021 『涼ヶ峰姉妹のキャンプ②』

 キャンプ場に着きチェックインを済ませたのち、僕は蘿蔔すずしろさんとテントの設営を行った。


 設営したテントのは二つで、一つは蘿蔔すずしろさんのテント、もう一つは先日買ってもらった僕のテントだ。


 やはりこのテントはめちゃくちゃいい。

 自宅の庭で何回か練習がてらテントを張ったことがあるのだけれど––––設営も簡単だし、シルエットも綺麗だし、肌触りまでいい。

 神様が理想のテントを創造したとしたら、間違いなくこのテントを創ると断言出来るな、うん。


「姉さん、まだ寝ていますね」


 菘が未だクーラーボックスの上に座り眠り続ける芹を見ながら言う。


「まあ、いつものことだし」


 ちなみにキャンプ場に着く前に、軽い昼休憩を取ったのだけれど、その時は起きて昼ご飯をちゃんと食べていた。

 つまり、今は食後のお昼寝中ってわけだ。

 ついでに言うと蘿蔔すずしろさんとなずなさんは仲良くお散歩に出かけられた。


「どうしますか、バミトントンでもしますか?」


 菘はどこからか、ラケットとシャトルを取り出した。


「別にやってもいいけど、その服でやるのか?」


 現在の菘の格好は––––相変わらずのゴスロリ服だ(この前一緒に買いに行った服だ)。

 キャンプなのにその服を着てくるとは、菘にはやはりTPOの概念は無いらしい。


「やろうと思えば出来なくはないです」


「お前この前、その服だと出来ないって断ってたじゃねーか!」


 菘は「そういえばそんなことも言いましたね……」と思い出すように言う。


「本音を言うと、あの時は『バミトントンをしましょう』と言った時点ではそれなりにやる気があったのですが、いざ外に出てみると物凄く暑かったので、やりたくなくなりました」


「このダメ吸血鬼!」


 まあ、暑いから––––太陽が出ているから出来ないという理由は、ある意味吸血鬼らしいけどさ。


「今日は涼しい方なので、問題ありません」


「なら少しだけやるか」


 というわけで、バミトントン(バドミントン)が始まる。

 まずは僕がかるーくシャトルを菘に向かって打つ。


往来閃空波おうらいせんくうは!」


「…………」


 僕は返ってきたシャトルを無言で打ち返した。


黒閃羅生門こくせんらしょうもん!」


「…………」


 僕は返ってきたシャトルを無言で打ち返した。


宵闇よいやみ翔烈破しょうれっぱ!」


「…………」


 僕は返ってきたシャトルを無言で打ち返した。


「あ、えーと……涼ヶ峰りょうがみね……アタック!」


 しかし菘のラケットは空振りし、シャトルは菘の頭の上に落ちた。


「あたっ」


「ネタ切れはや!」


 涼ヶ峰りょうがみねアタックって……小学生かよ。いや、小学生でも自分の苗字を使った必殺技なんか使わないぞ。


「湊さん、中々やりますね」


「何もしてないけどな」


「いえ、吸血鬼でもある私に付いてこれるのは湊さんくらいなものですよ」


 付いてこれるではなく、付き合ってあげているの間違いだと思う。


「ふぅーん、バミトントンね」


 いつの間か起きた芹が、興味深げにラケットを見ていた。

 ……涼ヶ峰りょうがみね家のバミトントン率やべぇな。


「やっと起きたのかよ」


「私は湊くんと違って朝から元気ってわけじゃないのよ」


 芹は何故か目線を下げた。


「どこを見ている」


「股間」


「オブラートに包めよ!」


「こぉかぁん〜」


「ビブラートを利かすな」


 寝起きだと言うのに芹は絶好調だ。


「ちょっと貸して」


 と芹は僕からラケットを取り上げた。


「おい」


「貸してって言ったわ」


「確かに言ったが許可はしてない」


「すずちゃん、勝負しましょう」


 芹は僕を無視して、菘に勝負を挑んでいた。まあ、別にいいけどさ。


「勝負をするのは構いませんが、寝起きで大丈夫なのですか?」


「大丈夫よ、七点先取で行きましょう」


 菘は「分かりました」と頷く。


「何か賭けますか?」


「じゃあ、勝った方が湊くんと同じ寝袋で」


「おい」


 ちなみに僕と二人の姉妹は、子供の頃からキャンプの時はずっと同じテントで寝ている。

 つまり今回は、三人とも僕のテントで寝る予定となっている。

 自分のテントに客人をお迎えするというのは、なんだかちょっとワクワクするな!


 まあ、それはさておき。


「大体同じ寝袋って、二人も入れないだろ」


「この前の二人用寝袋を買ったわ」


「抜かりねえ!」


「姉だけに」


「…………」


「とりあえず、私に1ポイントですね」


 僕は無言で頷いた。

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