〈戦場へ〉

――ズズズ

 雨漏りのする薄暗い酒屋。まばらな客に混じり酒を飲むトウイチ。


「急な大雨だなこりゃあ。止む気配もねえや……」 客の一人が言う。


「旦那、葡萄酒ぶどうしゅあるかい?」 トウイチは手元にある酒を飲み終えるとポツリと呟いた。


「……ありますとも。ただね按摩あんまさん、キリスト教やら鎖国やらで上がうるさいもんで内緒でお願いしますよ。フフフ」 店主はそう答えると棚に隠してあったガラス瓶を取り出し、赤い液体を酒器に注いだ。

 トウイチは葡萄酒を受け取ると酒器をクルクルと回し鼻先へと近づけた。

甘く香る葡萄酒を口に含むと野いちごの様な甘酸っぱい酸味が口に広がる。

トウイチはため息をつき目を閉じていた。


……カンカンカン

雨音に混じって半鐘の金属音が江戸中の町という町から連続で重なって聞こえてきた。


「んん? 何だ何だ。この大雨で火事はねえだろうよ」 客の一人が言う。


――「大変だ! 大変だ~っ! 城の偉い坊様が殺された!」 びしょ濡れの町人が大声でそう言い酒場に入って来ると店内にいる人々は皆、顔を合わせた。


「まだ幕府軍から避難命令も出てねえぞ……」 「結界が消える……」 「化物が……」 「押し寄せて……」 


うわあああぁ~っ!


一斉に酒場から飛び出して逃げる人々。


「……ハハハ、按摩さんどうします?」 店主はトウイチに話しかけた。


「ちょっくら退治してくらあ……」 トウイチは木製の机の上に金を置くと雨の振る中、酒場を後にした。


「……ハハハ、お気をつけて~」


 鳴り止まない雨音と金属音。逃げ惑う人々の声。

トウイチは視界の悪い中歩き続けた。


川沿いに柳の木が並んでいる。

かたわらに白い着物の女……


「う~む。臭せえな……」 トウイチは仕込刀を動かした。


――バシャン! 


 遠くで銃声と爆発の音が響いている。

徐々にその音が大きくなってくると、そこは木製アーチ状の日本橋だった。

橋の反対側では膨大な数のゾンビがうめき声を上げ押し寄せて来ている……


「進め! 進め! 京橋まで押し返せ~い!」 日本橋で戦闘準備を進めていた幕府軍がいち早くゾンビの群れと戦っていた。


「大砲発射用意!」


「だっ! だめです~! 雨が……」 


降り続く豪雨で思うように大砲や火縄銃に火が引火しないようだ。


「ええい! 刀を持て! 槍を持て~い!」


――ドドドっ! ドドドっ!

「我ら赤穂浪士! さんずるーっ!」


四十七人の赤穂浪士は馬を走らせ日本橋を突っ切りゾンビの群れへと向かって行った!


遅れて切死端の民とハットリ率いる忍が日本橋へと到着した。


「トウイチさ~ん」 正三の声が聞こえると、杏音、助さん格さんがやって来た。


「絶対にここから先へは通さんでござる!」


ウオオオォーっ!

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