――樹海―― 〈秘境へ〉

 鬱蒼うっそうとした薄暗い森。手付かずの広大な原生林に道はなく木々の根、草やコケ等が生い茂っている。杏音は慣れた足取りで道案内をする。


「街道をそれて樹海の中に入ってますけど…… 杏音さんの村はこの先に?」 正三はトウイチの歩く手助けをしながら言う。


「はい。申し訳ありません。これでも安全な道を選んで進んでいます」


「何処をどう歩いているのかもう分けが分からんのだ」


「ここは富士の樹海。一度迷えば生きては出られません」


「ちょっとアナタ! こんな所に連れて来といて何でありんす!」 ご隠居と銀子は手を握る。


「私と一緒なら大丈夫。迷う事はありません。私の村。秘境にご案内します」


「秘境がこの先に、まことでござるか? ――しかし杏音殿、急ぎ江戸へ向かわずとも大丈夫な理由を聞きたいでござる」


「はい。村の長の古くからの友人が江戸全体にを張っています。

存灯ゾンビ】 の群れはしばらく入ってはこれません」


「存灯…… お姉ちゃんの所ではゾンビってんだ? 何か色々知ってそうだな、話してもらおうか?」 トウイチは眉間にしわを寄せ言う。

 

「私の住む村、秘境の民は元々西洋より、この地に渡りゾンビやこの世ならざるものを狩る事を生業としてきた 【切死端キリシタン】 と言う一族です」


「えっ! キリシタンって幕府が禁教令を出してるキリスト教の事ですか!?」 正三は目を丸くして問う。


「はい。表向きはキリスト教の布教ですが、私の祖国、西洋の国ではゾンビやこの世ならざるものが人々を苦しめています。そこで立ち上がったのが切死端。ゾンビハンターです」


「ドクターエンゲル……」 正三は呟く。


「やっぱり…… その男が来ましたか。情報は出島の者より入手してはいましたが」 杏音は悔しそうに語る。


「幕府により弾圧を受ける隠れキリシタンでござるな」 格さんはご隠居を眺め複雑な心境で言う。


「もともと仏教やキリスト教の価値観の違いなどありません! 現に結界を張って江戸を守ってくれているお方も仏教では大変聡明な方。私達、村の長の友人です。幕府や大名達は、ただただ一方的にキリスト教を…… 私達祖先は誰の為に大勢の命を犠牲にしたか……」


「――余がまだ若かった頃、幕府軍とキリシタンの大きな戦があったのだ。その時のキリスト教の若き最高指導者を――」


「――天草四郎時貞。私のです」

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