――DAY 弐―― 〈旅立〉

 朝がこない灰色の空。


港を望む丘。その高台から見える港町は所々から、もくもくと煙が立ち上る。座りこんだトウイチと正三は無言のまま、ただただ、その方向を見下ろしていた。


――「あいつだ。エンゲルの仕業だ……」 突然、正三がポツリと呟いた。

同時に、ハッ! と何かを確信したかの如く大きな声で 「江戸が! 将軍が危ない!」 正三が立ち上がった。


「間違いない! これは陰謀だ! しかもトウイチさん!」


正三の向く視線の先には街道を、ゆらりゆらりと歩く無数の化物の群れ……


「あいつら、全部同じ方向に向かって歩いてる……」


――トウイチも、ゆっくりと立ち上がった。


「中心に集まる…… 本能ってやつかねえ」


 使命感に駆られ歩き出すトウイチと正三。


 灰色の空にチラリと少しだけ太陽が顔を見せる。


「化物よりも早く江戸に着かないと。急ぎましょう!」


港を望む丘を下りながら正三は言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る