〈作戦会議 弐〉
エッサ! ホイサ! エッサ! ホイサ!――
律動的に狂い無く繰り返される掛け声と小走りの振動が心地よさをも感じさせる。
黄金色の
――「ばああぁ~っ!」
何処かで見たことのあるド派手な色彩の僧侶の服装をした、しわくちゃな老人が出てきた。
「……なんか、ご隠居さんより凄そうなのが出てきたぞ」
「正三さん! あの方が天海様ですよ」 杏音が言う。
「拙者もお目にかかるのは初めてでござる」
――「この方は天海大和尚! 今から結界について話して下さるわ! ……少しだけ分かり辛い部分もあるかと思うけど…… 勘弁してちょうだいね。 ――大和尚~。空の虹。ヨロシク~」
「ホヘ? ぼ、僕の作った 光の壁? それ凄いんだから。四人の か、か、か、神様に守ってもらってるんだ。でもね、僕が 寝ちゃったら 壁 は 消えちゃうんだ。僕 そろそろ 寝る時間 なんだ……。 家康くんも 寝ちゃった からさ……」
「家康とは、まさか、初代将軍様の事でござるか!」 格さんが言う。
「ええ。天海様のご年齢は ……たしか、百七十歳です」 杏音が答えた。
「百七十!」 大広間に正三の大声が響く。
――「ええ、そうよ。大和尚のお年は百七十歳。ここ、江戸が造られる前からご存命よ。神道や陰陽道、風水の奇跡と言った所でしょうか。でも本人曰く 【寿命】 が迫っているようですわね」
「 龍脈の 流れが 段々 弱くなってるんだ。 母上に叱られるから 僕 もう お家に 帰るよ」
――「東西南北の神社から集められた 【気】 が江戸の中心 【天守閣】 に集まってるの。大和尚はそこで結界を張り江戸を守ってくれてるの。 ――大和尚、わざわざ、ありがとうね」
綱吉が言うと、駕籠担ぎの二人はそれを持ち上げ上段の間を離れる。
エッサ! ホイサ!
再び心地よい掛け声が響く。
――「ああ! お姉ちゃん! 元気?」 天海は杏音を見て嬉しそうに言った。
杏音は笑顔で礼をして手を振った。
「あっ! ちょっと 待ってよう! 向こう。 あっち 行ってよう!」 天海は駄々をこねる様にそう言うと杏音達の方へと駕籠担ぎを誘導する。
――「キミ も そろそろ寝る 時間 ダヨ……」
「ぼ、僕が……」 天海はしわくちゃな顔で〈正三〉を見つめ言った。
辺りは静まり返る。
そして天海は、杏音・正三・トウイチ・助さん・格さんを順に眺めると急に泣き出した。
「あ か………… うわああぁーー!」
「行って!」 綱吉が言うと駕籠担ぎは急いで大広間を後にした。
――「正三さん、大丈夫よ。あなたは全力で私達が守るわ!」
「……うむ! 命の危機が迫っておるのは何も正三だけではないのだ! ここに居る者達全員! そして江戸にいたっても」 綱吉とご隠居が言う。
――「んじゃ! 俺はここで失敬するぜ! 下町で酒でも飲んでくら~」 しばらくの間、口を閉じていたトウイチはそう言うと、ゆっくり大広間を出て行った。
「トウイチさん! こんな時に……」 杏音は小さな顔を膨らませた。
「ハハハ…… いつもの事っスね」 助さんが小さな声で言った。
――「どうあれ、残された時間は少ないわ。せめて今日だけは皆さん、ゆっくりとお休みになってね。我が幕府軍が日本橋で戦闘準備を進めているわ」
「……橋を壊す。日本橋を破壊するのも手ですよね」 正三がボソっと呟いた。
辺りがざわめき始める。
――「これはまた、とんだ奇策なのだ。幕府専属の戦略家として働いてもらおうかのう」
「一理あるわね。でも、それは最終手段として考えておきましょう。目的は化物、ゾンビの殲滅が優先ね。ありがとう。正三さん」
こうして 【つわものども】 が集まる作戦会議は終了した。
迫るその時が来るまで一同は一時の休息を得る……。
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