身内の恥

 


「ねえ、イリス。命の危険があるんだけど、治してあげることが出来るかもしれない」


「……え?」


 イリスは完全に諦めていて、想像もしていなかった希望を示されて動揺する。


「ぼくを信用できるというのなら、できるだけ協力する。どうだろうか?」


 ぼくは出来るだけ優しい声音でイリスに尋ねる。


「ど、どうしたのクルギス! なんでイリスにはそんなに優しいの?」


 白い子がうるさいが、仕方がないことだ。


 ぼくはどうしても、イリスを治さねばならないのだから。


 これは自分の中にある色々な物を折ってでも、成し遂げねばならない身内の恥なのだ。


「かまわないよ。希望があるならたとえ結果的に死んでしまっても文句はないよ」


「だ、駄目だ! そんなのは!」


 色々な物を諦めてしまっているがゆえに大人しいイリスと、まだ諦めきれないイリスの兄。


 だが、何もしなければどうにもならないのだ。


 行動こそが、結果を生むのだから。


「安心してくれ、死ぬことはない。でもイリスには魔法使いになってもらうしかない」


「魔法使い?」


「ああ、アサヒ。いや初代の妹みたいなものだ」


「何故?」


 さて、ここが問題だ。


 イリスに賢者の弟子のことを話すかどうか。ぼく個人の事情で言えばなにも問題はない。


 何故ならぼくには責任はあっても罪はないからだ。


 だが、賢者の弟子はそうではない。


 イリスの両親を殺し、イリスだって助けたとはいえ殺しかけた。


 恨まれたり、復讐の対象になってもなにもおかしくはないのだ。


 だが賢者の弟子は身内であり、イリスはおそらくこれから部下のようなものになるのだ。


 隠し事は上手くないし、なによりも面倒だ。


 でも、まあ殺しあうなら殺しあえばいいか。


 身内同士で殺しあう家族なんて、世の中にいくらでもあるし。


 ぼくはあまり悩まずに、イリスに包み隠さず今回の事情を話した。


 逆上して衝動的にぼくに攻撃してきたら殺そうと思ったが、思ったより冷静だったので安心した。


「そう、あの人は賢者様の弟子なのね。是非、挨拶をしたかったわ」


「恨んでないのか?」


「恨めないよ。戦場なんだから命のやりとりは当たり前。殺されたって文句は言えないよ。それなのに貴重過ぎるアイテムを使ってまで助けてもらったし、何よりお父さんとお母さんの霊が初めに攻撃を仕掛けたのは自分たちだし、戦って死んだから未練はないってはっきり言って直ぐに成仏しちゃったし」


「ああ」


 死んだ両親の幽霊に直ぐ近くで復讐しろとか言われたらその気になったかもしれないが、満足して死後の世界に行かれてしまっては恨むこともできないのか。


「でも、結局これはどういうアイテムなんだろう。魂殺し?」


「まあ、あいつは詳しいことを全然知らないって言ってたから名前から推測するしかないな。「魂の破壊」だろう? まあ生きている人間と死んでいる人間の境目を壊してしまうようなものじゃないか? イリスの体から取り出して調べることが出来れば、もう少しわかるだろうが」


「ならそうして」


「残念だが君の心臓と一体化していてね。取り出したら死ぬよ」


「そう。ならわからないのね。でもだったらどうするの?」


「さっき聞かせた通り、アイテムから魔力を取る。だが、ぼくの持っている魔力を吸うアイテムは代わりの何かに取り出した魔力を入れなければならない」


「そうなの?」


「ああ、取り出した魔力を捨てるなんてもったいないからな。基本的にそんなアイテムをぼくは使わないんだ。だからってどこかに探しに行く時間はない。君たちも気づいているだろうが、アンデットたちがそろそろ行動を起こしそうだ」


 ぼくは気配と言うものを全く感じない人間だが、さっきから白い子に落ち着きがない。

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