〈あふれ出る絆〉

――集落・広場


 焚き火を中心に数十名の切死端の民が意気揚々と集まっている。


「出発前の寄合でござるな」


「格さんみたいな体格の西洋人が切死端であとは皆、樹海の…… キリシタンっスよね。多分」 助さん格さん二人は、その熱気高まる広場を眺めていた。


――「オイ! オマエらもエドに行くんダろ。アシ引っ張るんじゃねえゾ」 焚き火の周りから助さん格さんを茶化す西洋人達の声が聞こえる。


「格さん、ズバっと言ってやるっス!」 助さんは少し逆上している。

 すると熊並みの切死端がこちらに地響きを立てながらやって来た。


「オマエ。オレ、スモウする。ショウブ!」

 熊並みは格さんを指差し片言で言う。


――「ぬん! 拙者、相撲は大の得意でござる! 勝負でござる!」 普段は謙虚な格さんだが、焚き火の炎にあてられてか妙に乗り気で答えた。


「おお! やるっス~!」


 辺りから歓声か怒声か雄叫びがあがる。


――「ドミニコ! やめヌか!」 突如、長髪を結んだ髭を生やす男が割って入って来た。


「四郎様のお客人だゾ」 そう言うと男は助さん格さんの前にやって来た。


「失礼いたしましタ。明日ノ出発ヲ前に志気が揚がり酒モ入っておりましテ。 ……アア、申し遅れましタ。私、切死端を仕切っておりますグレゴリオと申しまス。どうぞグレンと呼んで下サイ」 グレンは深く頭を下げた。


――「グレン殿! 男には引けぬ戦いがあるでござる! ドミニコ殿と相撲勝負でござる!」 格さんとドミニコは睨みあう。


「かしコまりましタ。デは私が行司ヲ」 

 再び辺りから雄叫びがあがる。



――「ハッケヨイ! ノコッタ!」

 

 グレンの合図とともにドミニコが突進してくる! 格さんは大声をあげ、その猛突進を体全体で受け止めた! 格さんも屈強な体つきではあるがドミニコは、それを大きく上回っていた。両者一歩も引かず硬直状態が続く。

「ぬおおおっ!」 格さんが動く! 一瞬ドミニコが体勢を崩しかかったが上半身裸のドミニコの大量の汗で手がすべり両者、手を離し間合いをとる! 格さんは上着を脱いだ。体から湯気がでる。


――ワアアアッ!


歓声とともに両者の体が再びぶつかり合う。

 熱気が辺りを包み込む中、助さんはいつの間にか切死端と一緒に酒を飲みながら声援を送っていた。

 格さんドミニコともに歯を食いしばり顔は真っ赤である。



……ブビビ!



「ぬああ! 出たでござる!」 尻もちをつく格さん。


「シット!」 辺りから笑い声が聞こえ始めた。


「飯をご馳走になった後でござる! しょうがないでござる!」 格さんは叫ぶ。


「オマエ、ツヨイ! ツギ、レスリング!」 ドミニコは鼻をつまみ笑いながら格さんに向かって行った。


「わわわ! やめるでござる~!」


グレンは笑いながら助さんと酒を飲み始めた。

 広場の焚き火は勢い良く、そして力強く燃えていた。

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