〈清吉と正三〉
眠っているのか、起きているのか、最初に動いたのはトウイチだった。
壁に背中を付けて座り込むトウイチは仕込み杖を握る。
その微かな違った物音で目を覚まし即身構える助さん格さん杏音。
――家の戸がゆっくりと開いた。
そこには清吉がオノ、クワ、カマを持ったガラの悪い連中を連れ戻って来たのであった。
「ああ、申し訳ありません。びっくりさせてしまいましたね…… もうすぐ出られる頃かと思い。こちらの三人は砦までの道案内件、戦力として使って頂ければ」
「ん? 清吉さん」 正三がムクっと起きた。
「お前ら準備しろ。いくぜ」 トウイチは仕込杖を持ち立ち上がった。
寝ているご隠居、銀子をのこし、準備を済ませ外へ出る一同。
――「では留守の間、ご隠居を頼んだでござる正三殿」
「気を付けて。こっちは任せて、格さん」
トウイチ、杏音、助さん格さんとオノ・クワ・カマは賊の砦へと出発した。
霧がかった山村の朝。見送る正三と清吉以外はまだ村人の姿はない。
トウイチ達の姿が見えなくなると清吉が溜息を付き口を開いた。
「……正三さん、化物だらけになってしまった今をどう感じ、どう思われますか?」 清吉は目を細め言う。
「このままだと江戸どころかこの国まで無くなってしまいますよ」 正三は清吉を見て言った。
「人の人たる所以とは…… 私達は強く生きて行かなければなりません。たとえどんな状況であっても。賊に傷付けられ奪われようとも。むだなく能率的に…… 順応力の無い者、指導者に従わぬ者はこの先、生きては行けないのです。この山村、故郷を無くしてはいけない。もっともっと大きく力を付けていく事が私、先覚者としての役目なのです」 清吉は遠くを見つめ言う。
「トウイチさん達は強い。賊を追い払ってくれますよ。絶対!」 正三は言う。
「……果たしてそれが正しいのでしょうか。賊どもと共存し合う事もまた一つの道…… 私は何者にも屈してはいけないのです。村そして私の為に亡くなった者達の為にも!」 清吉は力強くそう言うと正三を見て笑顔で礼をした。
「ご老人と奥方が起きましたら是非あの洞窟へいらして下さい。そこでお待ちしております」 清吉はそう言うと去って行った。
霧がかった山々が見渡せる山村の丘にて。
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