〈大和尚〉

――教会


ガハハ! 


広い室内に、ご隠居の下品な笑い声が響く。


「しかし、お前さんが本当に魔術使いじゃったとはな。余は終始驚いておるのだ!」


「ご隠居様、飲み過ぎでありんすよ」


「まったく、水戸の将軍殿には敵いませぬな。 あれから半世紀以上…… 多くの傷跡を互いに出した、救われぬ戦じゃったが、今はこうして酒を飲み交わしておる。主はお許し下さったかな」


「ケッ! 老人の昔話が始まったぜ」 トウイチはご隠居、銀子、天草四郎と離れた場所で酒を飲んでいる。


「あちらに行かれては?」 教会の隅で壁に背中を付けて座り込むトウイチに、お酌をするシスター。


「俺はここでいいよ。姉さんはこの村、長いのかい?」


「キリスト教徒になってもう二十年になりますよ。生きる喜びを与えてくれた主に日々感謝しております」


「そうかい。そりゃあ良かった。ここは居心地が良さそうだな」


「どうです? 洗礼を受けてみては。うふふ」


「俺は間にあってるよ。姉さん。得体の知らねえ教義や規律は信じないタチでね」


「お強いんですね。主のご加護があらんことを」


「ありがとよ。シスターの姉さん」 そう言うとトウイチは三人の元へと近寄る。


 教会の外からは切死端の民の威勢の良い声が聞こえてくる。


――「それで、ゾンビ討伐の策ってのは、ただ単に数勝負ってかい? 噛まれちゃおしまいだぜ。天草殿」


「策は全て、天海に任せておるよ」


「むむ! 大和尚、南光坊天海とな! これまた老体にムチ打ちなのだ! ガハハ!」


「お姉ちゃんが言ってた風水とか言うやつか?」


「風水、それすなわち陰陽道、陰と陽の二元論からなる秘術ですな。成功は神のみぞ知るが私は天海を信じておるよ」


「また秘術か…… 面白れえ。とにかくその天海ってのがなんだな」


「……神は時として理不尽だのう。トウイチ殿」


「だなあ……」


――「さあ、皆様、明日の出発は早いでしょう。もうお休みになられては?」 シスターはそう言うと空いている食器を片付ける。


――「一つお願いがある。この場所、切死端村は是非とも口外せぬようお願い申し上げる」 天草四郎は頭を下げて言った。


 広場の焚き火が色濃く燃え上がっている。

集落に夜の帳が下りた。村に残る者。江戸へと向かう者。それぞれの複雑な思いが宵闇の集落を包み込む。

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