支配の仕方

 


「クルギスは酷いですね!」


 子供たちを押し付けてから、一時間後に突然部屋に来たオルトに文句を言われている。


「おれだって忙しいんですからね!」


「それは仕方がない。執事だからね」


 一応、ぼくの唯一の手駒なのだから文句を言わずに働いてほしい。


 面倒だ。


「とにかくあの子たちには、クルギスの領地の店で働いてもらうことにしました。働くことに慣れたら店を持ってもらいますね」


「へえ、有能なの?」


「ええ、十四歳なら店を持つこともできるでしょうし、全員が戦うこと以外でもかなり優秀ですね、食堂、服飾、鍛冶屋、商人に分かれました。とりあえずアンナはメイドをしてもらいますし、アサヒさんはしばらくは相談役で、その後は魔法を教えたいと言ってました。教師ですね」


 一つだけとても大きな疑問が生まれた。


「メイド?」


「ええ、おれは執事ですからね。アンナはメイドでいいでしょう。クルギスは皇子なんですから身の回りの世話をする人間が多く必要なのに、今までおれ以外の人間を拒否していたでしょう。貴重な奇跡の子なんですから男だけの場所にはおれが、女だけの場所にはアンナにいってもらうことにします。奇跡の子より優秀な存在など、この世界には有り得ませんからね。他の子供たちも男の子は執事教育を、女の子はメイド教育を同時に進めます。クルギスの周りは出来るだけ信用できる人材で固めたいですから」


「言っておくが、子供達はぼくの味方じゃないぞ?」


 心を許す気なんてないのである。


「そんなことは言うまでもありませんよ、それは当然でしょう。心配はいりません。役に立てばよし、いざとなればおれとアンナで始末しますから」


 オルトはともかく。


「なんかさ、オルトは白い子を凄く買っているみたいだね」


「それは当然ですよ。同じ奇跡の子で心の底からクルギスに服従している。重宝しない理由なんて一つもないです。それに彼女はおれに凄く似ている。あの目が全てを表しているでしょう?」


「いや、あの目は怖すぎて」


 ぼくにはなかなか直視できない。


「そうかもしれませんね。あの目は信仰の目ですから。アンナはクルギスのことを神だと思っているのでしょう」


「それは、白い子の期待を裏切ったら殺されるってこと?」


 オルトは苦笑する。


「いえ、その程度の信仰ではないでしょう。クルギスがどんな失敗をしても何度期待を裏切っても、信仰心が失われることは有り得ません。クルギスが恐れなければいけないのは、もっと別のことだ」


 結局は恐れなければいけないのか。


「とにかく、おれがクルギスの右腕なら、アンナは左腕になると思います。少しだけ広い目で見てくれると嬉しいですね。なんだかおれは妹ができた気分ですから」


 なんて優秀な兄妹だ。嫌みにしか聞こえないだろう。


「アンナを中心に子供たちはクルギスの政策に役に立つと思いますよ。いつものようにクルギスの利益のために利用してくださいね」


 ぼくは自分の領地で独自の政策を打ち出している。


 この国では王が国の全ての権利を持ち、皇子たちがその次に力を持つ。その次が貴族だ。


 だが、皇子たちは国の領土の一部を与えられ自治権を持ちそこを収めるのが基本だ。


 この国では王子一人一人に領土が与えられ民が与えられる。そしてそれを自由にしていい権利ももらえる。


 ぼくの領土ではぼく以外の全てが平等であり、貴族に特権など与えていない。


 領地に入るのは自由で出るのも自由。


 その代わり法はとても厳しい。罪を犯したら死刑が当たり前。他の王子の領土に逃げようとも関係なく殺す。だから、罪を犯したい奴は外でやれというのが基本だ。


 どんな立場の人間であれ、平等に罪を裁くやり方は当然賛否両論ではあるが、平民や変わり者の貴族に評判がよく、ぼく個人の能力や評判も手伝ってこの国で一番栄えていると言っていい。


 他国から来た王族が、領地内で罪を犯したのでその場で死刑にしたことが、決定的にぼくの意思を民に伝えた。


 貴族たちからは敵視なんてものじゃないほどに嫌われているが、圧倒的な功績で黙らせている。この国では王子に口出しできるのは国王だけだが、これだけの利益を上げる優秀な皇子を裁くことなどは絶対にできない。


 それに、基本的にぼくは国王には逆らわないことも一つの要因だ。


 そして、今ぼくは他種族を領土に招く計画を立てている。


 有史以来、他種族との共存したコミュニティは存在しない。だがぼくの支配下では全ての存在は平等という意味でも、これ以上の文化の発達という意味でも必要なことだと思っている。


 基本的に他種族と接触するのは完全なタブーであり、絶対に有り得ないことではある。


 何より人間族が一番弱いので強い恐怖を感じるのが当然だ。ぼくの民に被害を出すことなど絶対に許されない。


 だが、子供たちをある程度の数、領土に置くことで解決するかもしれない問題でもあることは確かだ。子供たちが順当に強くなれば。


 一定の範囲ごとに他種族ですら絶対に勝てない法の証として、罪を犯しても逃げられる前にその場で殺すことが容易になる。


 まあアイテムで何とかしようと思っていたことではあるのだが。


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