余計なお世話と尻拭い
「どこに怪我をしたの?」
「わからないよ。とてつもない痛みだったのは覚えているのだけど。意識を失って気づいた時には体に傷はなかったの」
場所はわからない。
なら指輪を近づければいい。ぼくはイリスの頭から爪先までの全ての部位に指輪を向けてみる。
どうやら心臓の辺りに向けると、指が千切れそうに痛むようだ。
「……」
位置的に摘出は不可能だろうな。仕方ない。
あの愚かが過ぎる賢者の弟子の言葉を思い出そう。
★
「クルギス、お前も戦争に行けよ。面白いぞ」
何年か前、ある宗教国家でぼくは賢者の弟子を名乗る男に出会った。
「結構前だけど、戦場で出会った夫婦は強かったぜ。平和な場所では決して会えないほどにな」
ぼくは賢者を知っていたのでピンときた。
……ああ、この男は賢者に似ている。
「敵か味方もわからないのに、二人の間合い? とは言っても一キロ近くは離れていたはずなんだが。とにかく、一瞬で目の前に来たんでびっくりしてお師匠さんの残してくれた即死効果のアイテムを使っちまってよ。小国ぐらいの面積での戦争だったのに半分ぐらいの距離にいた人間を皆殺しにしちまったよ」
話を聞いていても賢者の弟子は自慢をしているのか、反省をしているのかよくわからない。
「誰か生きている奴がいないかと思ってしばらく探してな、一人だけ見つけたんだけどあの時はビビったぜ」
賢者の弟子は酒を飲み、笑いながらぼくに語る。
「お師匠さんが残してくれたアイテムだぜ。サードだぜ? それなのにガキが一人生き残ってたんだよ。もちろん無傷じゃなくて、おれが近づくまでなんとか生き残っていただけで、触ることが出来る距離に近づいたぐらいに死んだけどな」
それは本当に驚きだ。
サードと言えば国宝レベル。
個人で持てば一般人が英雄に成れるぐらい、強力なものだ。
「それでもあんまりにも面白くてそのアイテムを子供に食わせたんだ。何故って? お前もお師匠様に聞いたことがあるだろう? お師匠様の強力なアイテムは埒外の生命力を備えてる。場合やアイテムの種類にもよるが色々と悪いところが治るんだよ」
その話は確かに聞いた。
だが、サードのアイテムを殺してしまった子供に食べさせるなんて酔狂にも程がある。
「まあ、そのアイテムの詳細なんて知らないんだが。もしお前が出会ったらなんとかしてやってくれよ。どうせ常識では測れないほどの不幸なことになってるだろうからな」
それはそうだろう。
アイテムに備わっている生命力で命を繋いだとしても、人体にかかる影響やアイテムの効果が付きまとうはずだ。
だが、なんとかしてほしいのならせめて知っていることを全て話せ。
「あん? あー、そうだな。例えばおれは即死アイテムって呼んでたんだが、正式名称は「魂の破壊」とかって言ったな。人間に使うと必ず即死するんだが、本来の使い方ではないらしい。だからおそらく生き残ったガキには本来の効果が出たのかもしれないな」
あとは?そうだ、即死アイテムなのになんでお前は生き残っていたんだ?
対象を敵に限定するものではなくて、一定範囲に攻撃したんだろう。
当然お前も入っているはずだ。
「あん? そりゃ、あれだよおれは即死を無効化するアイテムを持ってんだ。数回で壊れちまうし、即死以外の死を逃れることはできないからランクは低いがな。その程度の効果のアイテムならお前だっていくつか持ってんだろう? アイテムのコレクションが趣味なんだから」
つまり、無効化が出来ないような効果のアイテムではないということだ。
だが、ぼくはサードのアイテムに出会ったことがないから詳しいことがまったくわからない。
「ああ、それと決定的な弱点が一つ。そのアイテムは魔力で動く。しかも溜め込み式だから魔力を抜いちまえば停止する。昔、魔法が天下を握ってた時代の影響で人や物から魔力を取り出すアイテムは世の中にたくさんあるからな。なんとかしてやってくれや」
……。
まあだったら大丈夫だな。
でもそんなに簡単だったらお前がやればいいだろう?
サードを持っている子供だし、顔は知っているんだ。
探しようはいくらでもあるだろう?
「バカタレ。おれ以外のお師匠さんの弟子たちも言ってただろう? おれたちはお前のことは何があっても守ることと、お前とたくさん遊んでやることを命令されてるんだ。お前は優秀過ぎるから世の中が退屈だろう?」
……。まあ確かにそうだが、守ってくれるのも有難迷惑だが、遊ぶってなんだ?
「ま、ああ見えてもお師匠さんはお前のことを気にしてんだよ。お前は特別だからな」
本当に余計なお世話だ。
★
色々と思い出した。
それと同時にぼくは頭を抱えてしまう。
「クルギス? どうしたの。大丈夫?」
「大丈夫だと嬉しいな」
つまり、あの男の失敗をぼくがなんとかしなければならない時がやってきたということだ。
次に会ったら、白い子をけしかけよう。
勢い余って殺してしまっても目を瞑るから。
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