009 『涼ヶ峰姉妹のゲームセンター』
今更になるけれど、学校における
芹は学校では基本クールな美少女を装っており、僕の前以外ではエロを封印し、大人しめに過ごしている。本人曰く、人間に擬態している––––らしい。
だけど妙に近寄り難い所があるらしく、人が寄り付かない。
でもそれは、僕のせいでもあるかもしれない。
最初の頃は多くの人から話しかけられていたものの––––いつも僕の近くにいるので(前も言ったけど、僕は他の生徒に避けられている)、次第に誰も芹には近付かなくなった。
……あれ、でも僕が避けられてるのは芹のせいなんだから––––うん、芹が悪い。全部芹が悪い。
まあとにかく、話を戻そう。
最近では先生に授業中に当てられる事もなくなり(毎回当てるたびに即答で答えを言うため)、ほとんどの人は朝の出欠確認以外で喋っている所を見たこともないんじゃないだろうか?
だが本人はその立ち位置をやたらと気に入っている。
曰く、「ボロが出ないから」だそうだ。
言動はアレな芹だけれども、世間を気にする常識はあるようで僕はホッとしてはいる。
反対に菘はみんなから大人気である。
そりゃそうだろう、整った顔立ちと、華奢ではあるもののスレンダーな体型はお人形さんみたいで可愛いと評判だし、ズレたセンスを含めてマスコット的な人気を集めているらしい。
可愛がられてるって感じかもしれない。
僕と菘は違うクラスなので、詳しくは知らないのだが、友達も多いそうだ。
正直、羨ましい。
まあ、こんな感じで対照的な学園生活を二人だが、自身がサキュバス、吸血鬼である事は周囲には秘密であり、学校でそれを知っているのは僕だけだ。
そして僕、
まあその代わりに、人ではないものには好かれているとは大した皮肉だが。
というわけで、僕は人ではない二人の姉妹とゲームセンターにやって来ていた。
来た理由は、菘がUFOキャッチャーで欲しいぬいぐるみがあるとの事で、その付き添いである。
ゲームセンターに入り、目的のUFOキャッチャーを見つけた菘は、早速千円札を両替しに行った。
僕は菘が取ろうとしているぬいぐるみを、ガラスに顔を近づけて確認する。
なんかやたらと縫い目の多い、継ぎ接ぎだらけのくまのぬいぐるみだった。
名前は、『つぎくまちゃん』と言うらしい。
正直、お世話にも可愛いとは言えない。
僕は菘がまだ両替をしているのを確認しつつ、芹に耳打ちする。
「なあ––––」
「あぁんっ」
芹は急に色っぽい声を出した。
「お前、変な声出すなよ!」
「急に耳に息を吹きかけないでちょうだい。私は耳が性感帯なのよ」
「知るかよ!」
せめて弱いと言って欲しい。
話が脱線してしまった。僕はUFOキャッチャーのマシーンを指差し、
「あのぬいぐるみ、可愛いと思う?」
と尋ねた。
芹はガラスに近付いてつぎくまちゃんを確認してから、振り返り首を振る。
「どこが可愛いのか全く分からないし、正直に言うとグロテスクとさえ感じるわ」
「だよなぁ」
まあ菘のセンスが微妙にズレていることは僕も芹も承知の上なので、特に何も言うまい。
「両替してきましたっ」
菘は少し弾んだ声で、こちらに戻って来た。
「正直、僕も芹もUFOキャッチャーは得意じゃないから、戦力にはなれないぞ」
「大丈夫ですよ、軍資金だけは沢山ありますので」
「いくらあるんだ?」
「十回は出来ますね」
ちなみにワンプレイ百円である。つまり、先程の千円が軍資金の全てってことだ。
こういう所のUFOキャッチャーというのは、一回で取るのは中々難しく、何回もプレイして徐々にヅラしながら落とすのが基本だ。
僕の見立てでは、多分千円では取れないような気もする。
まあ、とりあえず様子を見よう。
僕は菘がUFOキャッチャーにお金を入れ、アームを操作をしているのを黙って見守る。
一回目、ぬいぐるみを掴んだはいいものの、すぐに落下してしまった。
二回目、ぬいぐるみを掴む所までは良かったものの、持ち上げる寸前でアームが外れ落下してしまった。
三回目、四回目、五回目––––大体同じ感じだったので、割愛。
菘は肩を落としながら、こちらに戻ってきた。
「ま、まだ慌てるような時間じゃありません」
「お、おう……」
「……あと五回出来ますので」
「そうだな」
菘は気持ちを切り替え、再びUFOキャッチャーへと向かっていった。
たが、やっぱりこの調子だと千円で取るのは難しいという僕の予想は当たりそうだ。
僕は自分の財布を取り出し、中身を確認する。
……僕は財布としても戦力外だった。
「芹」
「この後、ホテル? もちろん行くわよ」
僕はその戯言を無視して、要件を尋ねる。
「お金ある?」
「お金なら私が出すわよ、早く行きましょう」
「いや、ホテルじゃなくて、アレ」
僕は現在八回目の挑戦を終えたであろう菘を指差した。
「あぁ、そっちね」
「うん、むしろ最初からそっちだけどね」
「貸すのは別に構わないけど、多分取れないと思うから無駄になるわよ」
「僕もそう思う」
菘は現在、九回目の挑戦中であり––––うん、多分今回も無理そうな予感がする。
でも、念のためにその動向を見守る。
菘は作戦を変えたようで、ぬいぐるみのタグにアームを通そうとしていたが––––見事に外していた。
しょんぼりと落ち込む菘。
こんな『 (´・ω・`) 』顔になっている。
その時、菘の元に何人かの女子高生が近付いて来た。
僕たちと同じ制服を着ているので、おそらく同級生とかだろう。
その女生徒達と菘は少し話した後、一人の女子がUFOキャッチャーを操作し、あっさりぬいぐるみを取ってしまった(先程、菘がやろうとしたアームをタグに通すやつをいとも簡単にしていた)。
そして、ゲットしたぬいぐるみを菘に渡した。
菘は最初は驚いた表情を浮かべていたものの、すぐに喜んだ表情を浮かべ、取ってくれた人にお礼を言っているようであった。
その後、菘とその女子グループは少し会話をしてから、女生徒達は出口の方へと向かって歩き出す。どうやら、帰るらしい。
菘はそれを手を振って見送った後、少しはしゃぎながらこちらにかけて来た。
「取ってもらっちゃいましたっ」
「知り合いか?」
「クラスメイトです」
「そうか、良かったな」
友達が多いってはいいもんだなぁと思った。
あの親しげな様子を見るに、菘はクラスでも上手くやっているのは容易に想像が付く。
「そういえば、プリクラを撮っていたと言っていました」
「女子高生って感じだな」
「あら、私達も女子高生よ」
と芹が口を挟んできた。
「今更、そこを強調されても反応に困るぞ」
「鈍いわね、私達もせっかくだからプリクラを撮っていこうって言ってるのよ」
菘も「それはいいですね」と同意する。
僕もなんとなく二人が撮るなら––––と付いていき、一緒に何枚かのプリを撮った。
その後、ラクガキを終え排出されたプリを見る。なんか、両手に花という言葉をかなり的確に表しているようなプリだ。
だが、一枚のプリにおかしなラクガキを見つけた。
そこには『人ガ異デ人デ無シ』と、黒い文字で呪いのように書かれていた。
当然、犯人は分かっている。
「おい菘、この文字はなんだ?」
「カッコよくないですか?」
僕は「どこがだよ……」と嘆息する。
「ほら、私は吸血鬼で姉さんはサキュバスですので人外であり、人とは
まあ本来の人で無しの意味は違いますけどね––––と菘は付け足した。
それを聞いて、僕の芹は顔を見合わせて苦笑した。
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