〈日本橋の戦い 弐〉

 瞬く間にゾンビへと変貌する伊賀の上忍ハットリ!


「ダンスーっ!」 ハットリゾンビは暴走状態で暗闇の中を疾走し始めた! それはまさに黒豹が疾風迅雷の如く駆け回っているかのようであった。


「ハットリ様ーっ!」 忍達はハットリを追う!


――サッ!

ハットリゾンビは馬にまたがる赤穂浪士の背後に着地すると即座に首を噛んだ!


――サササッ!

複数の忍がハットリゾンビを囲み、幕府軍の兵が斬り掛かる!

するとハットリゾンビは体を九十度反ったまま奇怪な動きで次々と斬っては噛みを繰り返した!


「向こう! 様子が変だ!」 正三が叫ぶ!


「ネズミがゾンビに!」 杏音とグレンが走って来た。


ボウッ!

忍の煙玉が辺り一面を白く覆う。




生きた者達は全員、その白い煙幕に注目した。

そして徐々に煙が無くなるとそこにはゾンビへと変貌した多数の武士や忍、赤穂浪士がたたずんでいた……


「……ヤバイっス」


――うばばばあーっ!

一斉に襲い掛かってくる強豪ゾンビの群れ! 群れ! 群れ!


「撃つのだ~っ!」 ご隠居達の大砲は日本橋への侵入を防ぐ事で精一杯だった……




――星々の明かりをかき消す爆発の閃光と勢いよく燃え上がる炎。数百の松明が揺らめき声を荒げる武士達。

ゾンビが荒れ狂う高波の様に限りなく押し寄せてくる。力尽き喰われる者、ゾンビへと変わる者。次から次へとそれは湧き出てきた。


「ここは拙者らに任せるでござる!」 助さん格さんドミニコはゾンビの大群を相手にする――


 正三は、ハッ! とした表情で昨晩見た悪夢を思い出した。


「正夢なんかじゃ…… クソくらえ! 行くぞーっ!」


――ウオオオォーッ!

 生きた者達の必死の攻防が続けられる。しかし気がつけばジワジワと日本橋のたもとまで追いやられて来ているのが分かった。


「おいおい! こりゃあマズいぜ……」 仕込刀を振り続けるトウイチ。


――「ジーザス!」 


「むむ! ドミニコ殿!」 格さんの視線の先に飛び込んで来たのは複数の忍ゾンビに噛まれるドミニコの姿。


「グウウウ…… キャプテン! ブラザー! グッバイ!」 ドミニコはオーバーコートの中から焙烙玉を取り出し火を点けた!


「ドミニコーっ!」 グレンと杏音が叫ぶ!


ドォーン!

「ドミニコ殿ーっ!」 格さんは爆風と飛び散る炎の中、そこへと近寄ると複数のゾンビの死体と変わり果てたドミニコの姿があった……



――退却! 退却! 橋を破壊するーっ!

後方から複数の大声が聞こえてきた。


「行くっスよ…… 格」 助さんは格さんの肩を叩き言う。


「数ガ多すぎまス…… 撤退しましょウ。姫」 グレンは悔しそうに言った。


 生きた者達は後退し日本橋を離れる。どんどん押し寄せてくるゾンビの群れ。


「みんな~っ! 橋を壊すわよ~っ! 離れて~っ!」 綱吉が大声で叫んだ!


「おい! 待て! 正三はいるか!」 トウイチが叫ぶ。


「正三さん!」 「正三殿!」 「正三!」


日本橋の中心で一人、次々にゾンビに囲まれる正三の姿があった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る