反抗期
「どうもなにも意識が曖昧な状況だったとはいえ、お前たちは見ていただろう。ぼくが輝石を使って魔族と交渉していたことを」
それは、大前提の話だ。
「それは見てたけど、それが?」
「お前たちはぼくが魔族から輝石で買ったんだ。ぼくは王族だからね。悪魔の気を引けるものを偶然持っていて良かったよ」
「でもだったらなんで国王のものなの?あんたのじゃないの?」
強気な少女に、ぼくは答える。
「ぼくは君たちのことなんていらないから、国王に権利を渡したんだよ。君たちを助けたのは元々国王からの依頼だったしね。だから君たちはぼくに買われた時点で既に人間ではないんだ」
「ふざけんなよ!」
赤毛の少年が力任せにテーブルを殴り壊し、ぼくを睨みつけてきた。
「物を壊すのは感心しないな」
テーブル一つにだってお金がかかるのに。
「うるせえ!おれたちが人間じゃないだと!なにいってんだ!」
「君たちは買われたんだ。金銭で取引されるものは商品だろう?君たちはどこかの店で買ったものをいちいち全て人間だと主張しているのか?」
「おれたちは人間だって言ってんだよ!」
「いや、違うよ。きみたちはただの物だ。この国に買われたな」
それが現実だ。
「そんなこと受け入れられるか!おれたちはせっかく助かったんだぞ!」
「じゃあ君たちを助けたのはぼくだから問題はないな」
「恩に着せようってのか!」
「いや、ぼくはきみたちの命そのものを購入したんだ。きみたちの感情になんて関心はない。君が、いや君たちがなにをどう言おうと結論は変わらない。わめくだけ無駄だよ」
ぼくは子供達にはっきりと告げる。
今は人権を重視するような平和な時代ではないのだ。
人の命の軽さは保証できる。
「では、おれたちの扱いはこれからどうなるのでしょうか?」
子供たちのリーダー格と思われる、まともな冷静さを持っていそうな茶髪の子供が質問してきたが、残念なことにぼくにはあまり細かくはわからない。
この件に関しての責任者はぼくではないからだ。
「さあ、国王が決めるんじゃないか?君たちの持ち主はあの男だから」
「それは、あまりに無責任ではないですか、購入したのはあなたなのでしょう?」
「ぼくは国王にきみたちを買えと言われただけだ。ぼくが君たちを欲しかったわけじゃないよ。忙しい国王の代わりに君たちを直接買ったのがぼくだったというだけだ。いちいちぼくになんらかの責任が生じるような話じゃない」
「それは……」
「ほう、じゃあ今のうちにテメェを殺して逃げればいいんだろう?奴隷の首輪をつけなかったのは失敗だったな?」
あまりの怒りのせいか、赤毛の子から好戦的な発言が飛び出してきた。
「何故?そうは思えないが」
「実力差は歴然だぜ?それともおれらの強さすらわからねえか?」
「きみたちがどのぐらいの強さかは、大体わかっているつもりだよ。ところでそれがどうしたんだ?」
「くっくっく、なるほど城で王族の自分が殺されるわけがないとでも思ってんのか、世間知らずが!」
赤毛の子は周りの子供が止める間もなく、テーブルに置いてあったナイフを持ってぼくを攻撃してきた。
そして、ぼくの手前の数センチで止まった。
「な、なに?体が動かねえ」
「君は今、明確に反抗したな。そうでなくてもぼくを殺そうとしたのは間違いないな」
「てめぇ!なにしやがった!」
「ぼくはなにもしていないよ。したのはきみだろう?」
「なに?」
バカに説明するのは疲れる。
「きみにわかりやすく言えば、一定速度以上でぼくの半径一メートル以内に入ってくる全ての物体は動けなくなるアイテムを使っているんだよ」
「な、なんだと!」
「確かに、ぼくはきみたちの持ち主ではないよ。きみたちをどうこうする権利は持っていない。でもさあ、命を狙われた以上、やりかえしてもいいよね。当たり前の話として。正当防衛だ。殺そうとした以上は、殺されるよな」
「ひっ!お、お前ら!おれを守れよ!」
赤毛の子は、周りの子供たちに自分を守る命令をするが、咄嗟には誰も動けないようだ。
「別に何人が攻撃してきてもいいけど、正当防衛は成立するからな」
子どもたちは二つのパターンに分かれた。冷静な子供と、動揺している子供に分かれている。
冷静な子供はぼくがどこまでやるのかと、測っているし、動揺している子供は同族を助けなければならないが、ぼくに逆らってもいいのだろうかと考えているのだろう。
「きみたちは二十人もいるんだ。一人ぐらい死んでもいいよね?」
ナイフを奪って、赤毛の子供の心臓を狙って微塵の躊躇もなく振り下ろす。
だが、体に当たる瞬間に赤毛の子供が後ろに引っ張られてぼくの攻撃を逃れた。
「何するんだ?」
「それはこっちのセリフです!」
一番冷静に観察していた茶髪の子供が怒鳴った。
どうやら一定速度以下でぼくに近づいてきて赤毛の子供を助けたらしい。
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