その2
私の父、大崎虎太郎は物理学者で私が小さな時から研究室にこもって家に全く帰ってこなかったり学会で遠くの国の大学に行ったりある時は他の学者と協力研究と言って1年間くらい南極にいたり、正直どんな人か覚えていない。母は高校教師をしていた。彼女は研究で大当たりした父に金目当てで結婚したものの父は全く家に帰って来ないので愛に飢えているのだろう。彼女もまた私が小さい時から朝に帰って来たり、何日か帰ってこないことがあった。多分どこかで作った彼氏と毎晩一緒に寝ているのだろう。彼女はスタイルもよく、顔もいいので男なんかいくらでも集まってくるのだろう。
そんな両親のせいで私は大きな家の中で1人っきりだった。7歳になるまではお手伝いさんもいたけれどそれ以降は自分が使う部屋だけ掃除して自分が食べる分だけ料理した。多分10部屋くらいは10年分の埃に覆われているだろう。想像しただけでゾッとする。7歳からは家事を理由に学校に行かなかった。本当は周りの友達がみんな幸せそうに家族の話をするのが辛かったからだ。今考えると本当に馬鹿馬鹿しい。ただ、家には本棚に埋め尽くされた部屋があり、その一角に明らか不自然な小学〜高校の参考書がまとめておいてあった。そのおかげで勉強には困らなかった。
「お前、家でいつも1人なのか?かっこいいな!兄貴って呼んでもいいか?」
って言ってくるもんだからふざけて
「弟よ!もちろんだよ!」
って言ってみたら
「また遊びに来るよ!兄貴!」
と返されてそれからその子は度々遊びに来るからお返しに数学を教えてあげてた。その時は男のフリして接してたけど、もしかしたらあの時から恋心はあったのかもしれない。生まれて初めて仲良くしてくれた彼に惹かれていたのかもしれない。でも、そんなことその時の私に分かるはずがなく、彼と楽しく遊んでいただけだった。
けれど、そんな日々も父の研究室が海外になってそこに定住が決まってから私もそっちに呼び出されたことで終わってしまった。_________
私は海外に行ってから学校に入ったが誰とも会話せず、卒業し、微人に会えるかもという淡い期待を持って日本の高校に進学した。だけど簡単に会えるわけなく、高校の潰れかけの物研で2年間を過ごした。3年になってまたいつも通り学校に来ると1年の入学式がやっていたので、この子達微人と同い歳だなと思い少し微人を探したけれど見つかるわけがなく、部室でコーヒーを飲みながら本を読んでいた。今日新入部員が来るかもしれないからもし来たなら超ハイテンションで連れ込もう。さもなければ物研は潰れるぞ。という謎の覚悟を決めると、廊下から足音が聞こえたので早速ドアを勢いよく開けて、
「我が物研へようこそ!!私のことはあきら先輩とでも呼んでくれたまえ!」
と言い勢いで連れ込んだはいいものの、その勢いに自分が疲れて、いつものテンションで会話してしまった。とりあえず今日は何もすることがないので、入部届けだけ書いて帰ってもらうことにした。その子が帰ったあとに入部届けに目を通すと、そこに書かれていたのは。
『 入部届け
私はこの部に入部することを希望します
【積分 微人】 』
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