――DAY 壱―― 〈盲目の男〉
時は元禄、江戸時代。
かの戦国時代がウソかのように人々は平穏な日々を過ごしていた。
「でっけえ港町だべぇ!」
大勢の旅人たちで賑わう威勢の良い声という声が町の活気をより一層引き立てる。
その大きな港町の人で溢れかえる大通り。おぼつかない足取りで杖を持つ痩せ型の浪人風中年男性が現れた。
その男は周りの景色を眺める素振りをしながら、においを嗅ぐ仕草をする。
出会い頭の通行人達は、同情や思いやりからか男に道を譲っていた。中には軽視する者や嘲笑する者も少なくない。自然とその男に意識が向けられていた。
杖で前方を確認しながら目ではなく鼻を頼りにたどり着いた場所は港町中心部の酒屋。
「旦那、酒ちょうだい」 男が口を開いた。
「へいよっ。昼間から酒飲んで大丈夫かい、
杖を持つ男は自らの目を指差しながらこう答えた。
「先のみえねぇ人生なもんで。ノーフューチャーでござんす」 盲目の男はポジティブに返答した。
「ははは。面白い按摩さんだ。まあ、座んな」 店主は心良く迎え入れた。
盲目の男は店内の椅子に腰掛け大きく溜息をついた。
「按摩さん流者かい?」 店主は酒をさしだしながら言う。
盲目の男は笑いながら首を縦に振る。
そうこう話しながら酒を一口飲もうとしたその時――
カンカンカン!
人々の声をもかき消す大音量の金属音が港町中に響き渡った。
「船だ! でっかい船だ! 見たことねぇ! あれは南蛮船だ!」
大きな
「港のカネが鳴ってるよ。何事だ?」 酒場の店主は外へ出た。盲目の流者もゆっくりと席を立ち外へ出る。
人々は皆、港の方へと向かっているようだ。
盲目の流者も何も言わず、ゆっくりとその方向へと歩き出した。
「按摩さん! 気を付けなよ!」 酒場の店主は見送った。
空には海鳥達が飛んでいる。雲ひとつない澄んだ空。海の方から心地よい風が吹き微かに潮の匂いがする。
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