〈裸戦〉
「ぐあばぁあぁあーー!」
男湯に、ぞくぞくと侵入する化物の群れ!
助さんは青竜刀を持ち戦うが、滑りやすい露天風呂と狭い更衣室では分が悪いようだ……
それを見た格さんは武器なしの裸でも、ムキムキの体格を利用し、正確に一体づつ化物の首をへし折っていった。
「皆さん! 大丈夫ですか!」 正三は女湯に向かって叫んだ。
しかし、正確に聞こえるのは銀子の悲鳴と化物共のうめき声だけだった。
「……! 正三! 助坊! 竹の柵をぶっ壊せ!」 トウイチが二人に叫んだ。
「急ぐでござる! ここは何とか拙者が食い止めるでござる!」 格さんは足で化物を露天風呂のお湯に沈めながら叫んだ。
正三と助さんは一瞬、女の裸が脳裏によぎったが急ぎ仕切りの竹の柵を壊し始める。
――「いやあ~!」 女湯では銀子が叫びながらも無意識の強烈な平手打ちで化物を後退させていた。ビンタスウィングをするたびに豊満な胸が、ぶらんぶらんと揺れる。ご隠居は銀子の尻を掴み、かがんでいる。まるでその姿は母親と幼児を連想させる。
しかし! 目をつぶっていた銀子のビンタが大きく空振りした! 体勢を崩した銀子の目の前に化物が襲い掛かる!
「うきゃー!」
――あきらめかけたその時、銀子が目を開けると一瞬にして露天風呂が赤い血に染まり、化物が湯に浮いていた。
「ご隠居さん! 銀子さん! 私の後ろへ!」
そこには杏音が髪を
――バァン! ガラララ!
男湯・女湯を仕切っていた竹の柵が勢いよく全壊した!
「大丈夫っスか! ご隠居!」 助さんは恥ずかしながらも女湯に入って行く。
「皆さん! 竹を持って!」 正三がそう叫ぶと皆は辺り一面に散らばった竹を持ち、化物の口や顔めがけて突き刺した!
最後の一体を倒し終えた頃には露天風呂が血の池地獄と化していた。脳ミソや目玉、沢山の化物が浮いている。
「皆、噛まれてないでござるか?」 息を上げる格さんの問いに一同は首を縦に振った。
「せっかく露天風呂に入ったのに、これじゃ、僕らも化物ですね」 正三は苦笑いで返り血まみれの杏音と一同を見渡した。
「向こう…… 向いて下さい」 杏音の一言で男達は急いで股間を隠しそっぽを向く。
「でかい温泉宿なんだろ? 何処かにまだ風呂くらいあるだろ。 探してくれよ」 トウイチは手に持った竹を放り投げて言った。
――一刻して、広い玄関ホールに集まった一同。
「そう言えば、よく無事でしたね」 正三はご隠居と銀子を向いた。
ご隠居と銀子は黙ったまま子供の様に杏音を指差した。
「お姉ちゃん、やっぱり只者じゃあねえな」 トウイチが問う。
杏音は一呼吸置いた後、一同を見渡し答えた。
「……皆さんに是非、私の村へ来て頂きたいのですが」
「しかし、拙者らは江戸へ行かねばならんでござるが……」
「大丈夫です。その理由は向かいながらお話いたしますので」
一同は互いの顔を見渡し、きょとんとしながらも杏音について行く。
助さんは一人、温泉宿の入り口で目を瞑り深く手を合わせた……。
「助! 行くでござるよ」
「ういっス!」
硫黄のにおい漂う閑散とした温泉街を後にした。
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