ハリセンで殴れ!
白い子は呆気にとられたようにそう言った。
「トール村は所詮、戦うことが全ての村だ。呪いをかけるのも、解くのも別に大したものが必要なわけじゃない」
単純なのだ。
「本に書かれていたが、トール村の子供は大人になるまでスカルドラゴンとの戦いを禁止されていたらしい。スカルドラゴンと戦わなければ子供たちの呪いが解けることは決してないのだから、その呪いを維持するのにはそれだけで問題がなかったのだろう」
餌は、餌であればいい。
「そして具体的に説明すると、子供たちの呪いを解く方法はスカルドラゴンの魂を呪われている人間が取り込むことだったんだろうさ」
「うん?ならなんでハリセンにスカイドラゴンの魂を宿して頭を叩いたの?」
「トール村ではどうだか知らないが、王都ではスカルドラゴンは滅多にいないし、いても倒せない。つまり王都にはその魂があんまり存在しないんだ。一人に一つという使い捨てにはできないほどにね」
「ただ、呪いを解くのにスカルドラゴンの魂にただ触れるだけでは効果がないのなら、魂が宝石の中にある状態では身に着けるぐらいしか方法がなく、結局一人に一つ必要になる。だったらハリセンに魂を宿して子供を殴ることでただ触る以上に強く接触させ、呪いを消せないかと思った。結論として呪いを治せたことから考えると今回の場合はスカルドラゴンを宿したアイテムを正しい使い方をすることによって呪いは解けたと判断するべきだろう」
「正しい使い方?」
「ハリセンとは頭をしばくことが正しい用途だ」
「なんでハリセンなの?」
「剣に宿して斬られたり、銃に宿して撃たれることが望みか?」
「それは嫌だけど、もう少し方法はないの?」
「面倒だ。お前たちにはこれで十分だろう。戦闘民族なんだから痛みには強いはずだ」
「確かにそうだけど、凄く腹が立つわよ?」
「問題があるのか?」
「……いいけど、みんなには嫌われちゃうわよ」
「何か問題があるのか?」
「恨まれて襲われて殺されるかも」
「ぼくを殺すのは不可能だ」
それは断言できる。
「一番強い私が傍にいるから?でもいくら私でも村の人間を同時に二十人は……」
「お前が何かぼくの役に立つのか?」
ぼくは白い子に、心からの疑問をぶつけてみた。
「……クルギスが私に何の期待もしてないことは十分にわかったわ」
白い子は気落ちをしながら絞り出すように言った。
「そうか」
まあ、それは置いておいて。
だがこれではアサヒの呪いは解けないだろう。
その強さも桁違いだし、根本的に全く違う呪いと思った方がいいぐらいだ。
呪いを解くには他の手段を考える必要がある。
とりあえずぼくは国王のところに行って、今までの実験によってわかったことの説明をした。
「一時間もかからず解決するとは、相変わらずどんな頭脳をしておるのだ?」
「さあ、見たことがないので。とにかく呪いが解けるハリセンを渡すから」
「そのことだが、クルが全員を解呪してくれぬか?」
「つまり子供たちを全員、ぼくが殴れと?」
「そうだ」
「心が痛むな」
「ならばなぜハリセンにしたのだ?もっと穏便な物にすればよかったではないか」
「ぼくが殴らないのならいいかな、と」
「諦めよ。自分が呪いを解くことを想定しなかったのがらしくもないミスだ」
「いや、想定してたよ。多分、ぼくがやるんだろうなって」
「ならばなぜハリセンに?」
「心が痛んでも呪いを解けるなら別にいいかなって思って」
「そうか、では頼むぞ。子供たちは隔離室にいる。遠慮なく解呪するといい」
国王は気安くぼくに頼んだ。
子供たちを殴ってこいと。
「なんか、あなたたちってよく似てるわね。常識がある異常者と、色々なことの理解そのものができない異常者みたいな」
白い子が呆れたように言った。
「一応、余も賢い側の人間なんでな」
国王は少し誇らしげにそう言った。
「ねえ、クルギス。みんなの頭もそれで殴るの?」
白い子はどうしても不満があるようでぼくにしつこく尋ねてくる。
「うん、殴らなきゃ呪いが解けないからね」
「そのハリセンってスカルドラゴンの魂を吸収するためのものなんでしょ?別にハリセンじゃなくてもよかったでしょ?」
「いや、ダメだったよ。後になってからちゃんと調べたところ王都にスカルドラゴンの魂は一つしかなかったから一人に一つ使うなんて贅沢はやっぱり許されなかった。一つのものをたくさんの人間に使うしかないからね。簡単に消費することなんて許されない」
「後に調べたのね。まあそれはわかったけど、なんでハリセンなの?」
「剣や銃だと殺してしまうだろう?効果を十全に発揮させるためには道具を正しく使う必要がある。ハリセンなら本気で殴っても大きな音は鳴るし、痛いけど死ぬことはないだろう」
「それはそうだけど、ハリセンで殴られるってすごく屈辱よ?」
「屈辱だと何か問題があるのか?」
「プライドが傷つくじゃない?」
「プライドが傷つくと死ぬのか?」
「いや、死なないけど」
「じゃあ、問題はないな」
「そうかなあ」
ぼくはよくわからないことを言いながらとても不思議そうな顔をしている少女を放置して、呪いを解くために子供たちがいる部屋に移動した。
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