〈切死端村〉

 どれ位歩いただろう。来た道や時間の感覚さえ、まったく分からなくなっていた。そして、杏音が語った数々のに困惑する一行。


――「着きました。あれが私の村です」 

薄暗い大自然の視界が突然開け、人工的に作られたが高い位置に小さく見えた。そして周りには、立派な住居が複数建てられている。


「驚いたでござる。樹海の中にこのような場所が本当にあるでござるとは……」


「ははは。まず見つかる事はナイっスね……」 助さん格さんは驚き、辺りを見渡す。


 その時、集落の奥から数人の男性がこちらに向かって来た。


「姫! 何という…… この様な怪しい部外者を連れてこられるなど!」 目つきの悪い数人の男性は動揺している。


「大丈夫ですよ。この方達はきっと心強い味方になってくれます」 杏音は一同を見て言う。


「こりゃまた。いつの間にか仲間にされちまったようだな」 トウイチは溜息混じりに言った。


目つきの悪い男性達はこちらを睨みながら去って行く。


「悪く思わないで下さい。あの者達、村人のほとんどは、この樹海で自らの命を絶つ事が出来ず森をさまよい、運よくこの地に来た人達です」


「神の導きですね」 正三がそう言うと杏音は満面の笑みを見せた。


「居心地が良いのか、彼らはこの地に残り皆キリスト教徒として洗礼を受けるんですよ。 ――あ、もちろん強制はしてませんよ。では、皆さん祖父の元へご案内いたします」


「――悪いが、お嬢ちゃん。余は遠慮して銀子と共に切死端村の観光でもしとるのだ。助さん格さん、代わりに頼むのだ」 そう言うと二人は手を繋ぎ去って行った。


 杏音を先頭にトウイチ、正三、助さん格さんが後を着いていく。相変わらず出会う村人達の視線が突き刺さる。

 馬・牛・犬・羊・豚・鶏等の家畜を飼育する者。養蚕ようさんで生糸を作っている者。畑で作物を作る者。完全にこの小さな集落は一つの独立したとして成り立っている様であった。


 しばらく進むと町の中心に、大きな白塗りの建物があった。尖った屋根の上には十字架が置かれていた。


――「この教会に祖父は居ります。どうぞお入り下さい」


「緊張するっス。天草四郎って言えば歴史上の英雄っスよね」

 

「戦で死んだと聞いたでござるが、戦犯……ううむ。英雄でござる」 助さんと格さんは小声で話す。


一同は教会の中へと入って行く。

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