魔法使いの卵
外からたくさんの物音も聞こえる。
この村に被害を出すわけにはいかないから急がねばならない。
「かまわないよ。アサヒ様と同じなんて光栄だし、アイテムの方が便利でも魔法を使うのも面白そう。別に魔法が使えたからって悪いことはないんだよね?」
「ないな。人前で使うと馬鹿にされるが、隠しておけばいいし」
「ならかまわない。皇子、お願い」
「わかった。ならこれを飲んで」
ぼくは門からある薬剤を取り出す。
これは賢者の弟子から話を聞いた後で手に入れたものだ。
「「魔力の吸収」と言ってね。近くに存在する全ての物から魔力を吸い取るものだ。これを飲めば君の体内に埋められている「魂の破壊」から全ての魔力を奪い、活動を停止させられる」
「それで幽霊が見えなくなるのね?」
「ああ、この薬は丸一日かけてごく小さい範囲の近くの魔力の全てを吸い尽くし消化され、飲んだ人間のものになる」
「それだけ?」
「ああ、だけどイリスの潜在的魔力になるだけですぐに使えるようなものじゃない。単純にイリスの魔法の才能が上がるだけだと思ってくれてもいい。何もしなければ何も変わるものはないと言ってもいいだろう。まあ、使いこなせるようになってもこの程度なら三流もいいところだけどね。やっぱりしっかり修行しないと。でもいいかい? それでも君はこれから魔法使いと名乗ることが出来てしまう。それを忘れないようにね」
「うん」
イリスはそう言ってあっと言う間に薬を飲んだ。
もう少し躊躇えばと思うほどの勢いだ。
「……? 何も変化がないよ」
「直ぐにはね。でも間違いなく君の幽霊を見てしまう体質はなくなるだろう。未練があるなら丸一日かけて心の整理をするといい。実感できるほどに見えなくなっていくと思うよ」
「そんなもの、……ないよ」
「その判断は自分ですればいい。でも「魔力の吸収」は強力なアイテムだ。完全に幽霊が見えなくなったら近くに誰も寄せ付けちゃ駄目だよ。最悪の場合周りの人間の少ない魔力を全て絞りとる。簡単に何人死んでもおかしくないからね」
「……気を付けるよ」
とにかく、これで話は終わった。あとはイリスたちの身の振り方だ。
「それでもしばらくはここにいてもらうよ。その方が色々と安全だし、イリスも自分が治っていくことがよくわかると思うからね」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、白い子に村の周りのアンデットを全滅させてもらおう」
「断るわ。私はできるだけクルギスの傍にいる。この村にはイリスを除いてもファイを筆頭にトール村の子供が五人もいるのでしょう? アンデットぐらい自分たちでなんとかして」
白い子はイリスの兄にそう言い放った。
「ああ、これ以上数が増えないならテンションも上がるってもんだ。あいつらと一緒に全部ぶっ倒してやるさ!」
そういってイリスの兄は宿屋を飛び出していき、すぐに轟音が響きだした。
「……うるさいわね」
白い子が不機嫌そうな声を出す。
「まあいいや、それでイリスはこれからどうするんだ? 幽霊は見えなくなるぞ」
「それなら私は皇子のところに行きたい。さっきも言ったけど王都も楽しかったし、皇子は嫌いじゃないから」
「気持ちは有難いが、せっかく本当の自由になったんだ。どこかに旅に行ってもいいんだぞ」
「いらない。元々旅なんてしたくはなかったから。私はただ逃げ出しただけ。できるなら村のみんなと安全な皇子のところにいたい」
「安全の保障はしないが、それなら好きにすればいい。それとぼくは誰かを背負う気なんてないからオルトの下。そしてその下の白い子の騎士団に所属してもらうから」
「いいよ。遠回しだけどやっぱりそれは皇子の下ってことでしょ」
とりあえず、これで一件落着だ。なんか全ての話が上手くいったらしい。
あとは茶髪の子たちの話だ。
笑顔の子たちは上手くやっているかな?
ぼくは白い子を通してアサヒに尋ねる。
「そっちはどうかな? 何か報告はあった?」
「ええ、ありました。ダンジョンの主が怒り心頭で王都を攻撃するようです」
……なんだと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます