呪いだけは解けた
呪われているため二十人の子供たちは隔離室にいる。
目的があるのでぼくは躊躇わずその中に入った。
子供達はたとえ呪われていても平和そうに、和やかに談笑していた。
その空間を壊すことには、躊躇いを覚えないこともない。
だが時間がもったいないので片っ端からハリセンで殴っていこうと思ったが、ぼくの急な行動にあせった白い子に後ろから羽交い絞めにされた。
「何をする?」
「せめて事情を説明させて!」
「時間の無駄だ」
「ほ、本気なのね。みんな!私たちの呪いを解く方法がわかったわ!」
白い子の言葉に子供達全員が騒ぎ出す。その瞳には希望が生まれていた。
そして白い子への質問責めが始まったようだ。
「本当か!」
「アンナ、どうすればいいんだ?」
「クルギスの持っているハリセンで殴られれば、呪いの模様が消えるの。大人しく殴られて!」
「ええ!殴られるのか?」
「早く覚悟を決めなさい!この部屋から逃げたら私が殺すわよ!」
「「ひっ!」」
「クルギス、手を離すけどあまり強く殴らないであげて!」
その白い子の言葉と共に、ぼくの体が自由になった。
即座に子供達全員を殴ろうと思ったが、ふと冷静になった。
「よく考えたらぼくが殴る必要はないか。ほら、きみがみんなを殴ってやるといい」
ぼくは白い子にハリセンを手渡した。
「私がやっていいの?なら」
白い子はおそらく、全く痛くないようにハリセンで一人の子供の頭をぺしっと叩いた。
「模様、消えないよ?」
だが、当たり前のように呪いは消えない。
「クルギス、どういうこと?」
「そんなに弱く殴って効果があるわけがないだろう。本気で殴るのが必要なんだ。だからこそ、本気で殴っても死なないようにハリセンにしたんだから」
「そうなの、じゃあ。いや私が本気で殴ったらハリセンでも簡単に死ぬわね。やっぱりクルギスがやって」
「結局、ぼくがやるのか?」
「やっぱり、強すぎるってのも色々と上手くいかないわね」
「てい!」
ぼくはハリセンで二十人の頭を順番に殴った。
すると効果は確かだったようで全員の呪いが解けた。
その証拠に模様が完全に消えている。
「女の子にも、まだ六歳の子にも何一つ遠慮すらしないのね」
白い子は戦慄したような顔でぼくを見ていた。
ただ呪いを治してもらっただけのくせに全く図々しい。
呪いを解かなくても国に被害がなかったり、国王の直々の命令でなければぼくが助けることなど決してなかったのに。
「やった!」
「これで、外に出られる!」
「うええええん!」
「みんな、よかったわね」
一足早く呪いが解けていた白い子が子供達に喜びの言葉を送った。
やはり、子供を呪うのが村の風習とはいっても不満がなかったわけではないのだろう。
呪いがかかっている以上、村の外に出してもらうことすら許されなかったのだろうから。
自由が欲しいというのは、子供なら当たり前の感情なのだから。
それは決して責められるような感情ではないはずだと思う。
「……」
いちいち、子供たちの喜びに水を差し、反発を受けるのは面倒なので騒ぎが落ち着くまで優雅に待つことにする。
適当なテーブルに座り、使用人に飲み物を持ってこさせる。
味にこだわりなど特にはないが、喉が渇いていたようでとても美味しく感じた。
しばらく経つと、喜びが収まってきた子供たちが白い子に話しかけてくる。
「ところで、アンナ。久しぶりね。今までなにやってたの?」
「クルギスの所にいたわ」
「誰だ、それ?」
白い子は、ぼくの方を指さしてきた。
「この人って、あたしたちを助けてくれた人よね?」
「そうよ。みんなはショックを受けてたから今までほとんど関わってなかったけど、名前はクルギスって言ってこの国の第十皇子よ」
「えっと、そんな凄い人があたしたちの呪いを解いてくれたの?」
「アンナじゃなかったのか?」
「クルギスが王様の命令で私たちの呪いを解く方法を探してくれたの」
「そうなんだ。ってことはあたしたちの呪いを解くためにここに来てくれたのね?」
「残念だけど、それだけじゃない。ついでに君たちに質問をしようと思ってきたんだ」
「質問?」
「きみたちはこれからどうする予定になってるんだ?」
ぼくはとりあえず思ったことを子供達に単刀直入に尋ねてみた。
「えっと、さっき偉い人たちが来て呪いが解けたら騎士団に入ってほしいって言われたわ」
「ふむ、それでどうするつもりなんだ?大人しく従うつもり?」
「意見が割れてるの。どうすればいいのかよくわからなくて」
「は?何を言っているんだ?」
「え?」
「お前たちは国王に買われたんだぞ。自由なんてあるわけがないだろう?」
「か、買われたってどういうことよ!」
必要な説明とはいえ、一々、噛みついてくるのが鬱陶しい。
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