〈武装〉
霧の濃い集落の朝。
清々しい草木の匂いが一段と強く香る。
まだ日も昇る前から村人達は家畜の世話や畑仕事をいつも通りにこなす。
村の中心、焚き火の広場にトウイチ達は集まった。
「くわ~、昨日は飲み過ぎたっス」 助さんは眠そうに言う。
「あれ? 格さん服装が違いますね」 正三が格さんに問いかける。
「うう! これはその…… 切死端の民にプレゼントされたのでござる! 生地が丈夫でござる~!」 格さんは、しどろもどろで答えた。
しばらくして教会からシスターに支えられながら天草四郎が出てきた。村人達も朝の作業を中断して広場に集まって来る。
「お嬢ちゃんと切死端の民が見当たらんのだ?」 ご隠居は銀子と一緒に辺りを見渡す。
――「来たみたいだぜ」 トウイチは下を向き呟いた。
集落を覆う朝霧に複数人の団体らしき人影が浮かび上がって来た。うっすらと先頭に杏音とグレンが確認できる。
珍しい先の尖った革靴から、ザザザと歯切れの良い足音がする。
――「お待たせしました。準備に時間が掛かってしまい……」
「切死端の群衆! 勇壮なのだ!」
「これは百人力でござる」
「皆さん同じ旅装ですね。周りの景色と一体化した緑の道中合羽だ。カッコイイな」
「オーバーコートと言って迷彩という色使いなんです。特にこの下には――」
「――姫、その話はまた後デも……」 グレンは苦笑いで言う。
「あ、すいません。ええと、ではこの大人数で江戸へ行くには目立ち過ぎるので、幾つかに分かれて行動したいと思います。私はご隠居様達と一緒で問題ないですねグレン」
「ハイ。 ――助殿、江戸でまた会オウ」
「ういっス! ゾンビぶっ倒してまた飲むっスよ」
「ドミニコ殿! 一番大きいから見つけやすいでござる。またでござる~!」
「水戸の将軍よ、頼んだぞ。そなた達に主のご加護があらん事を」
ご隠居は去りながら背中を向け天草四郎に手で合図をした。
こうして七人と切死端の群衆は一旦分かれ、それぞれ江戸を目指すのであった。
◇
黙々と半日ほど歩き、ようやく道らしい道へと抜け出た七人。
少し疲れた表情を浮かべる杏音に正三が話しかけた。
「杏音さん、それでそのオーバーコートの中はどうなってるんですか? 肩にも物騒な物掛けてますが……」 杏音の身長とほぼ同じ長さの銃を見ながら正三が言う。
「これは昨夜、武器庫でお話した西洋の最新型の銃です。シャルルヴィルマスケットと言って近距離であれば一発でゾンビ数体は吹き飛ばせます。そして銃の先にはスパイクが取り付けられており、槍としても使用可能です。 えっと、そしてコートの下は―― こんな感じです。けっこう重いんですよね……」 そう言うと杏音はコートの中を自慢げに見せた。中には火薬瓶、鉛球の袋、黒い鎖かたびらを身にまとい腰には皮のベルトで短剣が付いている。膝から下は肌が見えており先の尖った革靴を履いている。
正三は口を開けて眺める。
「まさにゾンビハンターでござるな……」
「切死端だけで十分だったりしてっスね」
「そんな事はありませんよ」 杏音は少し照れている。
「あっ! そうそう、正三さんにこれを」 杏音はそう言うと正三に一本の短剣を手渡した。
「銀製のダガー。魔物は銀が苦手なんです。ゾンビには効き目はないかもですが武器がないよりはマシですよ。御守りです。どうぞ!」
「カッコイイ! ありがとう。大事に使います!」
「良いのだ! うらやましいのだ! 心のこもったプレゼントなのだ。余も欲しいのだ!」
「買えばいいだろが! うるせえなあ。行くぞ」
先には江戸へと続く大きな街道が見えるのであった。
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