〈開戦 壱〉

 山々から朝日がようやく顔を出し始めた。

山道には散らかり放題の枯れ葉が落ちており踏みならされた跡が続いている。その先に見える小高い山の頂上に木造の建築物が見え始めた。


「案外立派だな。あれが砦っスか?」 助さんが言う。


「そうだ。昔、関所があった廃屋を根城にしてるのさ」 オノが言う。


――枯れ葉の道を進む一行。頂上付近まで行くのにさほど時間は掛からなかった。


 老朽化した関所が目と鼻の先に見える。そびえ立つ門の前でトウイチが、ぴたりと止まった。


「……監視の一人も居ねえ。ゾンビも居ねえ。お前ら、いい加減正体を現せ」 トウイチがそう言うとオノ・クワ・カマの三人は目を合わせ突然笑いだした。


「ガハハ! ちっと早ええが、やっぱりばれちまったか!」

「オメエらはバケモンになるか、想肉になるか。どっちだあ!」

 

「フン! 清吉の野郎といい、お前らといい、体中から人間の血と脂の匂いがぷんぷんすらあ……」 


「……共食いと言う事でござるか」


「昨日の肉…… あぶねえっス」


「……許せない」 杏音は銃を握った。


「お姉ちゃんよう、人はまだ斬った事ねえんだろ。良かったなあ。こいつらはゾンビ以下だ。たたっ斬れ」


 次の瞬間、カマが口笛を吹くと門の前に身を隠していた賊どもがぞろぞろと姿を現した!


――「クマのお頭! 女はオラにくれろ!」 クワが言った。


「んばばば、バカたれ! ワシが先だばあ!」 クマと呼ばれた男は大柄で毛深く鎖で繋がれた人の顔の倍はある大きさの鉄球を持っていた。


 そして、高い関所の門の屋根にも数名の賊の姿があった。


「ネズミ様、清吉の情報によれば、奴ら中々の腕前だそうで」


「クマの奴に手を貸す事はないざんす。まずは見物ざんす」 ネズミと呼ばれた小柄な男は出っ歯で小刀を二本持っている。


――「四対五十といった所でござるか」 格さんは目つきが変わった。


「いいい、今頃、村に残ったお前らの仲間はアイツに切り刻まれて旨そうな想肉になってるべえなあ! お前ら! やれえっ!」 クマが言うと賊どもが一斉に襲い掛かって来た!


「散れ!」 トウイチが叫ぶ!


「了解っス!」

 

「クマは拙者に任せるでござる!」


「主よ、お許し下さい!」


 狂った様な大声で賊どもが押し寄せて来た!


トウイチは賊の攻撃を見切ったかの如く瞬時にかわしながら斬る! 斬る! 斬る!


助さんは大きな青竜刀を振り回し華麗に斬る!


格さんは賊の攻撃を避けながら一直線にクマの方へと向かって行く。


杏音はスパイクで刺す! ……が攻撃が当たらない。クワが杏音を押し倒した!


「ウケケケ! オラのソウニクだ~!」

 

――ズバっ!


「ホゲェーっ!」


クワの腹から刀が貫通した!


「バカヤロウ! 気合入れろ!」 トウイチが活を入れると杏音は立ち上がり大声を上げた!


「うあああああ!」 賊にスパイクを突き刺した!


――ドーン!


乱戦の中、クマの鉄球が地響きを立てる!


「当たれば骨がへし折れるでござるな…… 一気に攻めるでござる!」 格さんはクマに向かって行く!


しかし、強烈なクマの頭突きが格さんにヒットする!


「格さん、ピ~ンチ!」 助さんがクマに斬り込む!


しかしクマは鎖で青竜刀を弾き返した!


「んばばばば! ワシは天下無敵だど~ん!」 クマが鉄球を振り回すと辺りの木材は粉々になり吹き飛んで行く!


「あいつら、てこずってる見てえだな…… お姉ちゃん無事か!」 トウイチは杏音に言う。


「ありがとうございます! もう平気!」 杏音はそう言いながら賊を次々と刺して行った。


「OK!」 トウイチも次々と賊を斬って行く!


 クマに苦戦中の助さん格さんは目を合わせ頷くと二人同時に攻撃を仕掛けた。

クマが鉄球をぶん投げると格さんは鉄球を避ける事なく鉄のナックルで無理やり受け流した! 鉄と鉄の大きな音そして摩擦で火花が散る! 鉄球はドン! ドン! と地響きを立てながら鈍く地面に転がった。

先ほどの頭突きで額から血を流す格さんはクマを見てニヤリと笑みを浮かべた。


「同じ事をーーっ!」 クマは鉄球を投げた反動を利用して向かって来る助さんに左パンチを出す!


助さんは青竜刀を盾にパンチを防いだが吹き飛んだ!


「無駄! 無駄! ムガーーっ!」 クマが咆哮すると格さんが叫んだ!


「ぬあああーっ!」 何と! 格さんは鉄球をクマの方へとぶん投げた!


「ばぶうっ!」 鉄球が勢いよくクマの腹に直撃した! 内股で関所内へと後ずさりするクマ。


「好機!」 助さん格さんは声を合わせ関所内へとクマを追った。


「お頭!」 賊どもがクマの方へと皆走る。杏音も後を追う。


 関所の敷地内は荒れ放題で建物はほとんど崩壊していた。しかし、四方を囲む柵やら侵入を防ぐ大きな置物は新しく頑丈に出来ていた。


 遅れて敷地内へと入ったトウイチはピタリと立ち止まり言った。


「臭せえな……」 トウイチの向いた方向には怪しい白塗りの壁一面に血がべっとりと付いた屋根無しの大きな蔵があった。


「ネズミーっ!」 クマが叫ぶと高い門の屋根にいたネズミが何かを投げる。


――シュパッ!

 

 蔵の扉の錠に 〈手裏剣〉 が刺さり勢いよく開錠されると、中から大量のゾンビが飛び出して来た!


ばあああああ! ぐばああああああ!


「こでもクソくらえ!」 クマは助さん格さんに向かって鉄球を投げ、鎖を二人の体に巻きつけた!


「ぬおお! 体が動かんでござる!」


「ヤバいっス! ゾンビがあ!」


「その鉄球は冥土の土産に鎖ごとお前らにやるべえなあ!」


トウイチは賊を斬りながら二人の方へと走る!


身動き出来ない助さん格さんに迫る大量のゾンビ! 絶体絶命の大ピンチ!

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