003 『涼ヶ峰芹の夜更かし』

「あ、まだ起きてたのね」


 夜中の一時を過ぎた頃、芹が僕の部屋に窓からではなく、ドアからやってきた。

 僕たちの家は隣同士かつ、距離も近いため––––窓から行き来できたりする(幼馴染同士でよくあるやつだ)。


 しかし、僕としては夜這いに来られると困るので、夜はちゃんと窓に鍵をかけている。

 そのため、窓からこちらに来るのは無理だ。


 だが、そんなことでは芹の夜這いを防ぐのは無理だったようで、今度は部屋のドアから来るようになってしまった。

 もちろん、深夜なので戸締りはちゃんとしてるし、両親は寝ているため玄関の戸が開く事もない––––のだが、何故かいつも侵入される。不思議だ。

 理由を一度聞いた事があるのだけれど、


「サキュバスなのだから、夜這いに来るのは当然でしょ?」


 と、はぐらかせられてしまった。

 というか、これは侵入出来る理由ではなく、侵入している理由である。

 なので、僕なりに考察してみたのだけど––––多分、夜這いをするためにサキュバス的な不思議パワーで忍び混んでいるに違いない。

 壁をすり抜けたりとか、鍵を不思議パワーで開けたりとか––––きっとそんなのだ。


 しかも夜這いをしに来ただけはあり、服装がとてもエロい。

 所謂ネグリジェと呼ばれる服だと思うが、色んな所が透けており、自慢のエチエチボディが色々見えている。


 まあ、とにかく帰ってもらおう。僕はとても忙しいのだ。


「自分の家に戻れよ」


「あら、お勉強をしているの?」


「テストが近いからな」


 というわけで、僕はテスト勉強でとても忙しい。なので、邪魔しないで帰って欲しい。


「真面目なのね」


「そうだよ、だから帰ってくれ」


 しかし、芹は僕の言うことなど聞かずにノートを除き込んできた。

 しかも、胸を僕の背中に押し付けながら。

 ちょー重い。


「邪魔すんなって言っただろ」


「勉強、教えてあげてもいいわよ」


 芹はアホそうに見えるが、実はとても賢いんだよね……。

 それに比べて僕は、そこまで頭がいいわけではない。


「教えてくれるのはいいけど、報酬を期待するなよ」


 芹はムッと唇を尖らせた。


「失礼ね、私は善意で教えてあげようとしてるのに……」


 なんだか、悪いことを言ってしまった。


「悪い、なら教えてくれるか?」


「じゃあ、保健体育からね。もちろん––––実技で」


「帰れ‼︎」


「女の子の身体……知りたくないのかしら?」


「今知りたいのは、数式の答えだけだ!」


「95」


 突然数字を言われて、一瞬思考が停止したものの、それが数式の答えを言っているのだと気が付いた。

 ……あってやがる。


「ちなみに今のは私のバストサイズでもあるわ」


「余計な情報まで教えなくていい!」


「乳首が結構感じやすいわ」


「だから、余計なことを言わなくていい‼︎」


「理想のプレイは乳首をギュってされながら––––」


「お前、ちょっと黙れよ!」


 こいつ、絶対僕の勉強を妨害しに来てる。

 仕方ない……このままでは、ずっと勉強を妨害されてしまいそうなので、僕は気分転換も兼ねて芹に話題を振ることにした。

 というか、話を変えてしまうことにした。


「そういえば、すずなはどうしたんだ?」


「もう寝たわ、あの子寝るのすごい早いのよ」


「夜の血族なのにな」


「本当よ––––でも、血を吸うなら朝の方が美味しいらしいから、間違ってるわけでもないそうよ」


「そういえば、言ってたな」


 病院でも採血は朝にやる––––とか、言ってた覚えがある。

 無駄に博識なやつだ。


「ちなみに精液は、三日目が美味しいとされてるわ––––三日間オナニーしてないでしょ、丁度食べ頃ね」


「なんで知ってるんだよ⁉︎」


 芹は「そりゃあ」と、横を向いた。視線の先にあるのは、洋服ダンスとゴミ箱くらいしかない。

 と言うことは––––


「まさか……衣服の匂いとかから分かるのか⁉︎」


「私くらいになれば本体の方でも分かるわ」


 芹は鼻をヒクヒクさせながら、僕に近付いてきた。

 ふわりといい匂いが漂ってくる。おまけに大きなバストが、嫌でも視界に入ってきた。


「ほら、お勉強をして疲れたでしょ––––おっぱい揉む?」


「揉まない」


「柔らかくて、あったかくて、幸せな気分になれるわよ?」


「今僕に必要なのは、勉強する時間だ!」


 だめだ、こんな奴に構っている場合じゃなかった。

 僕は数学のノートをしまい、今度は英語のノートを取り出した。


「次は英語?」


 僕は芹を無視して、単語を暗記するためにノートに書き写して行く。

 個人的には暗記カードよりも、こっちの方が覚えやすい。


「そこ、『e』じゃなくて『i』よ」


 芹に指摘され、僕は英単語を確認する。

 ……くそ、芹の指摘は正しい。


「ちなみに私のカップもIよ」


「なんでそうやって一々結び付けてくるんだよ!」


「いいじゃない––––ほら、そろそろベッドに行きましょう?」


「誘惑するなよ!」


「大丈夫、ちゃんと愛があるセックスをしてあげるわ––––Iカップだけに」


「全然上手くないぞ」


「じゃあ、Iがあれば、横になってHとなるわ」


「意味が分かんねーぞ」


 そう言うと、芹は僕からペンを取り上げてノートに文字を書き込んだ。

 その文字は『I』。

 だが、IはIではあるものの、『𝙸』こんな感じのIだった。

 そしてノートを横にすると、


「ほら、Hになったわ」


「……やるな」


 不覚にもちょっと上手いと思ってしまった。


「しかもHって、ベッドの形の少し似てるわよね。ほら、保健室とか病院にある感じのやつに。形で『エッチする場所』って表現するだなんて、小洒落てるわね」


「…………」


 芹の場合は上手いんじゃなくて、エロいが正解だった。

 そして、僕のテストの結果が散々だったのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る