〈絶望と希望〉

――ヴァアアア!


無数のゾンビが日本橋へと集まってくる!

杏音は一人銃を握り締め、橋へと向かおうとしたその時――


「――って! 撃って! 今しかない! 橋を壊せーっ!」 正三は手に持った槍を投げ捨て大声で叫んだ!


ゾンビの群れが不気味なうめき声を上げ丸腰の正三に襲い掛かる!


「……『すまぬ。正三よ』 橋を破壊せよ! 撃つのだーっ!」 ご隠居の掛け声とともに轟音が大きく響き渡り三発の大砲が日本橋に向けて発射された!


ガガガガ!! ドォーン!! ボゴゴゴゴッ!!


木造の巨大な橋が瞬く間に炎を上げ崩れ落ちていく……


皆、その場に立ちすくみ正三の名前を叫んだ。ただただ、そうするしかなかった……


ゴボゴボゴボ……


正三の姿は大量のゾンビと共に激流の川の中へと消えて行った……


 雨なのか涙なのか…… 皆は濡れる顔のまま粉々に散った日本橋の跡を見つめた。


降り続いた雨が次第に止み、向こう岸では無数のゾンビの塊がうねっている。



――「ねえ! みんな、あれを見て!」 綱吉が言う視線の先を全員が見ると、ゾンビ共が同じ方向へと歩き始めていた。


「警報の…… 音」 杏音は元気の無い声で言う。


「半鐘! 奴ら音に反応しているでござる!」 格さんが大声で言う。


「雨降って地を固まらせるのは今しかないわ! 皆で策を考えましょう!」 綱吉は言った。




「地を固める………… のだ!」 ご隠居はモクモクと煙の上がる改造馬車からサッと降りると突然メガネを外し綱吉の耳元でささやいた。


二人は首を縦に振り、皆の前で言う。


「ここにいる全員! よく聞くのだ! これよりゾンビ共を、ある場所へと音で誘導させるのだ!」 ご隠居が大きな声で言うと、周りからザワザワと声が聞こえてくる。


「そこは大規模な掘削工事中の場所なの! まだまだ未完成だけど、おそらく可能! 絶対いけるわ!」


「……望みが少しでもあるなら進みます! 正三さんだってそう言うはず!」 杏音は言った。


誰一人として反対する者などいなかった。生きた者達は全員頷いた。


「最終試練よ! 亡くなった者達のためにも! この国の未来のためにも! みんな頑張りましょう!」 綱吉は声を大きくして言った。


「うむ! そうと決まれば準備を急ぐのだ! 馬を集めよ! 音を集めよ!」


 生きる者達、最後の試練が始まる。

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