〈蜘蛛〉
雨上がりの夜空を照らす月明かりの下、提灯、松明を片手に街道を北上する生きた者達。
後方には、おびただしい数のゾンビが様々な 【音】 に誘導されノロノロと付いて来ていた。
その音は半鐘をはじめ、三味線・尺八・琴・太鼓などの楽器をはじめ、鉄板を叩く者までいた。
楽器を任された者達は馬車に乗り必死で叩き、そして弾き 【独奏】 した。
はたから見れば妙な光景であろう。どこぞのチンドン屋見習いが先頭に立ち大名行列を真夜中に率いている。そんな光景であった。
――「音が鳴っている間は黒妖犬も忍ゾンビも、今の所大人しいっスね」 助さんは後ろを見ながら言った。
「音を鳴らし続けよ! ゾンビどもがはぐれぬよう監視し続けるのだ!」 ご隠居は馬にまたがり声を張り上げた。
「ご隠居と銀子殿まで…… 危険な夜道でござるぞ」 格さんが言った。
「向かっておる場所は極々少数しか知らぬのだ。そして余がこの目でゾンビ共の最後を見届けねば。あいつも浮かばれぬのだ……」
「頑張るでありんす。杏音さん」
「ありがとう。銀子さん」 杏音はそう言いうと隣でずっと黙り込んだまま馬に乗っていたトウイチに声を掛けた。
「トウイチさん…… 正三さんは――」
「……」
トウイチは下を向いたまま杏音に手で合図をするだけだった。
夜通し街道を進み続け気が付けば太陽が少しずつ顔を出し始める。げっそりとした顔付きの者が次第に目立ち始め、馬上ですら睡魔が襲い掛かり視界が狭くなっていく一行……
その後方からの大きな声で皆、我に返った。
「音を出せ! 化物が乱れているぞーっ!」 赤穂浪士の生き残りが列の先頭へと走って来た!
「のわわ! しくじったでござる!」 格さんが後ろを振り向くと既に生き残っている切死端と忍、幕府軍がゾンビ共と戦っていた!
演奏者達は無我夢中で再び音を大きくするがゾンビ共が静まる気配はない。
「皆の者! ゾンビの群れを鎮圧するのだ!」 ご隠居の掛け声とともに一同は後方へと急ぐ!
すぐさま杏音と切死端の民は馬上から銃を放ち、幕府軍は街道を外れるゾンビを斬っていく。
「アレを見てくだサイ! アイツが中心となって群れヲ乱しているようデス!」 グレンが叫ぶ先には奇怪な動きをしているゾンビの姿があった。
「ネズミ! この野郎~っ!」 助さんはハットリゾンビに向かって行き、持てる全ての力を出し大きな青竜刀を振りかざす!
――ズバン! ……ゴロゴロ
確実に何かに当たった感覚はあった。が、そこには真っ二つに割れた丸太だけがあった。
同時に助さんの背後にハットリゾンビが迫る!
――ガン!
格さんの鉄の拳が命中し、吹っ飛ぶハットリゾンビだったがバク転をしてピタリと立ち止まった……
「まったく…… ゾンビになっても厄介なヤツでござるな」
――ダンスゥーッ!
二人に襲い掛かるハットリゾンビ!――
ダダダダッ! 「くらえ!」 杏音が走り銃を構えた!
バァーン!
キシャアアアア! 散弾が命中し怯むハットリゾンビ。そして助さんが迅速に動いた!
ズバンッ!
大きな青竜刀がハットリゾンビを真っ二つにした! 急所は外したものの下半身はすぐに動かなくなり上半身は宙を舞う!
――バッ! カサササ!
ハットリゾンビの上半身はまるで
「ななな! なんという生命力でござる!」
「気持ちわる」
助さん格さんを見ながらクネクネと奇妙な動きをするハットリゾンビ。
カサササ! ――トン
動きが止まるハットリゾンビ。目の前には 【杖】 が行く手を塞いでいた。
「終わりだ……」 杖が仕込刀へと変わる。
――ズン!
バタバタバタ! ピタ……
ハットリゾンビが完全に動かなくなるとゾンビの群れは再び音に引き寄せられ始めた。
トウイチのもとに杏音、助さん格さんが駆け寄る。
――「皆! よくやったのだ! 到着はあと少しなのだ!」 ご隠居が言った。
……カンカンカン カンカンカン
遠く後方で半鐘の金属音が鳴って来た。その力強い音は馬を走らせやって来た。
生きた者達は皆 【正三】 の名前を大きく叫んだ!
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