022 『涼ヶ峰姉妹のキャンプ③』

 バミトントンの結果がどうなったかというと、7-2でせりが余裕の勝利だった。

 やっぱりすずなは服装的に動き難いのが敗因となったようだ。


 ちなみに一番のハイライトは、菘が芹の胸の谷間にスマッシュを決めたところだ(すぽって感じにハマった)。

 開幕のつまらない失言を除けば、これが唯一の失点になる。

 というか、これもなんかわざと失点したような感じだった。

 ちょうどいい位置に飛んで来たから、ハマりに行った……みたいな。

 なんでそんな事をしたのかはわからないけどね。


 てなわけで、次は運動でかいた汗を流すべく、近くにある温泉を訪れていた。


「もう湊くんの背中を流して十年くらいになるが、毎年頼もしくなってくるな」


「は、はあ……」


 そして僕は現在、蘿蔔すずしろさんに背中を流されている。

 子供の頃はなんとも思わなかったけれど、この歳になってくると正直気まずい。

 これが思春期ってやつか(多分違う)。


「ときに湊くん」


 蘿蔔すずしろさんは少し間をおいてから、神妙な口調で言った。


「芹と菘をどう思う?」


「……どう、とは?」


 質問の内容が漠然としないので、とりあえず聞き返した。


「つまり、あー、その……どちらかを好きなのかということだ」


「はっ、はあ⁉︎」


 僕は勢いよく振り返った。あまりの勢いに首がグキッとなったが、そんなことは気にしない。

 蘿蔔すずしろさんは真剣な眼差しを僕に向けていた。


「二人が湊くんのことを気に入っているのはよく知っているし、私としても君のことは自分の息子のように思っている」


 もちろんなっちゃんもそうだと、蘿蔔すずしろさんは付け加えた。


「だからこそ私としても、どちらかと結婚してくれるととても嬉しい」


「いや、結婚だなんて……」


「もちろん、湊くんにもやりたいことはあるだろうし、大学にも行くのだろう?」


「まあ、はい……」


「それとも、他に気になる子でもいるのかい?」


「あ、いや……えっと、いない……ですけど……」


 そもそも友達が居ない。

 でもまあ、芹や菘のことを好きかどうかと聞かれれば、答えはイエスだ。


「まだ先の話かもしれないがね、私も早く孫の顔が見たいものだ」


「……い、いや、孫だなんて!」


「なに、先の話さ」


「…………」


 僕は返答に困り黙り込んでしまった。

 蘿蔔すずしろさんは軽い感じで言ったけれど(多分ワザとだ)、これは大事な話だ。

 先の話と言いつつも、近い将来必ず決めなきゃいけないことは分かっている。

 僕は芹も菘も好きだ。だけど、当たり前だが、この国で重婚なんて認められてないし、僕は女の人には正直でいたい。

 ちゃんと一人の人を幸せにしてあげたい。

 大切にしてあげたい。

 だからもしそうなったら––––僕は選ばないといけない。

 二人の姉妹のどちらかを選ばないといけない。


「まあもし、芹と菘どちらかに悩んでいるのだったら、両方でも構わないぞ」


「へっ?」


 予想外な提案をされ、僕は変な声を出してしまった。

 先程考えていた事の真反対の意見である。


「人間社会では重婚はアウトだが、我々は吸血鬼であり、サキュバスだ。人間の作ったルールを守る必要などない」


「…………」


 それは、そうなのかもしれない。

 でも、それは違うと––––僕は思う。


「僕にはそんなこと出来ません」


「ほう、何故かね?」


「女の人を一人幸せにするのさえちゃんと出来るのか分からないのに、二人も幸せに出来るという自信があるほど、僕は出来た男じゃないですよ……」


 それを聞いて、蘿蔔すずしろさんは高らかに笑った。


「はっはははは、やはり君はそう言うかっ」


 蘿蔔すずしろさんの声は浴室ということもありそれなりに響いたが、幸い周りに人は居なかったようで迷惑はかけずに済んだようだ。


「やはり私の見込んだ男だ」


 と蘿蔔すずしろさんに肩をバシバシと叩かれた。ちょっと痛い。絶対赤くなってる。


「私も湊くんと同じように考えている。男が本当に幸せに出来る女性は一人だけだ。私も吸血鬼である前に、一人の男だ」


 もしも君が二人と結婚するなんて言い出したら怒っていたよ、と蘿蔔すずしろさんは笑う。

 なんか、『怒っていた』ではすまない気もするが気にしないでおこう。


「でもそもそも、僕には重婚なんて絶対に無理ですよ」


「それは先程のとは別の理由かね?」


 僕はコクリと頷いた。


「だって僕は人間ですから」

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