128話「要警戒人物」


 「堂、丸君...!う、うぅうう......!!」

 『.........』


 美羽はミーシャからの報告を聞いて、悲しみのあまりにくず折れてしまった。そんな美羽に、ミーシャは何も言えないでいる。


 (堂丸勇也が死んだ...殺された。甲斐田皇雅によって……。彼の宣言通りにさせてしまった。出陣前は誰も殺させない、生徒全員も守るって口に出して誓ったのに。守れなかった。止められなかった。間に合わなかった...)

 

 「ごめん、ごめんね堂丸君...!君を死なせてしまって...」

 『ミワさん。自分を責めないで下さい。出陣前ドウマルさんは覚悟を決めていました。最も危険な前衛を自ら買って出て務めた彼を止められなかった...その役目を任命した私に責任があります...!連合国軍の目的を果たせなかったこと、本当にごめんなさい!ですが、ミワさん。言い辛いのですが...コウガさんを止めるには、あなたの力が必要です。どうか、ここで折れないで...!』



 ミーシャの、水晶玉越しからでも伝わる頼み事を聞いた美羽は、しばらく涙を流して黙っていたがやがて立ち上がり、前方をキッと見据えた。


 「ありがとうございますミーシャさん。心配しないでください、私はもう諦めないと決めてますから。絶対に折れたりしません!絶対に止めてみせます...!お見苦しいところを見せてしまってすみませんでした!」

 『ありがとうございます。そしてご武運を、私もついていますから...!』


 水晶玉越しにいるミーシャ様に頷いてから、美羽は駆けた。





 (授業中に携帯鳴らしたのって甲斐田君でしょ?あいりが後ろの方から聞こえたって証言は聞いてるのよ?)

 (は?そんな理由で決めつけてんじゃねーよ。大体俺は授業中はマナーモードにしてるか電源切ってるから、あんな音鳴るわけねーんだよ。つーか俺はあんな通知音登録してねーし)

 (そういう嘘はいいから!私の後ろの席って甲斐田しかいないんだし、どう考えたってあんたしかあり得ないでしょ!?早く認めてよ、自分が鳴らしたんだって!)

 (はっ、本当はテメーが鳴らしたくせに罪を俺にかぶせるつもりかよ?というかあの時俺はテメーの席から聞こえたぞ?あの通知音がよ。鳴らしたのはテメーだろうが!下らない罪かぶせてんじゃねー!)

 (う、嘘よ...デタラメ言わないで―)

 (いつまで否認するつもり!?甲斐田君のせいで、今日のホームルームの時に携帯鳴らした人が挙手するまで解放してくれなくて、それが1時間も続いてもあなたが挙手しなかったせいで皆が迷惑してたのよ!?何とも思わないわけ!?)

 (だったらなおさら柴田が悪いんじゃねーか。こいつが挙手さえすればすぐに解放されて下らない無駄時間使わないで済んだ話だろ!?俺だって部活の練習時間を割かれて迷惑してんだよ!というかさっきから俺が犯人前提で話進めやがって、どういう悪質な冤罪行為なわけ?いい加減にしろよテメー?これ以上俺を糾弾するってんなら名誉棄損として扱うぞ、なぁ?)

 (は、はぁ?分けわからないことを言って…!これ以上私たちに迷惑かけないでよ!クラスの和を乱すことしかしない、最低男が!!)

 (んだと……!?)


 (ち、ちょっと3人ともどうしたの!?)

 (あ、縁佳!実は携帯鳴らしたことで――)




 今年の5月だったかな?授業中に携帯のメールかアプリの通知音が鳴った。私の高校は携帯電話の持ち込みは自由だけど、休み時間以外で使ったり音を鳴らしてはいけないという校則がある。

 ある日授業中にアプリとかの通知音が鳴り響いてしまい、そのことを教科担当の先生はもちろんそのままにせず浜田先生に報告した。それを聞いた先生は終業時のホームルームで、授業中で携帯を鳴らした人の挙手を求めた。名乗り出るまで誰も帰らせてはもらえず、犯人が名乗らないまま1時間以上も教室に縛られる羽目に遭わされてしまった。


 誰もが限界に達しようとした時、キリがないと判断した先生の温情で私たちは解放してくれた。しかしその後すぐに、あいりから犯人に心当たりがあると話を持ちかけられた。その人は、クラス一の問題となっている男、甲斐田皇雅とのこと。



 その名前を聞いた時、私は“――ああ、やっぱり”っておも――「だからどうでもいいウゼー回想するなって!しかも、無駄に長いっつってんだろ!何糞胸悪い内容を掘り返してんだ、冤罪ふっかけゴミ糞女が!!」



 ベキボキィッ!「ガヒィ!?」


 また回想に入って...しかも俺のことくっそディスってる気配がしたから、奴の腹に力をややセーブした回し蹴りを叩き込んだ。

 骨がほぼ全部折れて内臓もいくつか潰された中西は、喀血しながら勢いよく地面に落下していった...。





 時間を少し遡って...。再び戦場へ戻るとすぐにまた兵の大軍に囲まれる。360度隙間無く矢と弾丸・砲弾の雨が降り注がれる。全ての獲物には聖水があるようで、素手で対処すれば腕や脚は無事じゃ済まないだろう。ぐるぐる回りながらありったけの魔力光線を放って一掃、ついでに雑魚どもも消し炭にしてやった。

 だが唯一、光線を防いだ戦士が、レベル9相当の魔力光線を放ってきた。障壁で防いでその正体を見れば、次に殺すと決めていた中西晴美が自分から現れてくれたではないか!


 こちらに敵意や侮蔑を込めた視線を寄越してきたのでウザいと思い、「瞬神速」で接近して思い切り(殺さないよう)蹴り飛ばした!

 ――っていう流れだ。

 



 地面で無様に倒れる中西を、堂丸の時と同じように掴んでまた戦場から一時離脱しようと急降下したその時――


 “水槍”


 どこからか音速で放たれた水の槍が、俺の胸を貫き俺は吹き飛んだ。つーかこの水、聖水100%じゃねーか。槍で空いた穴が全然塞がらない。回復が機能できていない...!

 こんなえげつない魔法使える人間は限られるよな...。


 「“回復ヒール”」


 さっきの水魔法を放った奴がそう呟いた直後、中西の腹のダメージが全快して体力も回復していた。その場で立ち上がる中西は再び魔法杖を構えて睨んできたが、俺は乱入してきて回復魔法を使った彼女の方を見ていた。



 「あんたか......藤原美羽」

 「甲斐田君、君は...!!なんて、ことを...」

 

 俺の前に、人族最強やまたわたると肩を並べるだろう戦士に成長を遂げた、連合国軍の切り札...藤原美羽が、現れた...!



 「こうして対面するのは半年ぶり?あんたも、今は魔石を摂取してるようだな?今の魔法は明らかに人間レベルを超えていた。あそこまで強くなるものなんだ?」

 「知ってるのね、魔石で私たちが強化してるってこと。そう...私たちは命を懸けて、魔石を使ってでも君を止めるって決めたから...!」


 一瞬悲痛な表情を浮かべたがすぐ引っ込めて、戦う気満々の面構えで俺と対面する藤原。中西も彼女と並んでこっちを睨む。


 「私たちは俺を止める、か...。さっき血気盛んに突っ込んできて俺に無様に殺された堂...某君は、俺を殺すつもりでいたが?俺を止めるって思ってるのは、もはやあんただけじゃないのか?」

 「っ......!」


 言い返そうにも言葉が見つからないのか、悔し気に歯噛みするだけに終わる。だが隣にいる糞女は何か言ってきた。


 「堂丸君をよくも...!美羽先生、やっぱりこの男は止めるだけじゃダメです!完全に消した方がみんなの為です!!クラスメイトを平気で殺すこんな外道、もう生きてはいけない!!」

 「中西さん...それでも私は...!」

 

 どうやら中西もあのクソ野郎と同じく俺を完全に消す気でいる。ここからは殺す気で魔法を放つだろうな。こいつらは物理攻撃より魔法・魔術が得意そうだし。まずは藤原から離れなければなぁ。雑魚兵士はともかく彼女がいる中では、復讐に集中するのは困難だ。

 

 「つーわけで、あんたとは一旦お別れだ、藤原――」


 “炎の嵐渦フレイムストーム


 俺が動く仕草を見た瞬間、藤原がすかさず炎と嵐の複合魔法で、俺を炎嵐の檻に閉じ込めた。分断させようとしたのがバレたらしい。その隙を突いて、中西が魔力光線をいくつも放ってきた。どれも殺意が込められた一撃だ。が、無駄だ。


 「確かに威力は高い。けど通用するのは魔人族止まりだ。それすら凌駕する俺の前じゃあ無意味!!“魔力防障壁・最大硬度”」


 全身にピッタリと障壁を張り付けて、ザイートの鎧みたいにつくりあげたバリアーで全ての光線を防ぐ。そしてクラウチングスタートからの猛ダッシュで、炎嵐の檻を強引に突破した。

 

 「そ、んな...魔石で強化した私の魔力光線が全く通用しない...」

 「く...!」


 二人とも愕然と、悔し気に顔を歪める。特に中西にいたってはショックのあまりか、動けないでいる。中西...魔石でこいつも堂丸に劣らず人間離れしたステータスをしてやがる。




ナカニシハルミ 18才 人族 レベル75

職業 プリースト

体力 110000

攻撃 50000

防御 100000

魔力 600000

魔防 100000

速さ 100000

固有技能 全言語翻訳可能 光魔法レベル9 水魔法レベル9 雷電魔法レベル9

魔力光線(光 水 雷電) 回復(状態異常完治 回復付帯付与) 魔力防障壁 限定強化



 能力値高いな...まぁそれは人族の範囲内では、だ。レベル9程度の魔法では俺のバリアーは壊せない!

 動けないでいる中西の髪を掴んで高く跳びあがる。意図を察した藤原が、さっきの水魔法を飛ばしてきたが、“分裂”で発生したもう一人の俺が、それを止めた。


 「!?甲斐田君が、なんで二人...!?」


 分裂体の俺を見た藤原が予想外だと言いたげに狼狽えている。ああそうか。これを発動したのは今日が初めてだから、連合国軍側は知らないのか?残念だったな、情報戦はこっちが上手ってこと!

 藤原は分裂体で足止めさせる。その間はオリジナル体の俺が、この糞女に復讐する...!雑魚のこいつなら力を削った状態でも十分甚振って苦しめてやれる!! 

 雑魚兵士どもを殺し散らして今度こそ戦場を離脱して、数秒間移動したところで中西を堂丸と同じように地面に叩き落とした。さって~~二人目の復讐と行こうか!


 意気揚々と追撃をかまそうとした.........が、体にふと違和感を覚える。



 「...?体が、あれ...動かない?」


 やがて全身の自由が奪われて俺は頭から墜落して、倒れ伏した。



 “死霊操術ネクロマンシー



 どこか遠くあるいは近くからそんな詠唱が聞こえた気がした。この声、確か...



 (これで体の自由は利かなくなったはずだよ...甲斐田君)


 

 そうか...ここでが出てくるか。中西の窮地を見て、ついに動き出したってことか.........藤原・八俣に続いて、俺にとって要注意すべき奴が...!!





 「呪術師 米田小夜...!」 

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