〈覚醒〉

「ご隠居さん、そこに落ちてるダガー拾って下さい……」 正三が小声で話しかけるとご隠居はげっそりした顔でゆっくりと頷いた。


 想肉の洞窟で縛られ監禁された三人は脱出を試みる。


「しっかりして下さい…… 三対一なら大丈夫ですよ」 正三はそう言い、見張りの村人を見た。


見張りは目を一点に集中させ無我夢中で調理台に置かれた新鮮な想肉をぱくぱくと盗み食いしていた……


 ご隠居は足で正三の目先まで地面に落ちたダガーを引き寄せた。

パクっと素早くダガーを口にくわえた正三は器用に背中の後で縛られた腕までそれを持ってくると縄を少しずつ切っていった。


濃いオレンジ色の薄暗い洞窟内にクチャクチャと弾力性のある臓物を噛む音が響き渡る……


――「お前らも先覚者になればいいのによう。こんなクソみてえな世の中、まともにゃあ生きらんねえだあよう」 見張りはそう言うと再び山積みの臓器をいじくりだす。


――「まともに生きてやるさ!」

 

「ひぃっ!」 


見張りの背後から正三が飛びかかり、怯んだ所をご隠居が杖で殴りつける! そして銀子は泣きながら縄で見張りの首を絞めつけた~っ!


見張りは口から泡を吹き白目で倒れこんだ。


「こんな所早く出ましょう!」 三人は想肉の洞窟を後にした。


         ◇


――「どうなっている!」 清吉が村に戻ると逃げ回る人々、暴れ回るゾンビの姿が目に飛び込んで来た!


「あれはクマ!」 清吉がそう言うとクマゾンビが清吉の方へと襲い掛かって来た!


すぐさま清吉は、やつれた村の女を掴み刃物で滅多刺しにするとクマゾンビの方へと投げつけた!


「ほらどうだ! 新鮮な想肉だぞ!」 クマゾンビは女に喰らいつく。子分ゾンビ共もフラフラと寄って来た。


次に清吉は、やつれた村の男を捕まえ血まみれにし腹から腸をひっぱり出したまま子分ゾンビの方へと投げつけた!


 清吉の衣類は全身、真っ赤な返り血に染まり所々には内臓もこびりついている……


「旨いだろう! ほら私に従え!」 清吉は刃物に付いた血を舐めながらクマゾンビ達に近寄る。


ゾンビどもは清吉を襲わないようだ……


「ゾヴ…… ニグゥ……」

 

「ウキャキャキャ! 化物どもを手なずけたぞ! 我! 地獄の将軍! 我! 支配者なり! 先覚者達よ! 血を浴びろ! 全員想肉! 皆! 想肉だあ!」 清吉が狂った様に大声を上げ言うと柄の悪い先覚者達は奇声を上げ、やつれた村人を襲い出した!




「皆! 想肉!  皆想肉!  ミナソウニク!」




その言葉だけを連呼する先覚者達……


先覚者の中には引き始め村から逃げる者も現れ始めた。



 正三、ご隠居、銀子の三人が村へと戻った。


――「あれは!」 正三の視線の先には絵を描いていた少年がゾンビに襲われていた!


「坊や!」 銀子が血相を変え走り出し刃物でゾンビの頭を突く!

ゾンビが倒れると銀子は少年を抱きかかえた。


「ありがとう! おばちゃん!」


「キーっ!」


「あんちゃん! 村が! みんなが大変だ!」


「何処かに隠れてろ。絶対、村は守る!」



 トウイチ、杏音、助さん格さんの四人が村の入り口まで戻ってきた。


――「皆さん! あそこ!」 杏音の視線の先には山村まで道案内をしてくれた、やつれた村人二人が走って来た!


「化物が…… 清吉さんが…… すまねえだ」


四人は顔を合わせ走る。

 

 暴走する先覚者達とゾンビが入り混じる山村に七人が再び集う。

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