と火傷によってその顔は見るに堪えないものと化した。女に対する苦痛法は、まず顔を醜いものに変えるのが当たり前だ!安藤の時みたいにキモく改悪してやるぜ!!


 しかしそれでもまだ抵抗する意志までは萎えてないらしく、ゼロ距離から聖水付与の水魔法を放ってきた。それを俺は「危機感知」と「見切り」コンボで容易く躱していく。


 しかしその直後、また体の自由が利かなくなった。米田が再び“死霊操術”を発動した。



 (させ、ない...!晴美ちゃんを死なせない!!)

 (うるさい...ウザいっ!邪魔を、するなぁ!!)


 50000%解除。今度は5秒程で呪縛を解いてみせた。中西の次は米田を捜してさっさと殺しに行こうか?とりあえず続きだ。

 魔石の副作用でさらに血を吐き、流して苦しんでいる糞中西の顎を蹴り砕く。これで詠唱もできない。ロクな魔法しか使えまい。無力化したも同然だ。



 「あのゴミカスども大西たちが吹聴していたた下らない嘘に流されて、一人でいる俺に対して意味分からない罪を被せて勝手に悪だと騒いでるだけの糞ゴミ女が!!存分に苦しんで

――って............え、あれ...?」



「―――――」



 さらに肉と骨を潰していこうと思った矢先、糸が切れたようにして中西が倒れた。ステータスを確認すると、体力・魔力ともに0と表示されていた......死んでる。

 魔石の副作用と俺の軽い攻撃で、あっさり死にやがったのだ...!!



 「――っておいおいおいおいおい!?そりゃないだろ!?ロクに苦しまないで、簡単に死にやがって!テメーにもかなりヘイト溜まってたのによぉ、まだ全て晴らせていねーのによぉ。半年前ドラグニアで柴田をすぐに殺したのは、あいつの分までテメーに苦しんでもらう為だったんだぞ!プリーストなんだろ?もう少し粘れよ、“回復”とかしてさぁ!ちきしょおおおおおおおおおおお!!」



 あまりの結末に、俺は怒声を上げる。地団太踏んだら地面が陥没した。その場で拳を振り下ろしたらさらに地面が以下略。感情のままに、俺は死んだ中西を思い切り殴りつけた。暴言・恨み言を吐きまくりながら魔法も使って死体蹴りを続けた。

 原型がとどまらなくなりただの肉塊になったその物体を、冷めた顔で焼却して終えた。



 「二人目。......あーあつまんね」



 不本意な終わらせ方をしてしまい納得いかないが、もう吹っ切れよう。こうしてる間にも状況が変わりそうだし。


 「藤原は...うん、こっちに来てるね。分裂は解除させて、次行くか」


 深呼吸して気持ちを切り替えて、俺はまた戦場へ戻った。藤原をそろそろ殺そうかと思うが、先に相性が悪くて面倒な米田から殺すことにしよう。あいつは今のうちにどこかへ移動している頃だろう。元いた後衛の方まで下がってる可能性がある。

 ここからは連合国軍の核へ入るとするか。そこには総大将の首もあるだろうしな、ついでで殺しておこう。

 八俣の方も...まぁ大丈夫だろう。俺のゾンビ兵どもがいるしな。


 厄介な呪術師を殺すべく、超音速で再び戦場を駆ける。

 復讐対象 残り3人...!



 



 「中西さん...!ごめんなさい、私が近くにいながら...!!」

 また守ることが出来なかったと、美羽は慟哭しながら嘆く。堂丸に続いて中西まで甲斐田に殺されてしまった。彼の復讐を全く止められない。あの圧倒的で予測できない力の前には、誰も敵わないと思わされてしまう。

 しかし美羽にはまだ、皇雅とカミラが予測している通り彼を完全に無力化できる究極のオリジナル魔術がある。それを自分の手で皇雅に撃つべく前衛に出たのだが、その結果は生徒二人、兵士数万の犠牲を生み出すことに終わった...。



 「私一人ではもうダメ...このままいけば曽根さんや米田さん、縁佳ちゃんも...いたずらに死なせてしまう!」


 『もう“あの手段”しかありません...。クィンさんやワタルさんが未だ足止めされている以上、難易度は凄く高くなり命の危険もありますが......もうこれしか...!』

 「分かってます...全滅必至のこのままよりはマシです。何よりあの二人と兵士の方が全員団結すれば、可能性はあります!」

 「......頼り切りで、すみません。必ず生き残って下さい...!!」




 

 ミーシャと最後の作戦確認をして、美羽は自分が行くべきところへ急いで移動した。途中“彼女”に通信をつなぎながら…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る